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第59話 建築現場から、サヨウナラ


 ショーンとクネラ達は、建築現場にある建造途中のビルに上がっていた。



「ここは、コンクリートで、床と天井だけは固めてあるからね」


「階段も設置されてるし、登るのに苦労もしないな」


 ビルの屋上に出た、クネラはホテル側を眺めて、ショーンも彼女に近寄る。



「じゃあ、アンタ等は下やホテルを見てて、私は裏側を見張るわ」


「分かってる、どれどれ?」


 そう言うと、クネラは裏側の方を見張りに行ってしまい、ショーンは道路を睨む。


 しかし、そこに敵影はなく、作業員たちが動く車だけを路肩に移動させる姿が見えた。



「あっちは…………」


 向かい側に立つ、ホテルを彼は眺めると、そこにはマルルンとジャーラ達が手を振っていた。



「敵影は無し」


「俺の目にも、敵は見えない? 弓を射つ必要もないな?」


 ショーンが何気なく呟くと、ワシントンも弓を構えて、ゾンビの群れやチンピラ達を探す。



「と言うか、不思議なものだな? 今まで、アンデッド族の討伐や盗賊団との戦いは経験した…………もちろん、猟師として、魔物とも戦ってきた」


「ワシントン? 俺も、こんな風にゾンビが暴れ回るなんて、映画やゲームでしか見た事がなかった」


 ワシントンは、急に真剣な話を初めて、ショーンは彼の言葉に耳を傾ける。



「アンデッド族にしたって、大体の奴は人間と暮らしてる…………しかし、ゾンビ族と感染者のゾンビは違う? あの暴れてる連中は、地下墳墓に潜む奴等と同じ? いや、感染力が強いぶん、よりたちが悪い」


