フリンカ達が消えたあと、ショーン達は老人ホーム内を巡回しながら、色々と仕事を行う。
「こっちで良いのか?」
「有りがとう、ございます」
「本当に済まないねぇ~~」
ショーンは、非常食の入っている大きな段ボールを運び、廊下を歩いていく。
女性エルフの介護士と、彼女が押している車椅子に座る、お婆さんから礼を言われる。
「いや、これくらいな? じゃあ、また何かあったら呼んでくれ」
「はい、どうもっ!」
「有り難うねーー」
段ボール箱を、ショーンはドアの前に置くと、再び巡回に戻ろうとする。
エルフ介護士は笑顔で、お婆さんも、にこやかな顔で、彼の後ろ姿を見送る。
「ウヒヒ…………」
「うわっ! なんだっ!」
いきなり、妙な声が聞こえた、ショーンは敵かと思い、後ろに振り向いた。
「ショーン、あんたも飲みな~~♡」
「うっ! 酒くせぇ…………フリンカ、飲み過ぎだぞっ! てか、あの爺さん達はどうしたんだ?」
そこに立っていたのは、フリンカだったが、彼女ら泥酔していた。
しかも、ショーンは漂うアルコール臭に思わず、吐きそうになってしまう。
「ああーー? あの爺さん達なら、飲み比べ勝負をして酔いつぶれたら、体を好きにしていいと言って、戦ったんだけど? そしたら、全員もう飲めないとか言って、顔を赤くして寝てしまったわ」
「はあ? どれだけ、飲んだんだよっ!」
フリンカから話を聞いて、ショーンは酒豪なのかと思った所を、前から彼女に羽交い締めにされた。
「それより、ショーン? …………私、爺さん達と夜の特訓を期待していたんだけどさっ! みんな、負けちゃったんだわ、だからね♡」
「うわ、うっ! いや、まだ夜ですら無いし、その勝負をする場所もないだろ?」
首を絞められたまま、フリンカは背後に回って、ショーンを、お姫様だっこで抱き上げる。
「大丈夫、どっか、空いている部屋を探せば~~? ほら、あった♡」
「いや、マジで今は、そう言う事をしている暇は無いしっ!?」
フリンカは、ショーンを片手で抱きながら、もう片方の手で、ドアを開いた。
すると、そこは誰も使っていなかった部屋らしく、介護用ベッドが、一つだけ設置してあった。
「ほらぁ~~! ちょうどいい場所に、ベッドも置いてあったわ♡ これで、夜の特訓をっ!」
「いや、マジでやめっ! うわっ! ぎゃあっ!」
フリンカは、ショーンをベッドに放り投げて、その上に、ボディープレスをしてきた。
しかも、また首を羽交い締めにして、様々なプロレス技を仕掛けてきた。
それから、彼女が深く眠るまで、凄まじい暴走行為は続けられた。
「昨日は凄かったな? ゾンビの襲撃かと思って、鉄球を用意したが? 男女の声がしたから、思わず、この部屋から離れてしまったが」
「本当だにゃっ! あんなに激しく、ベッドを揺らすなんて、よっぽどの性豪と変態に決まってるにゃ?」
スバスは、仕事を終わらせて、廊下を歩いている内に、誰かが行為に及んでいる声を聞いていた。
巡回任務で、ミーも敵を探していると、部屋から怪しげな音が鳴っていたのを耳にした。
「と言うか? 昨日は、フリンカが凄く酔っぱらっていたにゃっ! それに、ショーンの姿も見えなかったにゃ?」
「まさか? 二人とも…………」
急いで、部屋のドアを開いた、ミーとスバス達が見た光景は、物凄く衝撃的だった。
「う、うう? ふあ~~! よく寝たねっ!」
「あ、ああ…………」
フリンカが眼を覚まして、ショーンは白眼を向いたまま、ベッドで横たわっている。
もちろん、二人とも白いシーツにくるまり、どう見ても、行為をしたようにしか見えなかった。
「にゃ、にゃにゃっ! 不味いにゃっ!」
「これは、失礼したっ!」
「ふあ? 二人とも、おはようさんっ?」
「う、う? 朝か? 何だか、息苦しかった気が…………」
今度は、急いで部屋のドアを閉めようとして、ミーとスバス達は、慌ててしまう。
そこに、フリンカは白いシーツから体を起こし、ショーンも物音に反応して、気絶から覚めた。
