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第55話 なんとか行けるかな?

「クソ! 魔族が相手だなんて聞いてねぇぞ!」


「ここまで来て泣き言言ってももう遅いよ?」


 次々に駆け付けて来た冒険者の数は総勢二十四名になった。恐らくアリシア達の方も同じ位行っている筈だ。


 しかしこれ、アカンくないかい? 一応対抗は出来てるけどそれも本当に一応ってくらい。しかも対応出来てるのはその中の六人位、後の人間はその六人がフォローしてるから生きてるだけだよね?


「ふむ、あんた名前は? それとクラスは?」


「えっ!? わ、私?」


「そう」


 私は状況を整える為、まずは私を回復魔法で治していた女の人に話し掛ける。


「私はリドビア、クラスは僧侶よ」


「回復魔法と他にはサポート魔法何かある?」


「な、なんでそんな事まであんたに言わなきゃ──」


「あんたでも見れば分かる筈だ。一部の人間以外は相手になってない。それどころかフォローに回ってるから逆に動けなくなってる」


「それは……確かに」


「だからあの六人を中心にフォローする形に切り替える。その為には魔法のサポートが出来る人間の事を知らないと組み立てにくい」


 私の説明を聞いたリドビアは感情はさて置き、頭では私の言葉を理解したのか嫌な顔をしながらも口を開く。


「はぁもう、わかったわよ! 私が出来るのはレベル5の回復魔法、レベル4の結界魔法よ! あっちに居る三人もサポート主体の筈よ!」


「分かった! 悪いけどリドビアはあっちに渡りつけて四人で回復のローテ組んで」


「分かったわ! 貴女は?」


「奴の一番の関心は私だから前に出る。それと同時に盾以外の邪魔なのは蹴り出すから、あんた達の護衛に回して」


 私の話に首肯いたリドビアは他のパーティーの僧侶の元に走って行く。


 それを確認した私は風縮を発動し、グロスとの距離を一気に詰めさっきのように風爪で斬り付ける。


「クハハハハ! ようやく戻って来たかハクアよォ!」


「ヤッホー、ただいま!」


 グロスの言葉に軽口を叩きつつ近くにいた数人の冒険者を、風魔法を使いグロスの間合いの外まで吹き飛ばす。


「ぎゃあ!」


「な、なんだ!」


「何しやがる!」


 吹き飛ばした私に罵声が飛ぶも、そのまま無視してグロスの横薙ぎの大剣を後ろに飛びながら避ける。


 ──だが、グロスの大剣は避けると同時に切り返し、燕返しのように再び私に向かって生き物のように追って来た。


 私は着地と同時に風縮で前へと間合いを詰め【疫崩拳】に【魔拳】スキルを使い、ウインドブラストを込め鳩尾目掛けて叩き込む攻防一体の動きでなんとか凌ぐ。


 攻撃はクリーンヒット。


 しかしグロスは一メートル程地面に線を描きながら後退するがそれだけで耐え抜いた。


 その隙に後衛職の冒険者が魔法を放ち援護射撃が飛ぶ。


「ウインドブラスト」


「ウインドカッター」


「アースクエイク」


「ファイアアロー」


「しゃらくせー!!」


 叫びと共に地面へ大剣を突き刺すと地面が捲り上がり壁のようにそびえ立ち、援護に放たれた魔法を次々と受け止め阻む。


「クソ! 【斬岩壁】で防がれたか!」


「今の内に聞いて、あんたとあんた達、後はそこの奴と盾以外は離れて。力不足」


「なんだと!」


「いや、嬢ちゃんのいう通りだ!」


 私の言葉に恐らくこの中で一番の実力者である、左目の所に傷痕があるオッサンが同意する。


「あんたがアタッカー決めて」


「俺で良いのかい? 嬢ちゃんはどうする?」


「多分あんたが一番強い、だから任せる。あれの狙いは私だから私は遊撃する。あれは物理系は強いけど魔法には弱い、リーダーは後ろの奴で何時動くか分からないから、外した奴は回復役の護衛とあれの警戒よろしく」


