「くっ！」

　懐に潜り込み接近戦を挑む私は、グロスの放つ左の蹴りを屈みながら前転で避け、後ろに回り込み背後を狙おうと立ち上がる。

　──その瞬間。

「ダぁりァ！」

　グロスは蹴りの勢いを利用し、そのまま大剣を使った横薙ぎの攻撃をしてくる。

　ギリギリながら反応出来た私は、その大剣の腹を下からアッパー気味に殴り付ける事で、なんとか大剣を上に逸らす事に成功し、髪の毛を少し切られながらグロスへと肉薄する。

　こんなん続けてたらその内、絶対死ぬ！

　私がグロスに接近戦を挑むのにはそれなりの訳がちゃんとある。

　自殺志願じゃないよ？

　一つは勿論私に注目を集める事、私の攻撃がほとんど効かないとはいえ、まるっきり相手にしないという事は出来ない筈！　多分、恐らく、まぁ、一応私ターゲットだしね？

　二つ目はグロスの武器が取り回しの効かない大剣であるという事、大剣はリーチが長く大きいから、離れると逆に最大威力を発揮する位置でグロスと戦わないといけなくなる。

　しかもグロスは体もでかいから、尚更引っ付いていた方が避けやすい。

　大剣でもなんでも根本の柄の方が安全地帯だしね！

　そんな訳で私は現在、暴風の中グロスと接近戦を繰り広げてます。

　正直死にそうです！　

　くそ～、でかい一撃当てたくて、こんな竜巻みたいな魔法試してみたけど、まさかここまで長持ちするとはね。

　私天才！　でもそのせいで死にそうでい！

　そんなギリギリの綱渡りのような戦いを繰り広げていると、いきなり竜巻の壁を「がぁぁあ！」と、雄叫びと共に竜巻の中に現れるライアスは、そのままグロスの背中を切り付けた。

　だが───それに反応したグロスは、大剣を背中に回しライアスの一撃を受け止め回し蹴りを放つ。

「うおぉぉお！」

　お～、もう少しで風にぶつかる所だったね！

　グロスの蹴りを盾で防ぐもその威力に吹き飛ばされ、地面に線を描きながら私の横を通り過ぎ、危うく竜巻に当たる直前でなんとか止まる。

「危ねぇ！　危うく突っ込む所だった！　てか、嬢ちゃんいつまであんだよコレ？！」

　ライアスが竜巻を指差しながら、私に叫ぶ。

「早く消えると良いよね？」

「お前の魔法だろ！」

　いやいや、そんなん言われても困るよ。

　私だって直ぐに消えると思ったんだが、変な所で才能が開花したみたい。

　とは言えそろそろ消えそうだよね？　大分収まってきたし。

　などと考えていると徐々に風が収まり向こう側が見え始める。

「おっ！　だんだん消えて来たナ」

　あぁ、やっぱ、グロスも待ってたんだ？

　グロスが風の壁を見た瞬間を狙い、ライアスが盾技【シールドバッシュ】を放ち意識をこちらに向けさせる。

「クはッ！」

　グロスは嗤いながらライアスに全力で斬り掛り、ライアスもなんとかそれを盾技【鉄壁】と剣技【柳】を同時に使い大剣を受け流す。

「ぐっ！」

「ナイス！」

　私は全力の攻撃が受け流がされた事で一瞬動きの止まったグロスの背中を切り付けると、そのまま離脱しようとした。

　──だがその時。ガッ！　と、離脱しようとした私の足をグロスは掴み、そのまま力任せにライアスへと叩きつけようとする。

　不味い！

　私はぶつかる直前に、影魔法でライアスとの間にクッションのような軟らかさの影を作り衝撃を和らげる。

　だが、それでもグロスの力で叩きつけられた私とライアスは二人揃って吹き飛ばされた。

　しかし、そこから更に私は影魔法でグロスの周りと少し離れた外側に、二重の影のドームを作りグロスを包み込む。

「こんナもン！　効かねぇって言ってンだぁろ！」

　グロスは影のドームを直ぐ様切り裂こうとするも、二重に展開され更に少し離れた外側に二層目がある為、直ぐには脱出出来ない。

　そしてそれは一瞬とはいえ明確な隙が出来た瞬間だった。

「今だ！」

「行け！」

　私とライアスの合図で今まで魔法を待機させていた冒険者達が一斉に魔法を放つ。

「ファイアブラスト」

「ファイアアロー」

「フレイムブラスト」

「アークブラスト」

「シューティングレイ」

「アローレイ」

　さまざまな魔法が今正に影のドームから脱出したグロスに襲い掛かる。

「グアァァアァあぁ！」

　流石のグロスといえどこの人数による集中砲火に、初めて苦悶の声を上げる。

　HPは！？

　グロス

　ＨＰ：200/3000

　ＭＰ：400/1000

　後少し！　

　それが分かった瞬間、私はスキル【鬼気】を発動すると更に【魔闘技】を全開にして暁と宵闇に魔力を纏わせ、一気にグロスへと肉薄する。

「舐めるなァァア！」

　私の接近に気が付いたグロスは大剣を振り上げ大剣技【地走り】を放ち、私はそれをギリギリ避け更に近付く。

　後16秒！

　避けた時には大剣技【裂空】が無数に襲い掛かる。

　難易度ナイトメア級の弾幕シューティングをノーコンクリア出来る私の動体視力と反射神経、判断力舐めんなよ！！

　私は魔領を使い糸を通すような隙間に体をねじ込み、屈み、飛び込み、時には短剣技のスキルで切り裂き、身体に幾つもの傷を作りながらも前に向かって走り抜ける。

　後8秒！

「ガァぁぁあ！　ハクアァァア！」

　【裂空】を身体中傷付きながらも抜けきった私に、グロスは大剣技【閃刃】を使い私に斬り掛かる。

　後4秒！

　魔領の効果で来るのは分かって居てもグロスの攻撃は私の反応を上回る。

　私は左に持つ暁を逆手に持ち直し、腕をカバーし大剣を受けた。

　金属の当たる音と共に暁が弾け飛び、私の腕も斬り飛ばされたが、それだけの代償を支払ったお陰でなんとか斬撃を上に反らした。

　後2秒！

「ハクアァァア！」

　大剣を避けられたグロスは私の名を叫び睨み付け憤怒の表情を浮かべる。

　悪いね！　コレで終わりだ！

「ハアァァァァア！」

　私は叫びながら今の私に撃てる最高の技【鬼気】と【魔闘技】【疫崩拳】【魔拳】【魔法剣】を、ミックスしたオリジナル複合合成技、鬼崩剣をグロスの心臓目掛けて全力で放った。