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第58話 戦闘後の処理


 戦闘は終了したが、ヨランダの死体を見ながら、フリンカとショーン達は、立ち尽くしていた。



「ショーン、何時までも見ていられないね」


「そうだな、死体を埋めてやりたいが、それもできない」


 ヨランダから離れて、フリンカは周囲に散らばる死体を、起き上がらないように解体していく。


 そんな彼女の後ろを見ながら、ショーンは暗い顔を浮かべながら、呆然と立ち尽くす。



「済まなかった…………お前たちにだけ、戦闘を任せてしまって、もう少し早く助けに来ていれば…………」


 そう呟きながら、ヨランダの頭に、アゴからトリップソードを突っ込む。


 また、彼女の首を両手で掴み、倒れている体に、そっと静かに添えた。



「何時までも、戦死した奴には構ってられねぇんだ? お前の仲間のためにも、もう行かせて貰うからな」


 ショーンは、それだけ言うと、バリケードを気づいていた、作業員たちの場所へと向かう。



「急げ、急げ、敵が来る前に、入口を塞がないとっ!」


「こっちの見張りは任せろっ! 敵は見えないっ!」


「こっちの車に、無線機と武器があるぞっ!」


「ホテル側も無事のようだっ!」


 黄色いヘルメットを被る、アラブ人の作業員は、木箱を運んで歩いていく。


 黄緑色ヘルメットを被る、オークの作業員も鉄筋を握りしめて、入口に立って警戒している。



 黄色いヘルメットを被る、リザードマン作業員は、海トカゲ団のトラックから出てくる。


 黄緑色のヘルメットを被る、青アリ人間は、ホテル屋上で、弓を振るう人影を見た。



「なあ? 俺の仲間たちは、建築資材を貰いに来たんだ? ここの責任者に合わせてくれないか?」


「後にしてくれっ!」


「現場監督なら、さっき、アンタが殺したよ? ヨランダが俺達のリーダーだったんだ」


 ショーンは、建築現場での戦闘を終えたあと、次なる襲撃に備えて動く、作業員たちに声をかけた。


 彼の前には、異臭を漂わせる死体と、投げられた鉄筋などが散乱して、地面に広がっている。



 黄色いヘルメットを被る、リザードマン作業員は、海トカゲ団が残した武器を回収している。


 黄緑色のヘルメットを被る、青アリ人間も、彼を手伝い、忙しせうに動いていた。



「リーダー、ヨランダは残念だったわね?」


「本当に、そうだな? それに、誰と話せば…………」


 誰か分からないが、女性の声が聞こえて、ショーンは相槌を打ちがながら語る。


 彼は、深呼吸をしながら、溜め息を吐いて、気持ちを整理しようとする。



「って、誰だっ! ゾンビと蜘蛛の融合した化け物かっ!?」


「はっ! 違う、違う、バイオアルマゲドンのプレイし過ぎだって」


 ショーンは、背中に感じた恐怖や緊張により、すぐさま背後に振り向きざまに、剣を抜き取る。


 そんな彼の前に現れた敵は、逆さまに糸で、吊り下がった、女郎蜘蛛アラクネだった。



「私は鳶職とびしょくのクネラだよ? あそこの上から鉄筋を投げて、援護してたでしょ? 私、昆虫族と人間のハーフよ、ハーフよっ!」


「なな、なんだよ、脅かすんじゃね~~よっ!」


 クネラと名乗る作業員を、よく見れば、頭に黄色いヘルメットを被っている。


 彼女は、オレンジの作業ベストを着ており、下半身には、黄色いミニスカートを履いている。



 そして、黒い八本の脚が動いており、それを見ながら、ショーンは呟いた。


 新たな敵が、奇襲してきたと思った彼は、トリップソードを鞘に仕舞う。



「と言うか? あの鉄骨の足場から、鉄筋を投げていたんだな?」


「そうよ、糸網や蜘蛛糸を使った攻撃も出来たけど、下半身を晒す危険があるし、何発も出せないからね」


 建築途中のビルを見上げて、ショーンは高い所から鉄筋を落とせば、相当な威力を発揮すると思う。


 その質問に対して、クネラは両腕を組んで、困ったような表情を浮かべながら答えた。



「バリケードの設置が完了したっ!」


「終わったぞ、次は見張りに着けっ!」


「なあ? アンタら、何で建築現場を守っているんだ」


「老人たちを、見捨てられなかったからだよ」


 黄色いヘルメットを被る、バッタ人間の作業員は、次なる仕事を探して走り回る。


 黄色いヘルメットの黒人作業員は、高い場所から周囲を警戒しようと、ビルにまで走っていく。



 忙しそうに作業する彼等に対して、ショーンは疑問に思った事を口にする。


 すると、クネラが糸を切って、地面に降りながら両手を振りつつ、彼の質問に答えてくれた。



「ここは、増築作業中の老人ホームなんだよ? それで、私たちはジジババ達を見捨てる訳にもいかずっ! ホテル側と共同で、防衛や巡回をしていたのよ?」


「無線機とかは、なかったのか?」


 クネラの答えに、ショーンは満足したが、別な疑問が浮かび、それを質問する。



「無線機だけど、クレーン車、ショベルカーとかは、まだ来てなかったのよね…………来てたら、それ等の車両に搭載されてて、使えるんだけど? ホテル側も、ラジオまでしか準備してなかった見たいだし」


