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蔡謨2  小蟹には毒がある

蔡謨さいもさんが永嘉えいかの乱を避け、

長江ちょうこうを渡ろうとした時のことだ。


河岸に彭蜞ほうきがいた。

毒のあるサワガニのことだ。


これを見て蔡謨さん、大喜びで言う。


「我が宗祖、蔡邕さいよう勧学かんがく編には、

 こう載っていたな!

 蟹に八足有り、

 加えて二つのハサミ有り、と!」


というわけで早速蔡謨さん、

彭蜞を煮させて、喰った。


ゲロ吐いて瀕死。

え、蟹じゃねえの? マ?


後日に蔡謨さん、

そんなことがあって難儀したんだぜー、と

謝尚しゃしょうに話した。


すると謝尚、苦笑する。


「あんたなぁ、

 爾雅じがをちゃんと読んでねえだろ。


 釈魚しゃくぎょ編の郭璞かくはく注にあるだろ、

 螖蠌こったく小者ろう、即彭蜞也、似蟹而小。

 そいつ、蟹そっくりとはいえ

 だいぶ小さかったんじゃないのか?


 ご先祖の言葉をありがたがんのはいいが、

 それで死んでちゃ世話ねえぞ!」




蔡司徒渡江,見彭蜞,大喜曰:「蟹有八足,加以二螯。」令烹之。既食,吐下委頓,方知非蟹。後向謝仁祖說此事,謝曰:「卿讀爾雅不熟,幾為勸學死。」


蔡司徒の江を渡れるに、彭蜞を見、大いに喜びて曰く:「蟹に八足有り、加えて二螯を以ちたり」と。令し之を烹さしむ。既に食わば、吐下し委頓し、方に蟹に非ざると知る。後に謝仁祖に向いて此の事を說かば、謝は曰く:「卿は爾雅を讀むこと熟ならざらんか、幾ばくぞ、勸學が為に死さんとは」と。


(紕漏3)




彭蜞

ここで謝尚が原文で言ってるのは「爾雅」だが、爾雅釈魚編の本文は「螖蠌小者蟧」でしかない。「即彭蜞也、似蟹而小」の部分は郭璞かくはく注。つまり郭璞注をワンセットで読んでなきゃ把握できないという事になるのだが、問題は郭璞がこの二人より若干早い程度の時代のひとだという事でな。いくら後の世に爾雅は郭璞注とワンセットで読むものだ、てきな通説が出来上がっていたであろうにせよ、ほぼ同時代で「爾雅=郭璞注」とまでなるのは難しいような気がする。


あー、けど荘子そうじ向秀しょうしゅう郭象かくしょう注がデフォルトになってたっぽいふいんきもあるしなあ。そんなもんなのかなあ。ちなみに「爾雅」とは類語辞典みたいな代物だよ、とのことです。


とはいえ、蟧が言うまでもなく彭蜞だって言う共通認識も存在してるとか? してるかもしれんよなぁ……。

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