ショーンは、老人ホーム内に残る仲間を集めようとして、廊下を歩いていた。
「あんた、新入りかい? 優しい良い子だねぇ~~」
「えへへ? どうもっ! でも、私は今日で辞めるんです」
「ん? リズ、今度は婆さんの世話しているのか」
リズは、静かに車椅子を引っ張って、部屋の中に、お婆さんを連れていく。
そんな彼女の優しい一面を見た、ショーンは二人が話をするため、声が耳に届いた。
「あら、残念だわ」
「ご免なさい、でも機会が有れば、また来ますから、それじゃあっ!」
お互いに名残惜しいし、別れるのは辛いが、お婆さんに対して、リズは笑顔で答えて部屋から出る。
「ショーン…………」
「リズ?」
ショーンと、廊下に出てきたばかりのリズは、顔を合わせてしまう。
「いや、な、何でも無いわっ!」
「はあ、どうしたんだ? それより、後で正面の道路に来いよ? 出発するからな」
急に、リズは顔を赤らめてしまい、恥ずかしがりながら走りだし、ショーンから離れていった。
「おっと、リズかい?」
「フリンカ…………」
リズは、曲がり角から出てきた、フリンカと出会したが、二人とも眼を合わせて退治する。
「お前ら、どうした? 喧嘩か?」
「い、いや? 何でも」
「何でもないさっ!」
バチバチと眼から火花を散らしながら、戦闘しそうな雰囲気を二人は出している。
それを見て、これは不味いと思った、ショーンは直ぐさま止めに入った。
すると、リズは再び顔を剃らして、何処かへと去ってしまった。
対する、フリンカは自信満々に、不適な笑みを浮かべて、両腕を組ながら背中を壁に預けた。
「はあ? ま、何でも良いが、喧嘩だけはするなよ~~」
「分かってるよ~~? それより、私は先に行って…………」
「ヨランダ、ヨランダじゃないか? ああ、無事だったんだね?」
「お婆さん、そうですよ」
喧嘩になる理由を、ショーンは理解しておらず、この場に残った、フリンカを注意する。
そこに、お婆さんが現れて、ゾンビ族の介護士が、体を支えながら歩かせる。
「あ、ああ…………?」
「しっ! もしかして、ゴニョゴニョ」
「ヒソヒソ? ええ、そうなんです」
いきなり、死んだ人物の名前が呼ばれて、ショーンは驚いてしまった。
一方、感のいいフリンカは、ゾンビ介護士と密かに話し合った。
「ヨランダ、また、アンタが守ってくれたんだって? チンピラ達は怖かっただろう」
「ああ、お婆ちゃんっ! 何度、連中が来ようが、私が蹴散らしてやるから、心配しないで」
お婆さんが、痴呆症である事を、フリンカは見抜き、余計な心配をさせまいと役を演じる。
「昔っから、アンタが私の店をチンピラ連中から守ってくれたからねぇ」
「お婆ちゃん、そのチンピラ連中なんだけど、遠くの町で暴れているようなんだっ! だから、暫くは帰って来れないけど、心配しないでねっ! 必ず戻るからさ」
勘違いさせたまま、お婆さんに嘘を吐いて、フリンカは誤魔化そうとする。
「それは困ったわね」
「でも、大丈夫、何も心配は要らないよ」
お婆さんから離れながら、フリンカは腕の筋肉を見せつける。
「さあ、時間ですよ?」
「あら、やだ私ったら」
ゾンビ介護士が、お婆さんを連れていく際に、こちらに頭を下げた。
ショーンとフリンカ達も、彼に対して、同じように会釈だけして答えた。
「痴呆症か? それで、ヨランダに見えたんだろう」
「だろうねぇ? しかし、彼女はさ、もう…………」
ショーンとフリンカ達は、窓から昨日戦闘があった場所を眺めながら呟く。
このあと、二人は何時までも憂鬱な気分に浸っていられないため、道路に向かった。
「ショーン、昨日は大変だったな? こっちは、ゾンビこそ、出なかったが、海トカゲ団員を相手にして、剣を振るいまくったからなっ! かなり、ヤバかったぞ」
