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第62話 何やってんだ嬢ちゃん達?

 後1秒!


「ハアァァァァア!」


 私は傷付きながらもグロスの攻撃の全てをギリギリで掻い潜り、鬼崩剣をグロスの心臓目掛けて全力で放った。


 ──だが、その攻撃はガキィン! と、音を立て阻まれ届く事は無かった。


「ほう、驚いたぞ。中々の攻撃だ。ハクア」


 な……んで、なんで、なで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで!


「なんであんたがここに居る! ガダル!!」


 今、確かに私達の間にこいつは居なかった……筈。いや、確実に居なかった。


 それに私はずっと警戒していた。


 戦いながらも常に行動はチェックしていたし、この状況を作り出し確実に仕留められるようにコイツらも距離を開けるようにグロスを誘導した。


 だからこそ私が【鬼気】を発動してグロスに近付き【閃刃】を避けた段階では、三十メートルは離れてたのを確認して攻撃に移った。


 ──それなのに何で……。


 私はガダルに残った片腕を掴まれ宙に吊るされ【鬼気】の発動の反動で力が抜けて行くのを感じながらも、ガダルの不自然な現れ方について考えていた。


「ふっ、どんなに考えた所で無駄だ。何も特別な事はしていないのだからな」


「じゃあ!」


「ただ移動しただけだ」


 なっ! そんな訳。


「信じられないといった顔だな?」


 私はその言葉を信じる事が出来ず【鑑定士】のスキルでステータスを確認する。


【鑑定士】スキル失敗

 ガダル

 レベル:50

 HP:7000/7000

 MP:3000/3000

 物攻:1200

 物防:1000

 魔攻:1050

 魔防:1150

 敏捷:1400

 知恵:1000

 器用:800

 運 :200


 ハハッ、何……コレ。


 私は鑑定の結果に思わず笑ってしまう。


 こりゃ、勝てんわ……。


「どうした? あぁ、鑑定のスキルでも使ったか?」


 性格悪いなこいつ。どうせそれも分かってる癖にわざわざ聞くかよ。そうでもなきゃこの実力差でここまで詳細なステータスは見えない。


「嬢ちゃ──」


「来るな」


「何言ってやがる今更……」


「勝てないよ。グロスにすら苦戦してた私達じゃね」


「ん? あぁ、そこの人間共少し這いつくばっていろ」


 ガダルがそう言った瞬間、周囲に居た全ての冒険者が地面に這いつくばって動くことが出来なくなる。


 コレは重力か?


「さて、ハクアもう諦めるのか?」


「ちょっと作戦練りたいから五年位、時間くれないかな?」


「流石に長すぎだと思うが?」


「オイおいオイ! ガダル様ヨォ! 何を勝手に割って入ってンだァ! コレは俺の戦いの筈だろォがヨォ!」


「お前にはまだ仕事が在る。死なれるのは困るのでな」


「くっ……ちっ!」


「ねえ? 敏捷が1400もあれば、三十メートル近く離れてても一瞬で移動できるの?」


「あぁ、移動スキルも使えば今のお前のレベルでは目でも追えない移動が出来るぞ」


「そっか」


「あんた、ガダル様になんて口の聞き方してんのよ!」


 そう言われ声の方を向くと、知らない女の子がアリシア達を地面に置きそんな事を言っている。


「誰?」


「あんだぁ? カーチスカ人形壊されたのかよ! クハハはは」


「うるさいわよ! あんたこそ瀕死も良い所じゃない!」


「「ちっ!」」


「ねえ? 私の仲間殺してないよね?」


「へぇ、殺したって言ったらどうするのかしら?」


「……殺す」


「ふふっ、大丈夫よ。殺してないわ」


「……そっ、なら良いや」


「うっ、ごしゅ……じん……さ……ま? ご主人様!」


「ほら起きた」


 カーチスカの言葉の通り、エレオノ、コロも目を覚ます。しかし何故かアクアだけは目を覚まさない。


 まさか……!?


「そこの子は……本気で寝てるわね?」


 ……アクアさんが大物過ぎる件!!


「どうすんだ?」


 聞くなよグロス! お前も少し考えろよ!


「……寝かせといてあげて下さい」


「あなた達、ご主人様をどうするつもりですか!」


 お! 良いぞアリシア真面目な空気に戻ってきた。


『シルフィン:一気に場の空気を戻すとは女優ですね』


 今回だけは禿同だよ! てか、私変わらずピンチなんだよね!? アクアのお陰で忘れそうだったわ。


『ほぼ全員:そんな馬鹿な!』


 すいません。マジです。


「どうするつもり……か、なら質問にでも答えて貰おうか……お前達は何故魔族やモンスターを殺す? 私の満足のいく答えを示せば助けてやろう。そうだな、この場の全員に答える権利をやろう」


 何その貴族の遊び!? 正解なんて無いじゃん!


