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第50話 この世界私に厳しすぎるでしょ!

「なんなんだ!? なんなんだよあれは!?」


「うるせぇ! 叫んでる暇があるならモンスターをぶっ殺せ!」


「やってんだろぉがよ! テメェこそもっと動きやがれ!」


「なんだとテメェ!」


「駄目だ! 出て来るさきから殺られちまう!?」


「やめろ! 言い争う時間も、泣き言言う時間さえ惜しい一匹でも多くぶっ殺せ!」


 クソ! なんでこうなった!


 少し前まで俺らが優勢だった筈なのに、奴ら何も無い所に魔法を撃ったと思ったらタイミングよくモンスターが湧きやがる。


「おい、どうなってンだよ! なんであいつらが魔法使うとそこにモンスターが出てくんだよ! 何かのイカサマか!?」


「俺が知るか! クソ! クソ! 奴らどんなイカサマ使ってやがる。兎に角、今は一匹でも多くぶっ殺せ!」


「ふざけんな! さっきからそればっかじゃねぇか!」


「それ以外に何言えって言うんだ! あんなイカサマ相手に!」


 クソ! 何処で計画が狂ったんだ!? 俺は何を間違えた? あいつらさえ……、あいつらさえ居なければこんな事には……!?

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 うわ~、またすっごい睨まれてるな~……まーだプライド残ってるのかね?


 〈残ってると思いますよ〉


 だよね。


「やったよハクア。私達が一位だよ!」


「やりましたねご主人様! 流石です!」


「作戦勝ちゴブ」


「でも、まだまだ油断大敵かな」


「うん、気を引き締めて行こう」


「「「了解」」」


 うんうん。さっきまでの不安そうな空気が一気に良い感じになってきたね。やっぱり勢いって大事なんだなぁー。


「でも、あいつらまだ諦めないんだね?」


「そうですね。あんな卑怯な手を考える人達だから劣勢になったら簡単に諦めると思いました」


「まぁ、諦めないと思うよ」


「なんでかな?」


「あいつらはさ、卑怯な手を使ったとは考えてないんだよ」


「どう言う事?」


 私の言葉にエレオノは首を傾げる。さもありなん。


「あいつらにとっては卑怯な手じゃなくて只の努力なんだよ」


 だから反省しないし、悪いとも思わないから諦める理由にもならない。


 むしろそれを暴きたて、糾弾するギルドや私達は、努力してる自分達を責める只の悪者だと思ってるのだ。


「なにそれ? 自分勝手にも程があるよ!」


 怒る気持ちは分からなくもない。でも全部の人間が同じ方向から物を見ているとは限らない。


「それが私達とあいつらの違いだよ。それにさ、人間なんてそんなもんだよ」


 一つの方向から見ればアレだってルールの隙を突いた立派な戦略だ。ただ今回の趣旨と合っていないだけで、これが敵を含めてギルドの主催なら私もなにも言う気は無かった。


「自分達の努力を踏み躙る私達を倒す。このモチベーションがある限りあいつらは諦める事は無い。まぁこんな奴らだからこっちも容赦する気無いけどね」


「そっか……、難しくてよく分からなかったけど分かった。あいつらには負けたくない! だから勝とうねハクア!」


「うん、それだけ分かれば良いよ。頑張ろう皆」


 私がそう言って皆を見ると、皆は力強く首肯き返しそれぞれ討伐に戻って行く。


 しかしまだ動かないのか、ヘルさんはどう思う?


 〈判断材料は少ないですが……恐らくはマスターの考えている通りかと……〉


 う~ん、問題はあれがなんなのかだよね?


 〈はい、動機が分かれば行動も分かるのですが〉


 まぁ、今は気にしてもしょうがないから試合に集中……かな?


 〈はい、それがいいと思います〉


 私はヘルさんの同意を得て再び得点を引き離す為、指示を出し始めた。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「クソ! なんであいつらは動かねぇんだよリーダー!」


「そんなもん俺が知るか!」


 クソ! 約束が違うじゃねぇか! まさか……俺はあの時騙されたのか?