「なるほどな? おい、アラブ人の大工さんよ? さっき、無線機の話をしてたな? 無線機なら、俺の仲間のターバンを巻いてる奴が、うまく使えるから、奴に使わせてくれないか?」


「ああ? 分かったよ、それで? 何処の誰に助けを求めるんだ?」


 クネラの説明を聞いて、ショーンは頷きながら、目に入った人物を呼ぶ。


 黄色いヘルメットを被る、アラブ人の作業員は、鉄管を担いでいたが、後ろに振り向いて答えた。



「沿岸警備隊の事務所だ、ここに救援や食糧を回して貰う代わりに、建築資材を交換材料に貰いたい」


「食糧か…………」


「まあ、資材は色々と余っているんだけどね? しかし、これで町に出向く必要も無くなるわね」


 ショーンは、支援する代わりに、資材を入手しようと、交渉を申し出る。


 アラブ人作業員とクネラ達は、老人ホームを見ながら、彼の提案を受け入れようかと思った。



「そうだな、そうなりゃ、俺達は防衛に徹する事ができる」


「無線機も見つかった事だし、避難民を集める事もできるな」


「そういや、アンタ等はバリケードを張りながら戦っていたけど、何処から来たんだ?」


「彼等は、食糧や武器を探しに行った散策チームよ、襲撃に気がついて、三番目の入口から戻って来たのよ」


 アラブ人作業員とバッタ人間作業員たちは、食糧を確保できると聞いて、少しだけ笑みを浮かべる。


 そんな彼等に対して、ショーンは首を傾げて、いったい何処から現れたのかと質問する。



 ふと、頭に浮かんだ彼の疑問には、クネラが丁寧に答えてくれた。



「そうだ、戻ってみりゃ、この有り様だ」


「アンタ等が、敵を呼んだのか?」


「違うわよ、いつものチンピラ集団じゃなくて、今回は海トカゲ団が襲撃してきたのっ! そこに、銃撃音に吊られて、ゾンビも集まって来たわけよ」


 建築現場の惨状を見て、アラブ人作業員とバッタ人間作業員たちは、ショーンを怪しむ。


 しかし、両手を振りながら、クネラが彼等に事の発端を話して、弁明してくれた。



 そこに、体格の良い、白衣を着ているトロールが、こちらに歩いてくる。


 さらに、サキュバスらしき女性も、マチェットを両手に握りながら、やってくる姿が見えた。



「ああ~~? お話中、悪いんだが? ショーン、全員無事なのか?」


「ホテル側も、かなり犠牲が出たけど、敵を撃退してきたわっ!」


 建築現場に現れたのは、ゴードンとカーニャ達で、二人とも無事であった。



「そっちの状況は分かったっ! 二人とも、ご苦労だったな? これから、昼飯を食べたら資材を運ぶため、午後から車両を退かすっ! それが終わったら、沿岸警備隊の事務所に戻ろう」


「また、力仕事か? 仕方ないな」


「やるっきゃ、無いんだね…………」


 ショーンの話を聞いて、ゴードンとカーニャ達は、面倒な仕事に嫌そうな顔を見せる。


 二人とも、やらなきゃ成らないのは分かっているが、それでも、重たい荷物を運びたくないからだ。



「クネラ、無線機で沿岸警備隊の事務所には、食糧が必要だと連絡するから、代わりに資材を運ぶっ! そのために、後で車両の移動と資材の運搬を手伝ってくれないか?」


「それなら、私達だけでやるよ? 慣れている連中だけで、やっている方が早いからね? その代わりに、ここの見張りを頼むからね」


 二人の表情を見ながら、自らも疲れた顔を、ショーンは浮かべる。


 だが、そんな彼等に対して、クネラは力仕事や雑用などは、自ら進んでやると言いだした。



「有り難う、非常に助かる」


「うんや、車両もバリケードや見張り台に使いたいからね」


 こうして、ショーンとクネラ達は、建築現場の死体を片付けた後、昼飯を食べにいく。


 もちろん、何人か建物の上に、見張りを残して、交代制で警戒は怠らなかった。

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