戦闘は終了したが、ヨランダの死体を見ながら、フリンカとショーン達は、立ち尽くしていた。
「ショーン、何時までも見ていられないね」
「そうだな、死体を埋めてやりたいが、それもできない」
ヨランダから離れて、フリンカは周囲に散らばる死体を、起き上がらないように解体していく。
そんな彼女の後ろを見ながら、ショーンは暗い顔を浮かべながら、呆然と立ち尽くす。
「済まなかった…………お前たちにだけ、戦闘を任せてしまって、もう少し早く助けに来ていれば…………」
そう呟きながら、ヨランダの頭に、
また、彼女の首を両手で掴み、倒れている体に、そっと静かに添えた。
「何時までも、戦死した奴には構ってられねぇんだ? お前の仲間のためにも、もう行かせて貰うからな」
ショーンは、それだけ言うと、バリケードを気づいていた、作業員たちの場所へと向かう。
「急げ、急げ、敵が来る前に、入口を塞がないとっ!」
「こっちの見張りは任せろっ! 敵は見えないっ!」
「こっちの車に、無線機と武器があるぞっ!」
「ホテル側も無事のようだっ!」
黄色いヘルメットを被る、アラブ人の作業員は、木箱を運んで歩いていく。
黄緑色ヘルメットを被る、オークの作業員も鉄筋を握りしめて、入口に立って警戒している。
黄色いヘルメットを被る、リザードマン作業員は、海トカゲ団のトラックから出てくる。
黄緑色のヘルメットを被る、青アリ人間は、ホテル屋上で、弓を振るう人影を見た。
「なあ? 俺の仲間たちは、建築資材を貰いに来たんだ? ここの責任者に合わせてくれないか?」
「後にしてくれっ!」
「現場監督なら、さっき、アンタが殺したよ? ヨランダが俺達のリーダーだったんだ」
ショーンは、建築現場での戦闘を終えたあと、次なる襲撃に備えて動く、作業員たちに声をかけた。
彼の前には、異臭を漂わせる死体と、投げられた鉄筋などが散乱して、地面に広がっている。
黄色いヘルメットを被る、リザードマン作業員は、海トカゲ団が残した武器を回収している。
黄緑色のヘルメットを被る、青アリ人間も、彼を手伝い、忙しせうに動いていた。
「リーダー、ヨランダは残念だったわね?」
「本当に、そうだな? それに、誰と話せば…………」
誰か分からないが、女性の声が聞こえて、ショーンは相槌を打ちがながら語る。
彼は、深呼吸をしながら、溜め息を吐いて、気持ちを整理しようとする。
「って、誰だっ! ゾンビと蜘蛛の融合した化け物かっ!?」
「はっ! 違う、違う、バイオアルマゲドンのプレイし過ぎだって」
ショーンは、背中に感じた恐怖や緊張により、すぐさま背後に振り向きざまに、剣を抜き取る。
そんな彼の前に現れた敵は、逆さまに糸で、吊り下がった、
「私は
「なな、なんだよ、脅かすんじゃね~~よっ!」
クネラと名乗る作業員を、よく見れば、頭に黄色いヘルメットを被っている。
彼女は、オレンジの作業ベストを着ており、下半身には、黄色いミニスカートを履いている。
そして、黒い八本の脚が動いており、それを見ながら、ショーンは呟いた。
新たな敵が、奇襲してきたと思った彼は、トリップソードを鞘に仕舞う。
「と言うか? あの鉄骨の足場から、鉄筋を投げていたんだな?」
「そうよ、糸網や蜘蛛糸を使った攻撃も出来たけど、下半身を晒す危険があるし、何発も出せないからね」
建築途中のビルを見上げて、ショーンは高い所から鉄筋を落とせば、相当な威力を発揮すると思う。
その質問に対して、クネラは両腕を組んで、困ったような表情を浮かべながら答えた。
「バリケードの設置が完了したっ!」
「終わったぞ、次は見張りに着けっ!」
「なあ? アンタら、何で建築現場を守っているんだ」
「老人たちを、見捨てられなかったからだよ」
黄色いヘルメットを被る、バッタ人間の作業員は、次なる仕事を探して走り回る。
黄色いヘルメットの黒人作業員は、高い場所から周囲を警戒しようと、ビルにまで走っていく。
忙しそうに作業する彼等に対して、ショーンは疑問に思った事を口にする。