「ほう、分かった! 直ぐに行く。少し持たせろ!」


「了解」


 私はオッサンに伝えるべき事を伝え再びグロスに向かう。


 するとグロスは目の前の自分で作った壁を壊し、その勢いで残骸を飛ばして来た。


「ぎゃあ!」


「ぐわぁ!」


「ごぶっ!」


 飛ばされた残骸に当たり何人かの冒険者が直ぐには復帰出来ない程の傷を負ったようだ。


 だが私はそれに構わず旋刃鼬に土や石を加えて放ち、その影に身を潜めそのまま突き進む。


「来たな! 何度も食らうかよぉ!」


 グロスはそう言って旋刃鼬を避ける──が、その時私は魔法を目隠しにグロスの後ろに回り込んでいた。


 そして今度は暁と宵闇に魔力を纏わせ構えると、先の冒険者との攻防で傷付いた背中の傷口へと短剣を突き入れ【魔剣】スキルを使い体の内部に魔法を直接放つ。


「グァ! クか、捕まえたぞ!」


「くっ! ああぁ!」


 魔法を放つ一瞬の隙に私の腕を掴んだグロスは、そのまま私の腕を木の枝でも折るかのように簡単に握り潰す。


 このまま追撃が来るかと身構えるが、しかしグロスはその直後に私の手を離し大剣で自分の後ろへと斬り掛かる。


 金属のぶつかる音と共に盾職の冒険者が攻撃を受け止める。


 どうやら私へ意識が集中している隙に背後に回っていたようだ。


「ヘイトブロー」


 ヘイトブローはナイトのクラスで覚える武技で、使われた相手は使用者を攻撃したくなる物だ、これはレベルが上がるとより効果が上がる。


 別スキルの【挑発】を併用して使う事で更に効果も上げられるのだが……。


「ハッ! 効かねぇな」


「あばっ!?」


 そう言いながら大剣を無造作に振り、盾を持った冒険者を盾ごと真っ二つに斬り伏せる。


「テメェ!」


 最初からいい勝負をしていた残りの冒険者がグロスに斬り掛かって攻撃していく、流石にこの圧力は持たないと考えたのか、グロスは初めて私達との距離を取り一息つく。


「ククッ! 愉しぃネェ! 次はどうすンだぁ」


「クソ! 化けもんだな! この後はどうすんだ嬢ちゃん!」


「どうもこうも無い。少しづつでも良いから削りきる!」


「たくっ! それしかねぇか! 行くぞっ! 嬢ちゃんに負けんなよ!」


「「「おう!」」」


 グロス

 HP:1500/3000

 MP:600/1000


 HPは後半分、なんとか行けるかな?

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 カーチスカと呼ばれた魔族が特大の魔法を放った直後、アリシアとコロは土魔法で壁を作り上げ、逆に私達の居る部分に落とし穴のようなものを作り爆炎を回避する。


 しかし、その凄まじい衝撃に皆が吹き飛ばされてしまった。


「皆、大丈夫!」


「うっ、くっ、つぅ!」


「うっ、大……丈夫かな」


「ゴ……ブ~」


「アリシアこれ飲んで」


 後衛なのに防御の為に前に出てダメージの大きいアリシアに回復薬を飲ませながら、私はカーチスカに注意を払う。


「小娘共よくも私の体に傷を付けてくれたわね!」


 まずい! そう思った私はアクアに皆の回復を頼み、一人カーチスカに向かって走り出す。


 カーチスカはそんな私に腕と同化した鞭を振るい攻撃を仕掛ける。


 私は上から降るように落ちてくる鞭を左に小さく飛んで回避しながら、少しづつ慎重に、だが可能な限り素早く距離を詰めていく。


 ハクア曰く鞭はしなりがある為、受け止めると逆にダメージが多くなる可能性があり、受け止めるのはどうしても回避が出来ない時のみにした方が良いらしい。


 鞭を回避すると私に回避された鞭は蛇のように動き、足を狙って絡み付いて来た。


 私は脚と鞭の僅かな隙間に剣を差しこみ、変則的ながらパワースイングを放ち、絡み付く鞭を地面もろとも断ち切ろうとした──が、鞭の弾力に隙間を拡げる事しか出来ず、仕方がなく攻撃ではなく脱出する。


 それでもいっぱいいっぱいだけど!


 脚を抜いた私はそのまま真空斬りをカーチスカに向けて放ち、牽制しつつ再び疾走する。


 更にファイアブラストをカーチスカの足元に着弾させ、爆炎と土埃で視界を封じこる。


 その間にカーチスカの死角に回り込み、ハクアに教わった魔力を刃に纏わせる業を使い、切れ味と破壊力を上げると剣技ブラッドソードを当てHPを回復しながら攻撃を繰り返す。


「まさかその程度?」


「っ?」


 そう言い放った瞬間、カーチスカの周りに炎の壁が現れ私の腕を焼いた。


「うぁぁあぁあぁ!」


 私は僅かに逃げ遅れ肘から先を焼かれてしまう。


「うっ! かっはっ!」


 腕の痛みに一瞬隙ができ、カーチスカの攻撃が私の腹部を打ち据え、肋骨を折られながら吹き飛ばされてしまう。


 吹き飛ばされ地面を転がる私は不意に何かに受け止められる。


「お嬢ちゃん大丈夫かい?」


「かはっ! あ……なた……は……」


「無理に喋らなくて良い。おい、回復を頼む」


「は、はい」


 私を受け止めてくれた男の人は、一緒に居た女の子に私の回復を頼みカーチスカを見つめる。


「あっち……私の仲間……が……」


「大丈夫だ。向こうの子達の所にも他の冒険者が行ってる。勿論あの白いお嬢ちゃんの所にもな」


「あの魔族は、魔法……主体……だから、……物理の攻……撃を……」


「分かった。しかし参ったな、向こうには相手が二人居るから、力のある冒険者はほとんど向こうに行っちまった」


「ッ!」


「安心しなそれでもなんとかなるさ!」


「あら? それは面白い冗談ね?」


「危ない!」


 カーチスカの声が聞こえると同時に、私の腕を治療してくれていた女の子を抱き締め思いきり横に飛んだ。


 しかし、私達を狙った攻撃の爆風をまともに食らい、思いきり吹き飛ばされてしまう私達。


 それでも女の子を守るため衝撃に備えて私はよりきつく抱き締める。


 何かを破壊する音と共に衝撃が私の体を叩く、そして朦朧とする意識の中──。


(──か?)


 私は確かに頭の中に流れる誰かの声を聞いた。

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