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第25話 最悪の化学反応


 あの後俺は無事風香に怒られた。

 【あんたは女の子のことがわかっていない】って。


 ひどいよ…………俺男の子だもん。

 何なら、一ノ瀬さんからも連絡きた。


 YUME:【もっと家族でも気を使った方がいいよ~、これは偽装彼女からの忠告、だぞ♡】


 YUME:【あ、これは私からのありがたい忠告だから、飲み代一回で全然いいよ!】


 この人はあほなのか、絶対【全然】の使い方違うだろ。飲み会一回結構高いし。


 YUME:【あ、あとお姉さんに聞いておいて。いつが行ったら大丈夫かって。別に私は全然今日じゃなくてもいいからって! お姉さんも就活とかでも忙しいだろうし……】



 一ノ瀬さんは、ほんとにあとで会う気なんだ……

 コミュ力化け物かよ。

 さすがマドンナ…………いやギャルだからか?


 「風香、一ノ瀬さんから連絡きたよ~」


 「え、マジ?!」


 アイラインを引き終わった風香が慌てて洗面台から出てくる。


 「うんマジ、いつでもいいよって」


 「ほんと?!…………あーでも」


 喜んだかと思えば、すぐに曇った顔をする。


 「さっき来てもらったばかりなのに、今日会うのは悪いわよね~。……彼女って家近いの?」


 近いどころじゃなくて実際は隣である。

 もう徒歩1秒。


 たぶんベランダで呼ぶか、壁とんとんしても全然話は聞いてくれる。


 だけどさすがに風香に隣なんていうわけにはいかない。

 性の乱れだ、とか言われそうだし、なんか普通に気恥ずかしい。


 あと、彼氏と別れた直後に、隣の家だなんて言えるわけがない。

 たぶん泣く。

 だから…………


 「ち、近くだよ……行ったことはないけど。確か近い、最寄り駅も同じだよ」


 「彼女と近く、ぐすっ。でしょうね」


 「でしょうね?」


 近くでも半泣きかよ。隣だったら絶対号泣だったじゃん。


 「近くなきゃ料理作りにこない、だろうし……はぁでもまだ性の乱れはないだけましね、これで弟がやりまくってたら私もういきてけない私振られたばっかなのに」


 「いやなんで性の乱れがないって言えるの?あるかもしんないじゃん!」



 「いやないでしょ、だってさっき彼女にも童貞ってあおられてたし、まだ卒業させてもらえないんだろうなって」


 今度は姉から憐れんだ目で見られた。


 「やめい実の姉とそのような話はしとうない」


 「それは私もそうだわ、…………がんばれ」


 泣きたい。

 童貞の何が悪いっていうんだ。

 しかもこっちは童貞確定じゃないのに。

 いうなればシュレディンガーの童貞なのに。

 観測されるまではわからないっていうのに…………。


考えるのやめよう。俺の精神衛生上よくない。



 「で、どうする?別日にする?」


 「んーできれば今日とかにしてもらえたらありがたいかなー、なんだかんだ企業説明会とかあったり、友達と久々に飲んだりもするし、なんだかんだ予定入れてるのよねぇ」


 詳しく予定を聞けば、この姉暇な時間が本当に少ない。

 よくここまで綿密に予定を組んだもんだ。

 ある1日なんて、飲み会が3つ入ってるんだけど?


 「ああ、最初はOBと飲んで、そのあとはやけ酒会と独身会ね」


 インパクト強い飲み会だねそれ。

 頼むからそのあとうちにくんなよ?


 「東京にきて、ここぞとばかりに予定を詰め込むじゃん」


 「そりゃまた長野に監禁されるからね。遊べるうちに遊ばないと」


 もう気合の入り方が違うな。

 てか長野に監禁って。


 「じゃあちょっと一ノ瀬さんに聞いてみる」


 「うんよろー、でも無理しないでね?」


 「そんな心配しなくてもいいよ、一ノ瀬さんに連絡するぐらいできる」


 そこまで心配されてもな。

 一応偽装彼女だし、それくらいできる。

 何なら手つなぐくらい余裕よ。


 そう安心させるために言ったんだけど。

 風香からは冷たい目を向けられる。


 「いやあんたの無理とか知らないわよ、普通に一ノ瀬さんの予定を無理させないでね、ってことよ。わかれあほ、あと女心もわかればかあほ」


 「…………わかってたよ一ノ瀬さんのことも女心のことも」


 「女心は絶対わかってないでしょ、はぁもっとわからせるべきだったなぁ。私と空ちゃんで」


 やめてほしい、それもっといじめられたってことだろ。


 って返信きたな


 「一ノ瀬さん、今日の夜でも大丈夫だって!」


 そういうと明らかに風香の顔に喜色が浮かぶ。


 「そうなんだ、じゃあ化粧もうちょいちゃんとしないと!」


 「きつすぎないように、ね? たまに怖がられるんだから」


 「分かってるわよ!」


 大丈夫かなぁ…………。

 心配だなぁなんて思っていると、「あ」って言って戻ってくる。


 「た、確かに一ノ瀬ちゃんというか、夢ちゃんは外見こそ変わったけど、マドンナっぽかったわ。 でもまだ私は彼女をいい人って認めてないから、あとあの人の彼氏があんたってのも…………間違えた逆だったあんたの彼女ってことに納得してないんだからね!」


 なんか姉がめんどくさいことになった。

 というか絶対に最初のが本音だろ。


 もう明らかに一ノ瀬さんに肩入れしてるじゃん。


 というか弟にあまりにひどい言いぐさじゃないだろうか。

 弟がマドンナと付き合えた、じゃなくて、弟が釣り合わないって。


 でも客観的にそう見えるってことだもんなぁ。

 身内びいきがあってもそうだ

 …………身内びいき本当にあるか?


 やっぱジム行くか。

 もてるには男性フェロモンを増やさないと。

 …………つまり筋肉だ!


 …………だから決して一ノ瀬さんに見合うため、とかじゃない。

 自分のため自分のため。


 ──────────────────────────


 その日の夜。


 「夢ちゃんさいこぅぅぅぅ、わかるぅぅぅぅ、彼氏がいないからなんだって話だよねぇぇぇ、というか料理おいしすぎぃぃ!」


 「そうですそうです!恋人いるとかいないとかどうでもいいんですよぉぉ!でも納得できませんよ、お姉さんほど美しい人を振るなんてありえない!言語道断です!」


 一応あなた俺っていう偽装彼氏いるよ??


 「そうだよねぇ、私悪くないよねぇぇ、頑張ってるよねぇぇ」


 「ぜんっぜん悪くないです!こんなお姉さんを振るなんて相手の男の目は腐ってます!」


 「そうだそうだー」


 「ゆめちゃーん!!」


 「ふうかさーん!!」


 めんどくさい科学反応が起きた。


 …………どうしてこうなった。


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