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阮籍9  劉昶さんと酒

劉昶りゅうちょう、という人がいる。


これがまた酒好きで、

どんな下人、薄汚いやつとも

平気で酒を飲み交わす。


おーおーやだやだ、

ある人が劉昶をバカにすると、

劉昶は答えるのだった。


「わしに勝るやつは、

 わしと飲まにゃならん。


 わしに勝てんやつも、

 わしと飲まにゃならん。


 なら、わしレベルのやつとは?

 わしと、飲まにゃならんよなあ?」



さて、この辺りの遊び心に敏感なのが、

我らが阮籍げんせきさんだ。


王戎おうじゅうが二十歳になり、おおっぴらに

酒が飲めるようになった。

なので阮籍の家に招待を受けた。

一緒に飲もうぜ! というのだ。


するとそこには、

かの劉昶さんも一緒にいた。


阮籍が言う。


「おう、来たな!

 ここに二斗ばかし、うまい酒がある!


 お前と、おれのぶんだ!

 劉昶にはやらん!」


えっ。

本人の前で、そんな。


そこから始まった酒盛りでは、

本当に劉昶には盃がまわされなかった。

とはいえ三人とも、めっちゃ楽しそうに

清談を交わしている。


訳がわからないのは周りの人たちである。

ある人が、なんですかこのいじめ、

と聞いた。


すると元籍は答えている。


「劉昶より上のやつとは、

 ともに飲まずにおれん。


 劉昶より下のやつとは、

 やはり飲んでやろう。


 ただ劉昶のやつとだけは、

 飲んでやらん!」




劉公榮與人飲酒,雜穢非類,人或譏之。答曰:「勝公榮者,不可不與飲;不如公榮者,亦不可不與飲;是公榮輩者,又不可不與飲。」故終日共飲而醉。

劉公榮の人と與に酒を飲めるに、穢非類を雑え、或る人は之を譏る。答えて曰く:「公榮に勝れる者、與に飲まざるべからず。公榮に如かざる者、亦た與に飲まざるべからず。是れ公榮が輩なる者、又た與に飲まざるべからじ」と。故に終日、共に飲みて、醉う。

(任誕4)


王戎弱冠詣阮籍,時劉公榮在坐。阮謂王曰:「偶有二斗美酒,當與君共飲。彼公榮者,無預焉。」二人交觴酬酢,公榮遂不得一桮。而言語談戲,三人無異。或有問之者,阮荅曰:「勝公榮者,不得不與飲酒;不如公榮者,不可不與飲酒;唯公榮,可不與飲酒。」

王戎は弱冠にして阮籍を詣づ。時に劉公榮が坐に在り。阮は王に謂うて曰く:「偶たま二斗なる美酒在り、當に君と共に飲まん。彼の公榮なるに、預かりたる無し」と。二人の觴を交わし酢を酬うに、公榮は遂に一なる桮をも得ず。而して言語にて談戲せるに、三人に異なる無し。或る者有りて之を問わば、阮は荅えて曰く:「公榮に勝れる者、與に酒を飲まざるを得ず。公榮に如かざる者、與に酒を飲まざるべからず。唯だ公榮のみ、與に酒を飲むべからじ」と。

(簡傲2)




なんだこれ(なんだこれ)


劉昶

沛国の人。ところで同時期の沛国劉氏にはとんでもない人がいてね……そう、あの劉伶りゅうれいさんである!(ズバァアーン)

劉伶との係累は不明だが、そうやって考えると謎の義理立て、みたいなラインで妄想はしたくなってくる。大体にして阮籍に、その内容がどうであれ「こいつとだけは……」と特別扱いされてるのはただ事ではない。

まあ、白眼視は「問題外の人間をシカトする振る舞い」で、青眼視の中でもリスペクト/ヘイトの別があったりするのかもしれない。


ってあれ? 白眼視の話世説新語にないの? マジか……

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