「うわっ! お前ら、これはっ! そう言うアレじゃっ!」
「あら~~? これは、勘違いされてる感じかな?」
「いや、何も言わなくていい」
「何も、私は見てないからにゃっ!」
昨日から夜中にかけて、ショーンは男女の営みをしてないと、必死で弁明しようとした。
ほんのりと頬を赤くしながら、フリンカは照れるように、シーツを強く掴んで、下を向いてしまう。
だが、スバスは見ては成らぬ場面に、立ち入ってしまったと、顔を剃らしながら謝りつつ退散する。
ミーはと言うと、顔面を真っ赤にしながら、両手で覆ってしまい、部屋から逃げるように立ち去る。
「お前ら、絶対に違うんだからなっ! これは、誤解だからな~~~~~~!?」
「アハハ、誰も信じてくれないよ」
ショーンの叫び声が木霊する中、フリンカは仕方ないと、ケラケラ笑うしかなかった。
それから、時間が立つと、見張りの作業員たちなどを除いた、人間全員が食堂に集まっていた。
「ひそひそ」
「まあ~~」
ショーンとフリンカ達が、情事に及んだと、既に婆さん連中の間では、話題になっていた。
「うう、マジで、みんなの目線が辛い」
「まあ、気にすんなって」
噂話を立てられて、ニヤニヤした好奇の視線を、爺さん&婆さん達から、ショーンは向けられる。
それを恥ずかしがる、彼に対して、フリンカは相変わらず、ケラケラと笑うだけだ。
「いや、お前が原因だからなっ!?」
「そう、怒鳴らないで、私は美人だし、まんざらでも無いだろう?」
周りからの視線に耐えきれない、ショーンは強い突っ込みを、フリンカに入れる。
だが、彼女は、ニヤリとした美顔と女豹のような視線を向けてくるだけだ。
「そう言う問題じゃっ! はあ~~? まあ、いい、取り敢えず、飯を食うぞ」
「そうそう、腹が減っては戦は出来ないよっ! 敵とも、夜の伴侶ともねっ! ギャハハッ!」
もう何を言っても無駄だろうと思った、ショーンは、テーブルの上にあるコーヒーを飲もうとした。
そんな彼に対して、フリンカは下ネタを言いながら、スープに浸した食パンを食べるのだった。
「はあ、食ったな? トイレに行くわ」
「何? そこでまた、私とプロレスをするのかい?」
朝食のスープと食パンを食べ終えた、ショーンは席を立つと、食堂の出口に向かう。
その後ろから、フリンカが再び、笑いながら如何わしい言葉をかけた。
「はああああ~~~~」
ショーンは疲れたのか、フリンカを無視して、深い溜め息を吐きながら、トイレに向かっていった。
「ははっ! はああ、でも本当に悪くは無いだろう? 色男…………」
食堂に残った、フリンカは呟きながら、ショーンの背中を見ながら、豪快にコーヒーを飲み干した。
「ふぁ~~? ようやく、視線と面倒な女から解放されたぜーー! しかし、良い女なんだが、ああも明るすぎるとな…………」
ショーンは、
紫ロングヘアーの褐色肌であり、かなり背が高くて筋肉質ではある。
しかも、頬はゴツいが、大きな鼻と下顎から生えた小さな牙も目立つ。
そして、鋭い眼光を放つ瞳は黄色く光り、長い睫毛と赤紫のアイシャドウも妖しく見える。
だが、それら全てが相まって、強い戦士である彼女は美しく見える。
「はい、こちらですね?」
「済まないのう、若いお嬢さん」
「おっ! リズ、何をやっているんだ? リズッ?」
「おい、ショーン、出発準備が出来たぞ? 俺も弓の手入れは終わったし」
リズは車椅子に座った、トロールの老人を押しながら前へと進んでいく。
それを見て、ショーンは彼女に声をかけようとするも、ワシントンから呼ばれて振り向く。
「あん? ワシントン、終わったのか?」
「ああ、俺たちの装甲トラックに加えて、資材を積んである輸送トラックを、三台も用意してくれた」
ショーンは、いきなり背後から現れた、ワシントンに驚いたが、取り敢えず話を聞いてみた。
「そうか、じゃあ、みんなを集めないとな」
こうして、ショーンは朝から全員集合させて、沿岸警備隊事務所まで戻ろうとした。