「こっちも、海トカゲ団員を相手にしてたら、ゾンビ達が寄ってきて、激ヤバな状態だったぜ…………もう、勘弁だな」
「そっちは無事みたいね? 誰も欠けてなくて、ほっとしたわ」
「ええ、一時はどうなるかと思いましたが、何とか、敵を撃退できました」
装甲トラックの後ろには、三台ほど、白い輸送トラックが並んでいる。
その最後尾から、マルルンが歩いてきた、ショーン達に声をかけた。
リズは、胸を撫で下ろしながら、ホテル側で戦っていた、チームの姿に安堵する。
ジャーラも、ニコッと微笑みながら答えて、建築現場の面々を眺めた。
「まあ、とにかく出発しよう? 俺たちの装甲トラックが先導する」
「じゃあ、俺たちは輸送用のトラックに、二人ずつ乗るからな」
そう言って、ショーン達は、駐車している装甲トラックに乗り込む。
マルルン達も、二人一組で、輸送トラックの座席に座ると、エンジンを始動させた。
こうして、ショーン達は、建築現場とホテルを後にして、沿岸警備隊事務所に向かう。
その途上、もちろん邪魔なゾンビ達は、車列に引き殺されていった。
「チェックポイントに着くぞ?」
「前に通った、交差点だにゃ?」
装甲トラックの運転は、ショーンが行い、助手席には、ミーが座っている。
「止まれ、何の目的で通る積もりだ」
「見りゃ、分かるだろう? 沿岸警備隊の事務所まで、資材を運ぶんだ」
ゲート内から、イモムシ人間により、装甲トラックを止められた、ショーンは素直を答える。
「よし、良いだろう、ゲートを開けろっ!」
イモムシ人間の命令で、スライド式ゲートは開かれるが、ショーンは警備隊をチラリと見る。
運転しているため、良くは見なかったが、アサルトライフルなどを、彼等は構えていた。
「屋根の上にも、重武装の連中が居るにゃあ」
「ああ、周りも冒険者だらけだな」
ミーとショーン達は、ロングスピアーを持っている黒アリ人間や黒人剣士などから威圧感を感じる。
そして、右折しながらゲートを出た、彼等が率いる車列は、沿岸警備隊の事務所を目指す。
ここを、装甲トラックが通りすぎると、暫くはゾンビ達に出くわさなかった。
それから、平和な町並みを眺める事ができた末に、ようやく目的地に着いた。
「着いたか、流石に全部のトラックを入れられないな?」
「目的地にゃ? その前に、周りの家にも見張りが立っているにゃあ?」
ショーンとミー達は、沿岸警備隊の事務所に着いたが、装甲トラックを駐車場には入れない。
そして、周りの民家にも、見張りが何人か立っている姿が視認できた。
「マルルン、お前らだけ、駐車場に入ってくれっ!」
「分かったぞ、今やるからな」
ショーンは装甲トラックから顔だけ出して、マルルン達に指示を伝える。
「資材だな? このまま車に置いておけ、後は我々がやるからな」
「お前たちのチームとは、話があるらしいぞ」
「話だと…………また、こき使う積もりか?」
「もう、仕事は勘弁して欲しいにゃあーー!」
カエル人間の冒険者は、資材運搬してきた、車両を見ながら話す。
アラブ系の真っ白な衣装に身を包んだ、男性らしき冒険者も伝言を教えた。
二人の話を聞いてから、ショーンは面倒な頼み事を押し付けられると思い、憂鬱な表情を浮かべる。
同様に、ミーも背中を丸めると、明らかに不機嫌そうな顔をする。
「取り敢えず、中の司令部に行くんだな」
「そこで、カルメンとエドガー達が待っている」
そんな二人に対して、カエル人間とアラブ系の冒険者たちは、淡々と資材を下ろし始める。
「仕方ない、行ってから聞いて見るしかないな」
「うぅ…………それすら、面倒だにゃ」
ショーンとミー達は、言われた通り、沿岸警備隊の事務所に向かう。
こうして、彼等は建物の中へと、ダラダラと歩きながらも入っていった。