ショーンとクネラ達は、建築現場にある建造途中のビルに上がっていた。
「ここは、コンクリートで、床と天井だけは固めてあるからね」
「階段も設置されてるし、登るのに苦労もしないな」
ビルの屋上に出た、クネラはホテル側を眺めて、ショーンも彼女に近寄る。
「じゃあ、アンタ等は下やホテルを見てて、私は裏側を見張るわ」
「分かってる、どれどれ?」
そう言うと、クネラは裏側の方を見張りに行ってしまい、ショーンは道路を睨む。
しかし、そこに敵影はなく、作業員たちが動く車だけを路肩に移動させる姿が見えた。
「あっちは…………」
向かい側に立つ、ホテルを彼は眺めると、そこにはマルルンとジャーラ達が手を振っていた。
「敵影は無し」
「俺の目にも、敵は見えない? 弓を射つ必要もないな?」
ショーンが何気なく呟くと、ワシントンも弓を構えて、ゾンビの群れやチンピラ達を探す。
「と言うか、不思議なものだな? 今まで、アンデッド族の討伐や盗賊団との戦いは経験した…………もちろん、猟師として、魔物とも戦ってきた」
「ワシントン? 俺も、こんな風にゾンビが暴れ回るなんて、映画やゲームでしか見た事がなかった」
ワシントンは、急に真剣な話を初めて、ショーンは彼の言葉に耳を傾ける。
「アンデッド族にしたって、大体の奴は人間と暮らしてる…………しかし、ゾンビ族と感染者のゾンビは違う? あの暴れてる連中は、地下墳墓に潜む奴等と同じ? いや、感染力が強いぶん、より
「だな? 感染タイプで、ここまで、猛威を振るう奴なんて、初めてだからな? しかも、アンデッド族ですらも、感染者になってしまうし」
新しい病は、アンデッド族ですら、別なアンデッド=感染者に変えてしまう。
この事実に、ワシントンとショーン達は、互いに頭を悩ませるしかない。
「ああ、ここはまるで戦場のど真ん中っ! そして、さながら中立地帯だ」
「だな~~? 死者の群れは暴れだし、暴徒は町で略奪を繰り返す…………そのさまは、世の終末だ」
マリンピア・シティーの現状を、ワシントンは戦場に例えて、そっと溜め息を吐いた。
対するショーンは、ゾンビ達が暴れるさまを、聖書の言葉を借りて、終末であると表現した。
「終末か? お前は、救世主か? ショーン」
「いや、ただの冒険者だよ? と言っても、今は失業中かな?」
ワシントンは、ショーンに期待したが、残念ながら、彼もまた一人の人間でしかない。
「ははっ! そこは、嘘でも救世主だと言って欲しかったぜ」
「んな事を言われてもな…………てか、何処に行くんだ?」
笑いながら、ワシントンは、静かに階段の方へと向かっていく。
ショーンは、いきなり去っていこうとする彼が気になり、行き先を質問した。
「トイレだよ、流石に高い所は風が強いからな? 何だか寒くて、震えてきちまってな」
「言われれば、確かに風が冷たいな? これじゃ、頬が痛くなるぜ」
寒風が吹いてきて、ワシントンは尿意を我慢できなくなったらしく、ショーンも冷たさを感じる。
そうして、二人が話し終えると、急に天気が悪くなってきていた。
「んあ…………雨か? それに、風が強くなってきている?」
「ショーン、どうやら台風が近づいているらしいにゃ?」
「マルルンが、望遠鏡で海を眺めたら、黒雲が見えたんだとさ? さっき、伝令が来てたらしいよ」
ぽつらぽつらと振りだした雨粒は、ショーンの頬に当たり、風も勢いを増し始めた。
そこに、ミーとフリンカ達が現れて、ここは危険だと彼に告げる。
「そうか? 流石に、嵐の中では作業も出来ないし、俺達も動けないよな?」
「クネラ、除去作業が終わった、あと嵐が近づいているらしいぞ」
「そうかい? じゃあ、私達は建物の中に避難するとしますか」
ショーンは、台風が来ると、作業や見張りすら危険だと思い、すぐに階段を降りていこうとする。
そこに、リザードマン作業員が現れて、クネラに報告と伝言を話に歩いてきた。
「ショーンだったかい? すでに、そっちも知っているだろうけど、私達は嵐の中じゃ見張りも出来ない」
「ああっ! その代わり、建物の中で、巡回するくらいは出来るだろう?」
海が荒れて、強風が吹く前に、クネラとショーン達は階段へと歩いていく。
「そうして、貰えると助かるわ」
「それじゃ、下に向かうか」
階段を下りていく、クネラとショーン達は、やがて、二階から建物内部に入っていった。
「廊下は、明かりが外から見えないように、カーテンをしないと? 年寄りが歩く時だけは、付き添いと明かりを照らすようにして」
「その間は、強風で窓が割れたり、ゾンビやチンピラの襲撃から、ここを守らなければ成らないな」
