ショーン達は、アリ人間が警備している店内を、みんなで歩いていた。
「ん? 見ない顔だな? あ、そのターバンは無線で呼んだ援軍か?」
「そうだ、店長と話をさせてくれな」
店の一番奥にある休憩室にまで来ると、青アリ人間が、ショーン達を見るなり、ドアを叩いた。
「ゴルバ店長、客人です」
「通せ…………」
青アリ人間は、内部で待機するゴルバを呼ぶと、彼の低い声が聞こえた。
「お前らが、救世主か? で、武器を援助する変わりに、食糧を持ってくるはずだったが?」
「それは、無理だな? ここにくるまで、大量のゾンビに出くわしたからな」
ゴルバは、カブトムシ型の昆虫族らしく、椅子に座りながら、ドッシリと構えている。
まるで、マフィアの親分みたいだと、ショーンは彼を見ながら思う。
「何ぃっ!! と、キレたいところだが、あの数では仕方がないな」
「いったい、何で、あんなにゾンビが道を埋め尽くしているんだ?」
「ゾンビ達さえ居なければ、トラックで食糧を持って来れたのに…………」
突然、ゴルバは怒鳴るかと思ったが、すぐに冷静さを取り戻して、ため息を吐いた。
ショーンとリズ達は、道を埋め尽くしていた、ゾンビの群れに関して、彼に質問した。
「ゾンビか? この辺りは、外を見れば分かると思うが、市街に通じる道は全て、封鎖してしまった」
「ゾンビ・パニックでの戦闘でか? それで、ここは平和なんだな」
「しかし、封鎖しているにも関わらず、外側では連中が寄って来ているようだけど」
ゴルバは、二人の質問に答えながら、ゆっくりと天井に頭を傾けた。
彼の答えを聞いて、ショーンとリズ達は、ゾンビに関して、更なる質問をする。
「ふむ、チンピラやギャング達が、この店の武器を狙ってきた…………幸い、ここは当の武器屋だからなっ! 連中は厳重な警備により、近づく事すら出来なかった」
自信満々に、ゴルバは答えながら、缶ジュースの蓋を開けた。
「しかし、奴らは、そこら中に拠点を作ったんだっ! それからは拳銃や魔法を射つ音が、時おり木霊しやがる…………」
「それに吊られて、ゾンビ達も寄ってきてるって、ワケなのね」
「マルルン達は、何でゾンビの群れに包囲されているんだ」
「そうだにゃ、それが気になるにゃ?」
ゴルバの話を聞いて、リズは街中で見かけた、ゾンビ達が、集まる理由が分かって納得した。
しかし、なぜ武器屋から、マルルン達が分断されたのかと、マルルンとミー達は聞いてみた。
「昨日、彼等が救援に来たんだが、運悪くチンピラ部隊と出会い頭に交戦してしまったんだっ! 結果、彼等はゾンビを集めてしまい、逃走しながら最後には建物に籠るしかなかった」
「マルルン達は、今どこに…………」
「彼等を助けようとは、したのかにゃ?」
「連中を助けられなかった理由は何だい?」
ゴルバの説明を聞いて、直ぐにでも、マルルン達を救助しに行こうと、ショーンは考えた。
そして、ミーとフリンカ達は、なぜ彼等を助けに行かないのかと理由を聞いた。
「ああ、助けようとはしたっ! だが、何度ゾンビを倒しても、後から続々と沸いて来てな? 火炎瓶や手製爆弾を投げても、無駄なんだ」
ゴルバは、そう言うと、無念そうに答えながら
「それに、こっちにまで、フレッシャー達が襲って来てな? まあ、奴等は銃や魔法で撃退はできたが…………」
「なんで、ゾンビの数は減らないし、増えるんだ?」
「それが変な話なのよねーー」
戦闘が激しかったと語るゴルバと、未だに減らないゾンビが気になる、ショーンとリズ達。
「ふむ…………どうやら、マルルン達の攻撃もそうだが? その向こう側に幾つかある、チンピラ達の拠点から鳴る射撃音によって、ゾンビが集まっているようだ」
「マルルン達の拠点は何処にあるの?」
「私達は、早く助けに行きたいんだけどねぇ」
ゾンビが溢れる原因が音であると、両腕を組ながら、ゴルバは語る。
そして、リズとフリンカ達は、救出作戦を実行するべく、マルルン達の居場所を聞いた。
「彼等は、店の北側から遠く離れた、小さなホテルに立て籠っているっ! 軍が撤退するまで、使っていたから周囲は有刺鉄線に囲まれている」
重そうな体のゴルバは、椅子から立ち上がりながら、説明を続ける。
「そこに行く前に、門を超えないと成らないがな? あと、当然だが、その向こうはゾンビに囲まれているからな」
「だとしても、助けに行くぞっ! 仲間は見捨てられないからな」
「矢を何本か、分けてくれないか? そうしたら、今すぐ救出に出向くっ!」
「爆弾の準備は、できているっ! 煙幕弾も地雷もあるから、準備は万端だっ!」
