目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第5話 海の魔物退治と、市場での買い物 


 寒風が吹く昼間、ショーンは剣を構え、波間から現れた海洋性の魔物に立ち向かおうとしていた。



「リズ、スバス、俺が突っ込むっ! 後ろは、お前たちに任せたぞっ!」


「分かっているわっ! ショーン」


「援護は、任せろっ!」


「グオオオオッ! ブクブク…………」


 ショーンが相手をする、オオガザミの目は冷たく、鋭い牙とハサミを動かしながら迫ってくる。



 真っ直ぐに走っていく、彼の背後で、オレンジ玉が付いた、マジックロッドをリズは振りかざす。


 黒いロングコートを着ている彼女は、火炎魔法を放ち奴に当てるが、向こうは怒りの咆哮を上げた。



 スバスは、後方から、トゲのついた鉄球を振り回しながら、敵に狙いを定める。


 火球に包まれる巨体蟹に、今度は左側から勢いよく、打撃が叩きこまれた。



「ブクブク、ブクブクブク…………」


「今だわ、ショーンッ!」


「言われなくてもなっ!」


 オオガザミは、ふらつきながらも、口から泡を吹いて、身に降りかかった火の粉を払うおうとする。


 リズが、叫び声を上げると、ショーンは隙を突いて、敵の足元に斬りかかった。



「うらっ! うらっ! リズ、コイツは火炎魔法が効きづらいっ! カラチス、パルドーラ、左右から援護を頼むっ!」


「分かったわ、打撃に切り替えるわね」


「ああ、分かったぜ~~これなら、どうだっ!」


「それなら、俺は叩いてやるっ!」


 オオガザミの右側に、生えている前足が、ショーンにより、二本とも切り落とされる。


 奴には、リズの魔法が再び命中するが、泡で防がれたため、彼女はマジックロッドを握りしめた。



 カラチスは、その隙を逃さず、右側から口を開きながら空気を吸い込むと、空気砲を射った。


 パルドーラも同じく、左側から、フランジメイスのトゲを叩きこんだ。



「ギュエエエエッ!」


「それっ!」


「これで終わりだっ! 死体になって、海に帰るんだなっ!」


 脚や殻に、圧縮空気とフランジメイスの打撃攻撃を受けて、凄まじい叫び声を上げる、オオガザミ。


 さらに、リズは力強くマジックロッドを振るい、ショーンはアゴを蹴りあげる。



 海の水飛沫みずしぶきが、荒々しく舞い上がる中、仲間たちの息遣いが混ざり合っていた。


 そして、ようやく奴は力尽き、よろけながら後ろに下がっていき、岸から海へと落ちていった。



「群れからはぐれたか? とにかく、これで魚の餌になってくれると良いが…………」


 海に沈んでいった敵を見つめながら、ショーンは溜め息を吐こうとした。



「やっと倒せたわね、疲れたわ~~? もう出ないと良いけど?」


「まだまだ、夜になるまで、気は抜けないぜ? ゲップ~~! 済まん、口から余計な物が出たわ」


「この時期、海から厄介な魔物が、食い物を探して、海岸に上がってくるからな? フランジメイスを手放す暇がないぜ」


「俺も、鉄球を何時でも振り回せるようにしてないとな…………ふぁ~~!」


 リズは、ガックリと肩を落として、緊張を解いて、目の前で揺れる海面を見た。


 戦闘している時に、空気を吸っていた、カラチスは大きなゲップをして、恥ずかしそうにしている。



 フランジメイスを肩に担ぎながら、パルドーラはポケットから、コーヒー缶を取り出す。


 重たい鉄球を地面に下ろしながら、スバスは腰を左手で叩いて、欠伸あくびをした。



 四人は、互いに顔を見合わせて、魔物が死んだ事で、安堵の表情を浮かべる。



「たぶん、次もロブスター系とか? 海洋性の魔物が来るだろう」


 ショーンは、そう言いながら、立ち尽くして、水平線の遥か彼方を眺める。


 こうして、彼等が激しく戦った後、僅かな静寂の時間が訪れた。



「ん? 電話が…………はい、そうですか? 経理の人が来られない? ええ、分かりました」


「どうしたんだ? 何か問題があったのか?」


 リズは、紫色に光る水晶玉を取り出し、耳元に当てて、誰かと会話する。


 それを見て、電話が切れたあと、ショーンは彼女に何の話だろうと質問した。



「経理の人が忙しくて、他も来客の相手をしているから? 自分たちで、魔物用の防除剤とか? トラップを買ってきてと言う話よ」


「ああ、最近は魔物の出現が頻発しているからな? 地球温暖化って、奴だっけか?」


「今日は、一匹か? 二匹ずつだが? もっと数多く来る時も多くなっているしな…………」


 水晶玉スマホを、ポケットに入れたあと、リズは仲間たちに上から下された、指示を説明した。


 ショーンとスバス達は、海洋性の魔物による襲撃頻度と頭数が、劇的に上がっている事を憂慮する。



 海の遥か向こうには、まだ未知なる脅威が潜んでいる事を、彼等は知っている。


 それに対抗するため、措置は現場で講じるしかないと言うワケだ。



「そこで、対魔物用の品物を、買い物に行けと言われたんだけど? 私とショーン達が任されたわ」