 三位のパーティーであるチームアキラは本当の所俺達の仲間だった。


 正確に言えば俺達の噂を聞いて仲間になりたいと言ってきたのだ。だから俺はあいつらを利用する為に仲間に引き入れた筈だった。


 ──あいつらを入れた理由は簡単に言えば決勝で俺達の支援をさせる為だ。


 前回の大会で俺達が一つのチームにスコアを集中しているのが露見した。


 だからこそ、今回の大会で俺達の仲間になりたいと言ってきたこいつらは、決勝戦でも疑われる事も無く支援や妨害が出来ると思った。


 ──それがチームアキラを引き入れた本当の理由だ。


 祭りが始まってあのガキ共が現れる迄、チームアキラは俺の言う事をよく聞く扱いやすい手駒だった──が、奴らが二位に浮上してきた次の日から、こいつらはいきなり言う事を聞かなくなった。


 ──挙げ句決勝戦ではこの様だ。


 クソ! 何がどうなってる! どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!


「おい、アキラいい加減にしろよテメェ! テメェらが仲間になりたいって言うから、こっちはわざわざ迎えてやったんだぞ!」


 俺は対に我慢できずアキラに詰め寄る。


 しかし、普段ならビクついてろくに会話すら出来ないアキラは、俺の顔をつまらなそうに一瞥する。


「五月蠅い黙れ」


「なんだとぉ!」


「黙れと言ったのが聞こえなかったか」


「ふざけんな! 高々Eクラスの癖に誰のお陰で今ここに居れると思ってンだ!」


 そうだ、こいつらが計画通り動いていればここまで苦しまずに勝てた筈だ。


「……頃合いか」


「はい、実力は大体把握しました」


「もぉ良いだろ! やろうぜ! 俺はもぉ我慢できねぇよ」


「黙りなさいグロス! ガダル様になんと言う口を聞くの!」


「うるせぇなカーチスカ。俺はガダル様に聞いてンだよ!」


「良いカーチスカ。グロスそんなにやりたいのか?」


「クはは、ガダル様にもわかってンだろ? あいつ、確かにステータスは弱ぇ──が、それを補うくれぇスキルの扱いがうめェゼ! それにありゃあ戦いなれてやがる。今もこっちを警戒して手の内を隠してるくれェだ。あれならグルドにまぐれでも勝てたのは分からなくもないぜ!」


 アキラ達は互の事を違う名前で呼びながら、俺の事を無視して訳の分からない会話を進める。


「カーチスカも同じ意見か?」


「はぁ、グロスごときと同じ意見と言うのは遺憾ですが、概ねは……」


「おい、カーチスカ俺ごときたぁどういう意味だ!」


「概ね……とはどういう事だ」


「報告によるとグルドを打倒した時は、多数の冒険者の力もあったとの事、彼女達の実力だけではありません。しかし同時に今は相応に力を付けてきています。これから先我らの障害になるやも知れません」


「ふっ、そうか」


「おいこら、何を無視してンだ!」


 なんなんだこいつら? いきなり俺を無視して変な話を始めやがって、お前らもか! お前らも俺をバカにするのか!?