ゴルバから危険だと諭されても、ショーンが冒険者として、仲間を見捨てるワケがない。
スバスとワシントン達も、眼を険しくさせて、これから戦闘に挑もうと殺気を放つ。
「マルルン達は、チンピラやゾンビを、かなり倒したようだけど、彼等を一刻も早く救助しないと成らないにゃ…………」
「連中を救出できれば、食糧を取りに戻るのも、楽に成るわっ!」
ミーとフリンカ達も、救出に行こうと意気込み、顔つきを険しくさせる。
「分かった、では食糧のために、援護に何人か人員を回してやる? 幸い、店には警備システムや客の冒険者たちが居るからな」
「じゃあ、取り敢えず作戦を考えよう」
こうして、ショーンとゴルバ達は、マルルン等を救出する作戦会議を続けた。
それから、少し時間が立ち、作戦決行まで、各自入念な準備をする事となった。
「食糧は、まだかいっ! 腹を空かせた、子供が待ってるんだけどさ~~」
「この子の娘は、まだ幼くてねぇ? ここには無い、離乳食が必要なんだよ」
「済まない、離乳食は持ってきてないんだ」
「事が済んだら、必ず持ってくるわ」
黒ギャル風のサキュバスは、老婆とともに、話しかけてきた。
それに対して、ショーンとリズ達は、今は無いと困った表情で答えるしかなかった。
「ふぅ~~? まさか、子供が居るとはね…………後で、ミルクやら何やら追加して、持ってきて貰わないと」
「だが、アジア街に有るだろうか? 無ければ、他の地域から持ってくるしかない」
ため息を吐きながら、リズは色々と物資を運ぶ事を考えて、顔を渋くさせる。
ショーンも、両腕を組んで、どこに離乳食が有るだろうかと悩む。
「もしくは、あのパソコンショップの場所に戻るしか無いだろう」
「面倒だけど、子供のためなら仕方ないわね、ショーンなら見捨て無いでしょ?」
子供のために、ショーンは再びゾンビが群れを成す地域へと、物資補充に戻る積もりでいた。
前回、行った時には、駐車場に大量の動く屍たちが歩いていた。
それを承知で、正義感で動こうとする彼を、リズは心強く思う。
また、冒険者として、例え大量の魔物が進路を塞ごうと、彼女も戦いを放棄する気は無かった。
「また、ドンパチだ」
「たく、チンピラめっ!」
「そうだな、ガキが腹を透かしているのに、黙ってられるほど、薄情じゃね~~なっ!」
「やっぱり、そうよねっ! だから、私も貴方に着いてくわよっ!」
黄アリ人間が、スナイパーライフルを両手で持ちながら、不機嫌そうに呟きつつ、店内を歩いてた。
顔に、黒い布を巻いて、ゆったりとした黒衣を観に着けた、アラブ人冒険者も後に着いていく。
様々な人間たちが困る中、血気盛んで、お人好しのショーンは人助けしようと思っている。
彼の言葉を聞いて、リズは笑みを浮かべながら後を着いていく。
「襲撃してきた、ゾンビ連中を撃退したわ」
「こっちは、チンピラだっ! ピストル、マジックバトン程度の武器で、よく突撃して来やがる」
「この様子じゃ、ここも敵やゾンビ達に狙われているらしいな」
「どこも、完璧に安全な場所なんて無いのかしら?」
今度は、赤髪ショートヘアの女冒険者が仲間を連れて、右肩にメイスを担いで、歩いてきた。
反対側からも、アサルトライフルを持った、緑色のバッタ人間が、ゆっくりと向かってくる。
チンピラ達の襲撃頻度が高いことに、ショーンは顔を険しくさせる。
今まで、沿岸地域を混沌とさせる敵と戦ってきた、リズも気の休まる暇がないと思った。
「ショーン、私は子供が大好き…………だから、困っている子供や老人のためにも、必死で頑張りたいわ」
リズは、いきなり暗い顔を浮かべて、しゅんと汐らしくなる。
「でも、何だか怖いわ? ゾンビ、チンピラ…………今までの魔物は、海から来る弱い魔物ばかりだった」
「しかし、今じゃあ~~本物のアンデッド、マジの殺し合いを挑んでくる人間が相手だもんな」
冒険者=警備員として、リズとショーン達の任務は、沿岸部に上がる海洋生物と戦うことだ。
もちろん、二人が泥棒やチンピラ達を追っ払った事もあったが、流石に殺しはしていない。
だが、それが今では、街中が混乱に包まれる中、戦闘が続いている。
それ故、彼女は重いストレスと恐怖で疲れ始めているのだった。
「まあ、リズ? 心配すんなっ! 今まで見たいに、何とかなるさっ!」
「そ、そうよね? それなら、安心だわっ?」
ショーンは呑気な顔を見せて、不安がるリズを安心させようとした。
こうして、マルルン達の救出作戦が始まる中、二人は時間を潰していた。