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01責めるべきは疑うことではなく確証を持たないこと

 俺、テナー・クエスは…………いや今はハテナ・クエッチョンか。

 俺、ハテナ・クエッチョンはライト帝国は第三騎兵団の特殊任務攻略隊に所属する軍人である。


 現在、デュアル・ディアール隊長率いる特殊任務攻略隊は帝都で行われる全帝国総合戦闘競技選手権大会に選手として潜入を行っている。


 何故俺が【総合戦闘競技】なんてもんをやらされているのかといえば。


 どうにも過激派テロ組織である【ワンスモア】が、大会を狙って何かをしでかそうとしているといえ情報が入った。


 【ワンスモア】は懐古主義者の集まりというか……【大変革】より前の世界、スキルやらステータスウインドウやらがあって魔物が居た世界こそが至高の世界であると考える集団だ。


 元はスキル至上主義者たちが世の中の変化に着いていけずに作った会合だった。

 旧セブン公国の解体された教会の連中やら貴族の連中やら公国騎士団の残党が創設して、こつこつと今の世の中で上手くいかねえ奴らを帝国だけじゃなくて外国からも集めて今の【ワンスモア】が出来上がった。


 まあ元の世界に戻したい! なんて、野郎共がとぐろを巻いて言い合っていても戻るわけもない。

 こいつらは人工的なスキルやステータスウインドウや魔物の、再現研究を行っているのだ。


 帝国はこれらのものを、歴史的な目的以外での研究や開発を固く禁じている。


 理由としてはいくつかあるが、それらが無くなったことで土地や人々が魔力で満たされて魔力革命が起こったとされているのが大きい。

 魔道具や魔動装置の開発が進んだし、人々は無詠唱での魔法発動や多種多様な系統を使えるようになった。


 帝国としてはこの魔力革命で得られる利益を損なうことをしたくはないのだ。


 そもそも魔物は災害だし、それを抑えるために存在していたとされたスキルやステータスウインドウは必要ない。


 まあ大人たちの中には多少なりともスキルを懐かしむ輩はいるにはいるが……俺くらいの世代にはもうピンとこない。

 確かに鼻たれの頃にはステータスウインドウやらもあったし『画家』ってスキルもあったが、二十年前の【大変革】の時に思ったのは「あ、これ使えなくなったんだー、へー」くらいなもんだ。

 それほどに俺の生活には支障がなかった。


 でも、そうは思わなかった連中も居たって話だ。


 【ワンスモア】の連中は、擬似スキルの実験を行うために人を誘拐拉致したりだとか、帝都の政治拠点を襲撃してスキルやらの研究開発の合法化を訴えたりだとか、人造魔物モドキを町に放ったりして被害を出したりだとか。


 結構無茶苦茶なことが横行している。

 最近も帝国内でスキルや魔物について纏めた資料が保管されている図書館や歴史館から資料を盗み出したり、冒険者だとかのアウトローな連中を使ってギルドに保管されてる資料を盗ませたりと【ワンスモア】絡みの事件は多い。


 そんな中で、最近しょっぴいた【ワンスモア】の下っ端から良からぬ計画を企てていることがわかった。


 どうにもこの全帝国総合戦闘競技選手権大会にいっちょ噛みしようとしているらしいのだ。


 下っ端過ぎてよくわかってねえのか具体性もないし要領を得ない。


 まあ要するに。

 全帝国総合戦闘競技選手権大会の準々決勝以降にやる帝国全土に流れる生放送を使って、なんかしでかす気なんだろう。


 俺たち特殊任務攻略隊は、選手として潜り込んでの大会参加者の警護というか防衛が任務だ。

 大会自体の開催を見送らせたり開催の延期だとかを行えばいいと思ったんだが、どうにもそうはいかないらしい。


 【総合戦闘競技】の興行には色々な利権やらが絡んで……、まあ言ってしまえば俺みたいな一兵卒じゃあ一生かかってもお目にかかれないような金が動く。

 軍の独断でどうにか出来る範疇を超えているらしい。


 それに、恐らく本戦出場選手の中にも【ワンスモア】の人間がいると踏んでいる。

 可能ならばそいつらも含めて一網打尽にする意味も兼ねて、俺たちは潜入をしている。


 具体的に出場選手の誰が【ワンスモア】なのかは不明だが、明らかに一人おかしな奴が紛れ込んでいる。


 チャコール・ポートマン。


 こいつはかなり怪しいというか……、意味がわからん。


 セブン地域代表の一人で、所属はサウシス魔法学校戦闘部。

 年齢は十八。

 身長、百九十三センチ。

 体重、九十キログラム。

 かなりの大男だ。


 若くてデカいだけじゃあ別に何も怪しかねえ、若者が健やかに成長しきって【総合戦闘競技】が強いってだけの話だ。


 だが、このチャコール・ポートマンはセブン地域予選でうちの隊員を打ち破って本戦出場権を得た。


 ありえねえ。

 ゾーラ……いやナゾーラ・ギメイって名前で出たんだっけか。ナゾーラは特殊任務攻略隊でも上から数えた方が早いくらいには実力者だ。


 確かに競技向けの訓練期間は短いし、付け焼き刃ではあるが多少制限のあるだけの戦闘状況下という想定の模擬戦ならむしろ特殊任務攻略部隊向けともいえる。

 だからこその人選なんだろう。


 だから天地がひっくり返っても、ちょいとばかし身体なデケェだけの模擬戦モドキに興じた若造がナゾーラに勝つなんて有り得ない。悪いがこれは事実だ。


 これでも特殊任務攻略隊は精鋭揃いだ。

 精鋭を自称するのは流石にどうかと思うが、自称できるくらいには自分の練度や技量を自覚している。


 まあルールのある競技なので競技性を専門とした人間なら競技の中で軍人にも勝利するだろう。

 精鋭は事実であって驕りではない、専門家を舐めるなんてことをするやつは特殊任務攻略部隊にはいない。


 実際他の地域でも何名か予選で敗退しているが……それでもナゾーラは敗退した面子の中では頭ひとつ抜きん出た実力者ではあるので余程の競技理解度と競技特化な専門家であると考えられたのだが。


 チャコール・ポートマンは初出場で戦績もない。専門家どころか競技においては素人もいいところだ。


 その点においてはナゾーラと同じラインに立っていたのにも関わらず、チャコール・ポートマンは勝利した。


 つまり、チャコール・ポートマンも我々と同じくかなり実戦に対しての訓練を受けてきたと考えられる。


 だが軍の士官学校だったり養成所にも入っていない。学者なんかの研究職や技術職を排出するサウシス魔法学校の一般市民の若者がそんな特殊な訓練を? かなり不自然で、異質だ。


 この時点でかなり怪しんだ俺は、チャコール・ポートマンを調査した。


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