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第56話 このまま……彼女を倒します!

 カーチスカの魔法に対してコロと二人で土魔法で防御した後、私は気が付くとアクアに治療されている最中だった。


「大丈夫ゴブ?」


「気が付いたかな?」


「はい、大丈夫です」


 二人の声に応え返事をした私が見たのは、一人カーチスカの攻撃を避けながら疾走するエレオノの姿。


「すごい……」


 治療が終わらずまだ動けずにいた私は、その姿に感嘆の声を漏らす。


 あの動きは私には無理ですね……。


 私の目の前でエレオノはカーチスカに負けず劣らずの戦闘を繰り広げる。


 エレオノを見てそんな事を思うほど彼女は急激に強くなっていた。


 とはいえ、最初の頃は少し剣の稽古を父親から受けていただけですから、そこと比べるのがまず間違いですかね?


 でもやっぱり私はステータスが上がってもアレは出来なそう。


 弓も辞めて、完全に魔法だけに絞るべきでしょうか? うーん……悩み所ですね。後でご主人様に相談してみた方が良いかもしれませんね。


「あっ!」


「エレオノ!」


 そんな事を考えて居ると、やっとの事でカーチスカに辿り着き攻撃を加えたエレオノが、炎の壁に腕を焼かれながらなんとか逃げるのが見える。


「くっ!」


「ボクもっ!」


「二人共治ってない!」


「「でも」」


 〈大丈夫です。今到着しました〉


 到着?


 ヘルさんの言葉に私は首を傾げるが、その理由は直ぐに分かった。


 魔法を受け動きが止まった所で、カーチスカから攻撃を食らい吹き飛ばされたエレオノを支える一人の男性と女の子が見え、こちらに駆け寄って来る十四人の冒険者も見える。


「これは?」


 〈どうやら、この事態を見ていたギルドが緊急依頼として冒険者にクエストを出したようですね〉


「それは私達の方だけですか!?」


 〈安心してください。マスターの方にはこちらより人数が行っています〉


 それを聞いた私は安堵と共にどうするべきかを考える。


 ここは彼等に任せて私達はご主人様を助けに行くべきでしょうか?


 〈確かに一案ではありますが、ここで倒せるなら倒した方がマスターの負担が確実に減らせます〉


 それもそうですね。


 ヘルさんと動きについて話していると、こちらに駈け寄って来た冒険者達が話し掛けてくる。


「嬢ちゃん達大丈夫かい?」


「良く頑張ったな!」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫です。今治療も終わりましたし、それよりもあの魔族は魔法主体で物理の方が効きやすく、魔法の攻撃力が高いので気を付けて下さい」


「分かった。あんた達は?」


「このまま……彼女を倒します!」


「分かった。じゃあ援護を頼む」


 私の言葉に応えた助っ人はそう言うと、全員が頷きカーチスカに向かっていく。


 カーチスカはちらりと視線を寄越すと腕と同化した鞭で牽制の一撃を放った。


 その攻撃を盾職の男性が盾で受け止める───が。


「うわ! ぎゃあ!」


 ご主人様に教わった通り、鞭を盾で受け止めた事で鞭がしなり冒険者の男性を打ち据える。


 対処が分かってない?


 〈どうやら、高ランクの冒険者は余り居ないようですね〉


 ヘルさんの言葉通り、あまり連携も取ろうとしていないようだし、所詮は一人と侮った空気を醸し出している人もいた。


 アレではダメです!


 そう思った瞬間、カーチスカの放った魔法に大半の冒険者が吹き飛ばされ、何人かはなんとか耐えているがダメージは大きく直ぐには動けない。


 そんな冒険者達にカーチスカはそのまま追撃を仕掛けようとする。


「ダメ!」


 私は聞こえて欲しいと願いつつ叫ぶ──だが。


「あら? それは面白い冗談ね?」


 私の言葉にクスリと笑い、それを嘲笑うように治療を施されていたエレオノに魔法を放つ。


 エレオノはいち早くそれに気が付くと、自分の事を治療してくれていた女の子を庇い爆風を受け吹き飛ばされてしまう。


 私はそれを見て追撃させまいと魔法を放つ。


「アイスニードル!」


 地面に向かって魔法を放ちカーチスカの足元から魔法を発動する。


「何度も同じ手が──」


「効くとは思ってないかな!」


 私が魔法を放つと同時にコロは走り出し、空中に回避したカーチスカへと近付き攻撃を仕掛ける。


 だが、カーチスカはそれを予見していたように、コロよりも早く迎撃の為に腕を振りかぶる。


「ゴブ」


 その瞬間、アクアが光魔法のホーリーレイを放ちコロへの攻撃を無理矢理中断させた。


「くっ!」


 魔族なだけに光魔法の効果が高い。


 アクアの魔法に怯むカーチスカ。


「ハアアアア! 蒼天破斬!」


「キャアァ!」


 コロの斧技【蒼天破斬】が決りカーチスカの右腕が斬り飛ばされ、魔法のダメージが回復した他の冒険者も攻撃に加わる。


 しかし、カーチスカは自身の周りにまたも炎の壁を作り冒険者を遠ざける。


「アイスブレット」


 私は炎の壁が形成されると同時に、アイスブレットを起動させ十個の氷の塊を作り炎の壁に向かって撃ち込む。


 すると炎と衝突すると同時にジュワッ! と、音を立てながら炎の壁は掻き消えさった。


 ──が、炎の壁が消え去って姿を現したカーチスカは、黒い魔力の球体を何十個も作り私達に向けて放つ。


 近くに居た冒険者は避ける事が出来ずに黒い球体が当たると、その体が爆ぜ何人かが肉片へと姿を変え、防御が間に合ったコロ達も爆発を受け倒れてしまう。


 私とアクアは近くに居る後衛職の冒険者の前に行き、結界を張り自身の最大攻撃力のインフェルノを、向かってくる十個の球体に向けて放ち迎撃する。


 黒い球体と私達のインフェルノが正面から激突すると、凄まじい音と衝撃に結界は直ぐ様壊され、私達は爆風を食らい地面を何度も転がり吹き飛ばされた。


「あっ、くっ、うあぅ」


「くうぅ」


 爆風を食らい倒れる私達はまともに動く事が出来ず、呻く事しか出来ない。


 ……カーチスカは?


「あら? 正直アレを迎撃出来るとは思わなかったわ」


 カーチスカはそう言いながら私達に近付いて来る。


 その頭上には岩の塊が浮かび上がり円錐形になっている。


 その形からはこの後起こる事が容易に想像する事が出来た。


 ご主人様……すいません……。


 私は心の中でご主人様に謝りつつ自滅覚悟で魔力を暴走させようとする。


「まさか! 自爆するつもり!」


「貴女を道連れに出来るなら構わない!」


「そんな暇は与えないわ!」


 迫り来る攻撃を見ながら最後を悟る。


 相討ちにも出来ませんでした。お役に立てず済みませんご主人様……。


 自身の命を使っても役に立つ事が出来ずに激しく後悔する。


 そんな私の目の前に岩が迫り目をキツく閉じた。


 その時──。


 何かがぶつかる音がして、私が受ける筈の衝撃がなかなか来ない事に恐る恐る目を開ける。


 すると私の目の前には銀色の髪をなびかせ、普段とは違う紅い瞳を持ったエレオノが私とカーチスカの間に立っていた。

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