「ふざけんな! お前らが俺達人間を殺そうとするから俺達は戦って……」


「つまらん答えだ」


「ぎゃあァァア!」


 ガダルの質問に反応して一人の冒険者が吠えながら答える。


 しかし、その答えでは満足しなかったのか、ガダルが放つ魔法に胸を撃ち抜かれ答えた冒険者の男は絶命してしまう。


 コレ、ハードル高いな。


「さて、お前はなんと答える」


 そう言って私を見るガダル。


「ご主人様!」


「ハクア!」


「ハクア」


「……おねちゃん?」


 あっ、アクアが起きてる。


 仲間の言葉を聞きながら私はガダルの質問を考える。


 ──アリシアや仲間の皆に死なないでくれと言われた。


 ──お金の為。


 ──平和の為。


 ──誰かを助ける為。


 ──仲間を死なせない為。


 ──襲われるからその前に倒す。


 ──理由なら幾らでも思い浮かぶ。


 ……当然か、奴等は敵で仲間でもなんでもない上に人間を、他の種族を殺して当然と考えている。


 でも、まぁ、強いていうならあれだよね?


「私があんたを気に入らないからだよ!」


 そう言って、吊るされたままガダルの顔に左の足で蹴りを放つ──が、やはりその攻撃は簡単に防がれる。


 クソッ! やっぱダメか。


「ほう、大した理由だな。随分と自分勝手なものだ。仲間の為、誰かの為と言わないのか?」


 言った所で殺すだけの癖に。


「私は……誰かを殺すのに他の何かを言い訳にする気は無いよ」


 殺される方にとっては、どんな高尚な理由だって自分勝手で理不尽なものだ。


 誰かの為に死んでくれなんて言われて納得なんて出来やしないだろ? 


 だから私がこいつらを倒す理由は……気に入らないからだ。


「目の前でグロい人死にを見せられて、そのまま私や私の仲間を襲ってくる。そんなお前らが気に入らない! だから今回はあんた等が私の敵になった。それだけの事だ」


「クッ、ははははっ! 良い答えだ!」


 ガダルがそう言うと今まで感じていたプレッシャーが消える。


 あれ? もしかして今まで王手掛かってた? つか、こんなのを気に入ったのか?


「もしもお前が誰かの為になどと言っていたら殺していた所だ」


「あれ? 答えはお気に召したの?」


「あぁ、凡百の人間共の在り来りな答えより余程良い」


 掴んでいた腕を放しながら私にそう語るガダル。


「意外そうな顔だな?」


「本当に助けるつもりがあるとは思ってなかったからね」


 そう、驚く事にガダルは私の腕を放すと同時に周囲の冒険者やアリシア達も本当に解放していた。


「オイおい、ガダル様! まさか、コレで終わりじゃネェだロォな!」


「ガダル様、グロスの意見に賛同するのは不愉快ですが、その通りです。コレはいつか我らの障害になります。その前に殺すべきです!」


「黙れ、私が決めた事に何か文句があるのか?」


 うわっ、凄い威圧感!


「も、申し訳ありません」


 するとその時、ガダルから解放され全員の視線がガダルに向い、一瞬の隙を突き一人の冒険者が魔法をガダルに向かって放った。


「痛っつぅ!」


「ご主人様!」


 ギリギリで気が付いた私は、敢えてその魔法の射線に割り込み自分の体で攻撃魔法を受ける。


 理由? そんなん、ここで敵対行動取れば全員死ぬからだ。私を殺す事も出来ない威力じゃ、ただ怒りを買うだけだっつうの!


「このガキ! よくも千載一遇のチャンスを──ひっ、いぎぁぁぁあぃあ!」


「サービスだ。命だけは取らずにおいてやる」


 魔法攻撃をした冒険者は、私に文句を言っている途中でガダルに両足を消し去られ、血を流しながらのたうち回る。


 自業自得。


「ハクア、我が主のウィルド様はフリスク地方を魔族のものにする」


 いや、そんなん私に言うなよ!


「なんだと……」


「オイ、マジかよ」


「嘘だろ」


「三ヶ月……、三ヶ月はこの二人にお前達への干渉しに行く許可を出さん。それまでに強くなる事だな」


「それをして、あんたになんの得があるの?」


「ただの余興だ。ゲームとはそういうものだろう」


「マジかよガダル様ヨォ! それまでお預けかよォ!」


「あぁ、そうだ。お前もだカーチスカ」


「…………はい」


「用はすんだ。行くぞ」


 そう言ってガダル達三人の姿が消える。


「助かった……のか?」


「一応? まぁ期限付きだけどね」


 はぁ、助かったと言うより見逃されただけ、もっと言えば滑稽に足掻く様を見たいってだけだから、後味悪いしすっきりしないけどね。


 ……でも、なんとか生き残った。


 私はガダル達が消えた位置を見詰め、この世界に来て初めての敗北に、なんとも言えない気持ちを抱きながらも皆と生きていられる事に安堵した。


 〈マスター危ないですよ?〉


 ヘルさん無事だったんだ良かった。声がしないから心配したよ! てか、えっ危ない? 


 何事かと首を傾げ振り返る。


「ご主人様!」


「ハクア!」


「ハクア」


「おねちゃん」


 私がライアスと話して居ると皆が駆け寄ってくる。そして、全員に思いきり抱き締められ──。


「痛ったぁぁぁあ」


「「「あっ!」」」


 私は傷だらけの体を思いきり抱き締められ悲鳴をあげて意識を失うのだった。


 PS、皆非常に柔らかかったです。我が人生に一片の悔い無し! ガクッ。


「何やってんだ嬢ちゃん達?」


 ライアスの呆れた声がハクア達以外の全員の気持ちを代弁していた。

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