のちに
かれは幼い頃、
その頃の郗氏は、もう
九十代にもなろうかとしている頃。
「おばあさま、目や耳の具合は
いかがなのでしょうか?」
と語りかける。
すると郗氏、凛と返答した。
「髪が白くなり、
歯が抜け落ちるのは、
身体に関係すること。
ならば、衰えても仕方ありません。
しかし目や耳は、
我が心に絡んでくるもの。
どうして人におくれを
取ることがありましょう?」
いや夫人、目や耳も
普通に身体ですよ……
王尚書惠嘗看王右軍夫人,問:「眼耳未覺惡不?」答曰:「髮白齒落,屬乎形骸;至於眼耳,關於神明,那可便與人隔?」
王尚書の惠は嘗て王右軍夫人を看るに、問うらく:「眼耳は未だ覺えの惡しからずや不や?」と。答えて曰く:「髮の白み齒の落つるは、形骸に屬したり。眼耳に至りては、神明に關わりたれば、那んぞ便ち人と隔たらんか?」と。
(賢媛31)
王恵
385 年生まれ。一方の郗氏は 313 生まれの