クネラは廊下を歩いていき、裏側に面する窓のカーテンを引っ張っていく。
ショーンは、それより先を歩き、鋭い目付きで、外を睨みながら敵影を探す。
「雨が強くなってきたわね? じゃあ、私は戸締まりや、入口に蜘蛛糸を使った、罠を張りに行くから」
「ああ、分かったぜっ! 俺達は適当に廊下を歩いているからな」
パラパラと強い音を立てながら、雨粒が降り落ちてきて、窓から外の様子が分からなくなる。
こうなると、出来る事は限られてしまうが、クネラは何かしらの準備をしようと、廊下を歩いた。
一方、ショーンも薄暗い建物の中を把握しようと、奥へと向かっていく。
その途上、風が吹く音が段々と大きくなってきて、嵐が近づく雰囲気を、彼は感じた。
「はあ? マルルンの見立て通り、こりゃあ~~? 一晩中、ここで待機だな」
「仕方ないさ…………だが、その代わり、ベッドで休めるし、シャワーも浴びられる? 屋根もあるだけ、マシだろ? 場合によっては、弓を使う必要はあるかも知れんがな」
雨音が強くなる度に、ショーンは何だか杞憂な気分になってしまう。
そんな彼に、後ろを歩いていた、ワシントンは文句ばかり言ってられないと、真面目な顔で呟く。
「しかし、嵐か? 厄介だねぇ? ゾンビが割れた窓から入らないと良いんだけど」
「そうなったら、また戦わなければ成らないにゃ」
「それも面倒だな、できれば襲撃して来ない事を祈るぜ」
「そうなったら、戦うしかないっ! しかし、矢が足りるだろうか」
フリンカとミー達は、ゾンビの襲撃を警戒しながら、カーテンから離れて、廊下を歩いていく。
ショーンとワシントン達は、背後から聞こえる彼女らの声を聞いて呟く。
「そう言えば、リズの姿が見えないが、どうしたんだ? スバスの野郎も、何をしているんだ」
「彼女なら、老人たちの介護に向かったよ? 介護士か足りてないし? ほら、あの娘は子供とか、老人に優しいしからさ」
「スバスは、無線機で話したり、武器を作るとか? 何かするとか言ってたにゃ」
廊下の曲がり角を過ぎて、階段を下りながら、ショーンは仲間たちが、見当たらないと気がつく。
そんな彼に、フリンカとミー達は、彼等が何の仕事をしているか教えた。
「はあ? 連中も忙しいワケか? こりゃ、俺達も見張りだけでなく、ジジババの介護を手伝わないとな…………は?」
「おい? アンタら、高級ワインや珍しいビールを見つけたんだ? 今夜、どうだい?」
「何でも、チンピラ達のトラックに入ってたらしくてね? どうだい、そこの嬢ちゃんたちも? うひょひょっ!」
階段を下りて、一階にまで来ると、ショーンは老人達と出くわした。
段ボール箱やビールケースを抱えた、痩せた老人と太った老人たちだ。
「今夜、一杯、ぐっとさ?」
「へへへっ!さあ?」
「爺さんら? あのな…………」
「良いねぇ~~私は貰うわ」
痩せた老人と太った老人たちの目的は、ニヤついた顔から察するに、明らかに助平目的だ。
それに、ショーンは呆れながら呟く中、フリンカだけは、ビールケースから瓶を取り出した。
「はあ? フリンカ、大丈夫なのか? それに、見張りは?」
「にゃ~~? そうだにゃ? 酔っぱらったら、どうするにゃっ?」
「飲むのは止めないが、今は非常事態だから…………」
「大丈夫っ! こう見えて、私は酔いにくい体質だし、これも仕事の内だろう? 年寄りの相手を務めるのもさっ!」
助平ジジイどもの晩酌相手をすると聞いて、ショーンは心配する。
ミーも、飲み過ぎて酔いつぶれたり、Hな事をされないかと思う。
同様に、巡回の仕事中であり、ワシントンは少し不謹慎だと呟いた。
しかし、当のフリンカは皆に対して、自信満々に胸を叩いきながら答えた。
「うひょひょ、ひょひょひょひょっ! 美しい、お嬢さんも、こう言ってる事だし」
「さあ、さあ、お嬢さんっ! 私達が、エスコートしますよっ! ウヒヒ…………」
「ああ、望む所だねっ!!」
痩せた爺と太った爺たちは、乗り気になってる、フリンカに背中を押されて、奥に向かっていく。
しかし、二人とも箱を抱えている両手が塞がってなければ、確実に彼女の尻を触っていただろう。
「はぁ? 大丈夫か?」
「どうかにゃ…………」
「うぅむ? 心配だ」
ニタニタと鼻の下を伸ばす、色ボケ爺たちとともに、フリンカは行ってしまった。
その後ろ姿を見ながら、下心満々な連中と一緒に行ってしまう彼女を、ショーンは本気で心配する。
ミーとワシントン達も、悪い事をされたり、飲み過ぎて体を壊さないかと思った。
しかし、もしかしたら、そう言う事に慣れているのかも知れないと、彼等は考えた。