「だな? 感染タイプで、ここまで、猛威を振るう奴なんて、初めてだからな? しかも、アンデッド族ですらも、感染者になってしまうし」


 新しい病は、アンデッド族ですら、別なアンデッド=感染者に変えてしまう。


 この事実に、ワシントンとショーン達は、互いに頭を悩ませるしかない。



「ああ、ここはまるで戦場のど真ん中っ! そして、さながら中立地帯だ」


「だな~~? 死者の群れは暴れだし、暴徒は町で略奪を繰り返す…………そのさまは、世の終末だ」


 マリンピア・シティーの現状を、ワシントンは戦場に例えて、そっと溜め息を吐いた。


 対するショーンは、ゾンビ達が暴れるさまを、聖書の言葉を借りて、終末であると表現した。



「終末か? お前は、救世主か? ショーン」


「いや、ただの冒険者だよ? と言っても、今は失業中かな?」


 ワシントンは、ショーンに期待したが、残念ながら、彼もまた一人の人間でしかない。



「ははっ! そこは、嘘でも救世主だと言って欲しかったぜ」


「んな事を言われてもな…………てか、何処に行くんだ?」


 笑いながら、ワシントンは、静かに階段の方へと向かっていく。


 ショーンは、いきなり去っていこうとする彼が気になり、行き先を質問した。



「トイレだよ、流石に高い所は風が強いからな? 何だか寒くて、震えてきちまってな」


「言われれば、確かに風が冷たいな? これじゃ、頬が痛くなるぜ」


 寒風が吹いてきて、ワシントンは尿意を我慢できなくなったらしく、ショーンも冷たさを感じる。


 そうして、二人が話し終えると、急に天気が悪くなってきていた。



「んあ…………雨か? それに、風が強くなってきている?」


「ショーン、どうやら台風が近づいているらしいにゃ?」


「マルルンが、望遠鏡で海を眺めたら、黒雲が見えたんだとさ? さっき、伝令が来てたらしいよ」


 ぽつらぽつらと振りだした雨粒は、ショーンの頬に当たり、風も勢いを増し始めた。


 そこに、ミーとフリンカ達が現れて、ここは危険だと彼に告げる。



「そうか? 流石に、嵐の中では作業も出来ないし、俺達も動けないよな?」


「クネラ、除去作業が終わった、あと嵐が近づいているらしいぞ」


「そうかい? じゃあ、私達は建物の中に避難するとしますか」


 ショーンは、台風が来ると、作業や見張りすら危険だと思い、すぐに階段を降りていこうとする。


 そこに、リザードマン作業員が現れて、クネラに報告と伝言を話に歩いてきた。



「ショーンだったかい? すでに、そっちも知っているだろうけど、私達は嵐の中じゃ見張りも出来ない」


「ああっ! その代わり、建物の中で、巡回するくらいは出来るだろう?」


 海が荒れて、強風が吹く前に、クネラとショーン達は階段へと歩いていく。



「そうして、貰えると助かるわ」


「それじゃ、下に向かうか」


 階段を下りていく、クネラとショーン達は、やがて、二階から建物内部に入っていった。



「廊下は、明かりが外から見えないように、カーテンをしないと? 年寄りが歩く時だけは、付き添いと明かりを照らすようにして」


「その間は、強風で窓が割れたり、ゾンビやチンピラの襲撃から、ここを守らなければ成らないな」


 クネラは廊下を歩いていき、裏側に面する窓のカーテンを引っ張っていく。


 ショーンは、それより先を歩き、鋭い目付きで、外を睨みながら敵影を探す。



「雨が強くなってきたわね? じゃあ、私は戸締まりや、入口に蜘蛛糸を使った、罠を張りに行くから」


「ああ、分かったぜっ! 俺達は適当に廊下を歩いているからな」


 パラパラと強い音を立てながら、雨粒が降り落ちてきて、窓から外の様子が分からなくなる。


 こうなると、出来る事は限られてしまうが、クネラは何かしらの準備をしようと、廊下を歩いた。



 一方、ショーンも薄暗い建物の中を把握しようと、奥へと向かっていく。


 その途上、風が吹く音が段々と大きくなってきて、嵐が近づく雰囲気を、彼は感じた。



「はあ? マルルンの見立て通り、こりゃあ~~? 一晩中、ここで待機だな」


「仕方ないさ…………だが、その代わり、ベッドで休めるし、シャワーも浴びられる? 屋根もあるだけ、マシだろ? 場合によっては、弓を使う必要はあるかも知れんがな」


 雨音が強くなる度に、ショーンは何だか杞憂な気分になってしまう。


 そんな彼に、後ろを歩いていた、ワシントンは文句ばかり言ってられないと、真面目な顔で呟く。



「しかし、嵐か? 厄介だねぇ? ゾンビが割れた窓から入らないと良いんだけど」


「そうなったら、また戦わなければ成らないにゃ」


「それも面倒だな、できれば襲撃して来ない事を祈るぜ」


「そうなったら、戦うしかないっ! しかし、矢が足りるだろうか」


 フリンカとミー達は、ゾンビの襲撃を警戒しながら、カーテンから離れて、廊下を歩いていく。


 ショーンとワシントン達は、背後から聞こえる彼女らの声を聞いて呟く。



「そう言えば、リズの姿が見えないが、どうしたんだ? スバスの野郎も、何をしているんだ」


「彼女なら、老人たちの介護に向かったよ? 介護士か足りてないし? ほら、あの娘は子供とか、老人に優しいしからさ」


「スバスは、無線機で話したり、武器を作るとか? 何かするとか言ってたにゃ」


 廊下の曲がり角を過ぎて、階段を下りながら、ショーンは仲間たちが、見当たらないと気がつく。


 そんな彼に、フリンカとミー達は、彼等が何の仕事をしているか教えた。



「はあ? 連中も忙しいワケか? こりゃ、俺達も見張りだけでなく、ジジババの介護を手伝わないとな…………は?」


「おい? アンタら、高級ワインや珍しいビールを見つけたんだ? 今夜、どうだい?」


「何でも、チンピラ達のトラックに入ってたらしくてね? どうだい、そこの嬢ちゃんたちも? うひょひょっ!」


 階段を下りて、一階にまで来ると、ショーンは老人達と出くわした。


 段ボール箱やビールケースを抱えた、痩せた老人と太った老人たちだ。



「今夜、一杯、ぐっとさ?」


「へへへっ!さあ?」


「爺さんら? あのな…………」


「良いねぇ~~私は貰うわ」


 痩せた老人と太った老人たちの目的は、ニヤついた顔から察するに、明らかに助平目的だ。


 それに、ショーンは呆れながら呟く中、フリンカだけは、ビールケースから瓶を取り出した。



「はあ? フリンカ、大丈夫なのか? それに、見張りは?」


「にゃ~~? そうだにゃ? 酔っぱらったら、どうするにゃっ?」


「飲むのは止めないが、今は非常事態だから…………」


「大丈夫っ! こう見えて、私は酔いにくい体質だし、これも仕事の内だろう? 年寄りの相手を務めるのもさっ!」


 助平ジジイどもの晩酌相手をすると聞いて、ショーンは心配する。


 ミーも、飲み過ぎて酔いつぶれたり、Hな事をされないかと思う。



 同様に、巡回の仕事中であり、ワシントンは少し不謹慎だと呟いた。


 しかし、当のフリンカは皆に対して、自信満々に胸を叩いきながら答えた。



「うひょひょ、ひょひょひょひょっ! 美しい、お嬢さんも、こう言ってる事だし」


「さあ、さあ、お嬢さんっ! 私達が、エスコートしますよっ! ウヒヒ…………」


「ああ、望む所だねっ!!」


 痩せた爺と太った爺たちは、乗り気になってる、フリンカに背中を押されて、奥に向かっていく。


 しかし、二人とも箱を抱えている両手が塞がってなければ、確実に彼女の尻を触っていただろう。



「はぁ? 大丈夫か?」


「どうかにゃ…………」


「うぅむ? 心配だ」


 ニタニタと鼻の下を伸ばす、色ボケ爺たちとともに、フリンカは行ってしまった。


 その後ろ姿を見ながら、下心満々な連中と一緒に行ってしまう彼女を、ショーンは本気で心配する。



 ミーとワシントン達も、悪い事をされたり、飲み過ぎて体を壊さないかと思った。



 しかし、もしかしたら、そう言う事に慣れているのかも知れないと、彼等は考えた。


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