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第57話 メシ屋にて勇気を出す 

「まあ、そういう事で、うちの兄はオールノット公爵と一緒に、外国からの不審者をあぶり出す為の駒にされていた訳。で、弱ってたアーシヤをフランツ王子に預けて、私とライガは犯人を追い、最終的にオールノット家の騎士達と一緒に捕縛したのよ」

「なるほど、こちらで聞いた話とほぼ同じ内容だね。今回は私達が情報に惑わされて、あんたの兄さんを疑ってしまった。悪かったね。帰国したコフィナとピーターソンからも、チカに詫びを伝えてくれと伝言を預ってたんだ」


 久々のメシ屋で、私はビー達に今回の顛末について報告した。以前にも軽く手紙で説明はしておいたが、やはり直接話しておく方お互いに納得できるし、余計なしこりも残らない。


「まあ、今回の事は一応、犯人が捕まったので、結果オーライという事で。お互い、自分達の信念に基き動いただけだしね。変な遺恨は残さす、また良き仲間として付き合えると嬉しいな」

「こちらこそだよ、チカ。今後とも宜しく頼むよ」


 私はビーと握手をかわす。


「ただ、結局のところ、裏で糸を引いていた黒幕の正体はわからないし、そこが心配なのよね」

「実行犯は白状してないのかい?」

「それが、さ。昨日ロバートが死んだと連絡がきたのよ」

「……死因は?」

「毒」

「毒? そいつが毒薬を隠しもっていて自殺したのかい?」

「それが……わからないので、問題になってる」


 ビーは無言で、ライガに目をやり、説明しろと合図をおくる。


「……ロバートの身体検査は3回行っている。一度目は、現場でオレとオールノット騎士団で。2回めは国立刑務所に到着後に。3回目は王国騎士団、防衛隊立ち会いのもと、風呂にも入れて、体を隅から隅まで洗い流した筈だった。なのに、死んだ。奴が毒をどこかに隠していたのか、あるいは誰かが奴に毒をもったのか、わからない」

「誰かが毒をもったか……」

「自殺か他殺か。我々にはどちらか探る手立てがない」

「だけど、他殺の可能性があるということは……。犯人はまた面倒な火種を残してくれたもんだね」


 そうなのだ、ロバートが自殺なら問題はないが、他殺だとしたら、誰が何の目的でやったのか。考えられる線としては、口封じだ。国王暗殺の為に、ロバートに力を貸していた誰が、保身の為にロバートを殺した。

 そいつは、厳重な警護下にあった彼を殺す事ができる地位と手段を持っているという事だ。

 謀反の意思を持つ誰がが、国王に近い位置にいる、かもしれない。そいつは、いつまた動きだすのかわからない。


 今回の実行犯は死んだ。

 だが、これで本当に事件が解決したと言えるのか。

 疑心暗鬼で不安な状況は、まだ続くのだ。スッキリしないけど、仕方ない。


「とりあえず、うちの兄は色々とダメージ受けて弱ってるんで、海外に保養にいかしたわ。私は公爵代理としての業務が忙しくなるし、残念だけどこれからは以前ほどこの店にもこれなくなりそうなの」

「そりゃ寂しくなるね」

「それで、ビーにお願いがあるんだけど」

「……あんたのお願いは、なんだかこわいねえ」


 ビーが苦笑いする。


「ひとつ目は、私個人の店の事。あらためて、私はオーナーとなり、店舗経営は委託という形でお願いしたいの。2つ目は、ナルニエント公爵からの仕事として、情報の提供を依頼したいのだけど、受けてもらえるかしら?」


「どちらもオーケーさ。仕事の依頼はこちらも有難いよ」

「では、契約書はまた担当者からたたき台を提出させるわね。詳細はまたつめていきましょう」

「いいね。で、3つ目はなんだい?」

「……あのさ、ライガはビーのとこの一族のメンバーでしょ?」

「ああ、そうだよ。何をいまさら」


 ビーも、そしてライガも、不思議そうに私を見る。一族というワードに反応したのか、ビーの弟のロンや他の男連中もこちらの話に聞き耳を立てたのがわかる。


(う……、なんか緊張する……。でも、この機会に確認しておこうって決めてきたじゃない。 よし、いくわよ)


 私は勇気をだして、聞いてみる。


「ライガは、今は私の剣士だけど、それ以前に北の一族の一員じゃない? そこから抜けるには何か方法があるのかしら?」

「ライガ……どういうことだい?」

「チカ、それってどういう意味だ?」


 ビーとライガが同時に声をあげた。


「あ、ちょっと待って、ビー。これは私個人からの質問で、ライガは何も知らないのよ。私が知りたいのは、んっと、ライガが属しているのは一族でしょ? つまり、私の命令より、一族の掟の方が重い訳じゃない? だから、掟より私を優先にしてもらうにはどうすればいいのかなって、ずっと考えてたの。勿論、ビー達にとっては良い人材を組織から奪われるのを良しとはしないとわかってはいるけど。でも、私にとってもライガはとても重要な人だし、その、なんというか、私専属の剣士になってほしい的な……」

「チカ、言っとくけど、一族は悪の組織じゃないんだし、本人の意思で抜けられるんだよ」

「え! そうなの?」

「そうさ。だから、あんたが聞くべき相手はあたしじゃなく、ライガ本人さ」


 そう言われて、ライガの顔をみる。

 ライガは、まだ不思議そうな表情のままだ。


「チカ、何かオレに不満があるのか? 確かにオレは一族の者ではあるが、チカを疎かにしてきたつもりはない」

「いや、あの、文句言うつもりはないのよ。えっと……」

「はっきり言ってくれ、チカ。何が足りていない?」

「ちょ、ちょっと待てよ! ライガ、お前、? なんでだよ?」


 ロンが驚いた顔で、ライガに詰め寄る。


「え……」

「ロン! 何ばかな事言ってんだい!」

「だって、今のライガの顔見ただろ、姉貴。本気でチカの考えがわかってないぜ。あり得ねえだろ」

「バカっ! チカの前だよ!」

「あ……っ! ヤベ! 俺うっかりして……」


 今度は私が彼らを見つめる番だった。

ライガは無言、ビーは苦虫を噛み潰したような表情で、ロンは焦っている。


 会話から察するに、ライガが人の考えを読める事を、彼らは私には内密にしてたようだ。そして、ライガは私が事を、未だにビー達に報告していない。

 本来なら私との関係も、全て逐一報告されている筈なのに。


(それって、ライガが掟より私の事を優先してくれてるってことよね。あ、何か嬉しくて泣きそう)


「……ライガ……」


 私はつい、我慢できずに、心の内を声に出してしまった。

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