「えっ! 俺…………何で、俺っ?」


「色男、ホテルに寄り道するなよっ! ギャハハ」


「土産に、缶コーヒの箱買いを頼むわ」


「俺は、夜勤だから? カップ麺も買っといてくれな~~」


 たまたま、リズとショーン達が、買い物に行くメンバーに選ばれた。


 カラチスは、二人を下ネタを言いながら、ケラケラと笑っていた。



 お使いに行くようなら、欲しい物を買っといてと、パルドーラも呑気な言葉を呟く。


 それに、スバスも乗っかって、自身が必要だと思う物を頼んできた。



「全く、遊びに行くんじゃないのよっ! ホテルに行ってたら、クビになるでしょうっ!」


「そうだぜ、仕事で必要な物を買うだけだっ! とにかく、行って来るぜ」


「コンドームも、必要不可欠だな? ギャハハ」


 リズとショーン達は、仲間たちを怒りながら、買い物に行こうと歩きだす。


 そんな二人の後ろでは、カラチスが未だに下ネタを言って、周りからドン引きされていた。



 あれから、少しだけ時が過ぎて、ショーンとリズ達は、トラックで市内に着いた。


 彼等の前には、市場やアーケード街から、デパートまで多種多様な店が並ぶ。



「じゃあ、必要な物って行ってたけど、ブービートラップや防除剤に、セキュリティーシステムを買いに行かないと?」


「まあ、買う時はレシートを貰って、商会に払って貰わなきゃな? 必要経費だしな」


 そう言いながら、リズとショーン達は、様々な店に出向いていった。


 電気屋では、監視カメラとドローンを購入して、中世風の武器屋では、トラバサミを買った。



 そして、ホームセンターでは、防除剤や魔物コロリを大量注文して、配送して貰う事にした。


 こうして、次々と必要な物資を入手した、二人だったが、当然ながら直ぐに会社へと戻らない。



「後はトラックで戻るだけだが~~休み時間だな? 荷物も積んだし、休んで行くか?」


「ねぇ? どうせなら、あの店に行って見ない?」


 自由になった、ショーンとリズ達が、真面目に会社に帰るワケがない。


 アーケード街の近くにトラックを止めた、二人は休憩時間を口実として、仕事をサボろうとする。



「買い物かあ? 面倒だな? それに…………」


「でも、対魔物用に使える品物を探す事を理由に、サボッ! 時間を潰せるのよ」


 ショーンは、あの裏切りから時間が立ち、仲間たちとともに闘う日々にも、ようやく慣れてきた。


 だが、彼に取って、リズとのサボり買い物タイムは、スザンナと付き合っていた頃を思い出す。



 彼女の言う通り、仕事をサボれる事は、別に構わないが、やはり未だに女性との接触はキツイ。


 それほど、あの忌まわしい出来ごとが、今でも精神的な古傷となっているワケだ。



「あ、アレ買ってよっ! アレッ!」


「あれ? って、緑のローブか? なんで、俺が買わなきゃ成らんのだ?」


 勝手に、アーケード街へと足を運ぶ、リズの後をショーンは追っていく。


 そこには、雑多な人々が道や店内で、ワイワイと騒ぎながら歩いている。



 金髪ロングで、サングラスをかけた、ベージュ色コートを羽織る、セレブ美女トロール。


 工具運を持ち上げ、忙しそうに走っていく、黒人の工事作業員。



 楽しそうに、遊びながら道路を激しく走り回る、ゴブリンや人間の子供たち。


 品物を爆買いしている、北欧系エルフの姉妹たちは、笑顔で何かを話す。



 こうした人々が、行き交う路上は、非常に活気で満ち溢れていた。



「セール品だし、オールシーズン物だし?」


「いや、それは理由に成らんだろ?」


 そんな中、リズが見つけたのは、店先のショーウィンドーに置いてある衣類だった。


 しかし、ショーンは訳の分からない理由で、財布から現金を出そうとは思わなかった。



「いやいや、こんな美人と買い物できて、幸せでしょう? と言うかさ? この間、マッド・ロブスターが窓を割った事にしてあげたよね? あと、タイヤのパンクとか…………アレとか、これとか?」


「…………はあ~~? リズ、分かったよ? その代わり、これ一着だけだぞ」


 強引に、品物を買わせようとして、リズは弱味につけこんで、ねだり続ける。


 それに、ショーンは根負けしてしまい、と言うか逆らう事は出来ず、懐から財布を取り出した。



「やった~~! おじさん、これ、ちょうだいっ!」


「はああ…………」


 リズのワガママを聞いた、ショーンは渋々ながらも代金を支払った。



「ルンルンっ♪♩ どう、この格好は?」


「ああ、綺麗だよ? とっても」


 リズは、黒いロングコートから、緑色のローブに着替えて、店内から出てきた。


 そんな彼女の笑顔や体つきは、ショーンが言うように綺麗ではある。



「とってもな」


 しかし、ショーンの脳裏に一瞬だけ、スザンナと買い物をした記憶が甦る。


 だが、明るく振る舞うリズを見ているうちに、少しずつ、それが薄らいできているように感じた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?