 俺は苛立ちを隠そうともせず、何故か仲間からガダルと呼ばれていたアキラに手を伸ばし掴み掛かろうとする。


 だが、俺のその手がアキラを掴む事は無かった。


「人間ごときがガダル様に触れられると思うな!」


 俺の手がアキラに触れる瞬間、カーチスカと呼ばれていた女が叫びながらそう言った。


 ──ボトッと、何かが落ちるような音。


「あっ?」


 自分でも間抜けだと思う声を出す。


 そして気が付くと俺の腕から先が無くなり、いつの間にか地面へと落ちていた。


「あっ、アァぁぁガァぁいあ! う、腕がオでの腕がぁぁあ!」


「ふん、こんな物」


 女はそう言って俺の落ちた腕を魔法で消炭にする。


「あぁぁあ、腕が俺の腕がぁぁぁああ!」


「な、何してやがる!」


 腕が切り落とされ俺が痛みに叫んでいると、俺のパーティーの奴らが気が付きアキラのパーティーへと斬りかかる。


「この、死ね!」


 俺のパーティーは五人で前衛が四人、後衛の死霊術師が一人のパーティーだ。俺がやられた事で三人になったがEランク如きに倒せる奴等ではない。


 俺はそう思い自分の腕を切り落とし消炭にしてくれた女が、無惨に殺られる所を見る。


 ──筈だった。


「お前ぇらのような雑魚に興味ネェンだよ!」


 グロスと呼ばれていた男が何処から出したのか、身の丈程もある大剣を取り出し目にも止まらぬ早さで振り下ろす。


 ──俺が見たのはその大剣が振り下ろされた事で起こった結果だった。


 俺の仲間だった奴らの足はひしゃげ、腕が吹き飛び、胴は潰され、何が起こったのかも分からずに驚愕のまま目を見開き死んでいく仲間の姿。


「イギァァアガアナ!」


 その内の一人、一緒に斬りかかったが運悪く死ぬ事が出来なかった奴は、ひしゃげた足を吹き飛ばされて、もう存在しない腕で必死に掴もうとする──が。


「チッ、まだ生きてやがるか。しぶてぇ虫だなぁ。よっと」


 調子で大剣を振り下ろす。


 ブジヂァッ!


 人が出せる音ではない。


 人から出る音でもない。


 そんな音を鳴らしながら振り下ろされた大剣の先には、かつて仲間だった筈の肉片と血がばら蒔かれる。


 ──まるで虫だ。羽虫を叩き落とすように振られた大剣が、当然のように虫を潰している。


 そこにあるのは人の命を奪うなんて行為ではない。


「う、うぁぁぁあ!」


 それを見て固まっていた死霊術師が我に返りスケルトンを呼び出した。


「邪魔よ?」


 しかし、女が一言呟くと死霊術師が呼び出した筈のスケルトンは一斉に死霊術師に向き直り、手に持つ剣を死霊術師に突き刺し始め、死霊術士の身体は数多の剣に突き刺され持ち上げられる。


「イギァァァガァ! な、なンでおでが、ごうげき、ざれてェ……」


「そのまま殺しなさい」


「や、ヤベデ、じにだぐなぁ……ギャァァァ!!」


 ザンッ! グチャ! ブチュ!


 死霊術師は最後にそう言い残し、自分で呼び出したスケルトンに空中で幾つものパーツへと分解されていく。


「あ、ああぁぁぁあぁあ」


 その血を浴びてカタカタと歓喜するような、血濡れのスケルトンに俺の口からは言葉にも悲鳴にもならない声が漏れる。


「次は貴方ね。ガダル様に触れようとした事を後悔なさい」


 女がそう言って俺に手を翳すと、俺の体の中が急激に熱を帯びたように熱くなり、血が沸騰しそのまま肌まで沸騰して全身が泡立ち始める。


「イギァガァ! 熱い、苦しいダズゲテ、……イヤだ、じにだぐなぁイ、ダレガだず……」


 ブチャッ! と、自分の身体が弾ける音がした。その音を最後に俺の体の至る所が弾け飛び俺の意識は朦朧とする。


「さあ、ごみ掃除は終わった次は貴様だ」


 最後にそんな声が聞こえ俺の意識は消え去っ──。

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 クソ! 間に合わなかった。別に絶対助けたかった訳では無いけど目の前でこんな死に方されるのは寝覚めが悪い。


「さあ、ごみ掃除は終わった次は貴様だ」


 私の目の前で冒険者の男を殺した奴がそう言い放つ。


 ねえ、この世界絶対強制死亡イベントあるでしょ?


『シルフィン:だから違いますって』


 スケルトン祭り決勝戦の最後に死亡イベントとしか思えないものが始まった。


 この世界私に厳しすぎるでしょ!

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