すると、クネラが糸を切って、地面に降りながら両手を振りつつ、彼の質問に答えてくれた。
「ここは、増築作業中の老人ホームなんだよ? それで、私たちはジジババ達を見捨てる訳にもいかずっ! ホテル側と共同で、防衛や巡回をしていたのよ?」
「無線機とかは、なかったのか?」
クネラの答えに、ショーンは満足したが、別な疑問が浮かび、それを質問する。
「無線機だけど、クレーン車、ショベルカーとかは、まだ来てなかったのよね…………来てたら、それ等の車両に搭載されてて、使えるんだけど? ホテル側も、ラジオまでしか準備してなかった見たいだし」
「なるほどな? おい、アラブ人の大工さんよ? さっき、無線機の話をしてたな? 無線機なら、俺の仲間のターバンを巻いてる奴が、うまく使えるから、奴に使わせてくれないか?」
「ああ? 分かったよ、それで? 何処の誰に助けを求めるんだ?」
クネラの説明を聞いて、ショーンは頷きながら、目に入った人物を呼ぶ。
黄色いヘルメットを被る、アラブ人の作業員は、鉄管を担いでいたが、後ろに振り向いて答えた。
「沿岸警備隊の事務所だ、ここに救援や食糧を回して貰う代わりに、建築資材を交換材料に貰いたい」
「食糧か…………」
「まあ、資材は色々と余っているんだけどね? しかし、これで町に出向く必要も無くなるわね」
ショーンは、支援する代わりに、資材を入手しようと、交渉を申し出る。
アラブ人作業員とクネラ達は、老人ホームを見ながら、彼の提案を受け入れようかと思った。
「そうだな、そうなりゃ、俺達は防衛に徹する事ができる」
「無線機も見つかった事だし、避難民を集める事もできるな」
「そういや、アンタ等はバリケードを張りながら戦っていたけど、何処から来たんだ?」
「彼等は、食糧や武器を探しに行った散策チームよ、襲撃に気がついて、三番目の入口から戻って来たのよ」
アラブ人作業員とバッタ人間作業員たちは、食糧を確保できると聞いて、少しだけ笑みを浮かべる。
そんな彼等に対して、ショーンは首を傾げて、いったい何処から現れたのかと質問する。
ふと、頭に浮かんだ彼の疑問には、クネラが丁寧に答えてくれた。
「そうだ、戻ってみりゃ、この有り様だ」
「アンタ等が、敵を呼んだのか?」
「違うわよ、いつものチンピラ集団じゃなくて、今回は海トカゲ団が襲撃してきたのっ! そこに、銃撃音に吊られて、ゾンビも集まって来たわけよ」
建築現場の惨状を見て、アラブ人作業員とバッタ人間作業員たちは、ショーンを怪しむ。
しかし、両手を振りながら、クネラが彼等に事の発端を話して、弁明してくれた。
そこに、体格の良い、白衣を着ているトロールが、こちらに歩いてくる。
さらに、サキュバスらしき女性も、マチェットを両手に握りながら、やってくる姿が見えた。
「ああ~~? お話中、悪いんだが? ショーン、全員無事なのか?」
「ホテル側も、かなり犠牲が出たけど、敵を撃退してきたわっ!」
建築現場に現れたのは、ゴードンとカーニャ達で、二人とも無事であった。
「そっちの状況は分かったっ! 二人とも、ご苦労だったな? これから、昼飯を食べたら資材を運ぶため、午後から車両を退かすっ! それが終わったら、沿岸警備隊の事務所に戻ろう」
「また、力仕事か? 仕方ないな」
「やるっきゃ、無いんだね…………」
ショーンの話を聞いて、ゴードンとカーニャ達は、面倒な仕事に嫌そうな顔を見せる。
二人とも、やらなきゃ成らないのは分かっているが、それでも、重たい荷物を運びたくないからだ。
「クネラ、無線機で沿岸警備隊の事務所には、食糧が必要だと連絡するから、代わりに資材を運ぶっ! そのために、後で車両の移動と資材の運搬を手伝ってくれないか?」
「それなら、私達だけでやるよ? 慣れている連中だけで、やっている方が早いからね? その代わりに、ここの見張りを頼むからね」
二人の表情を見ながら、自らも疲れた顔を、ショーンは浮かべる。
だが、そんな彼等に対して、クネラは力仕事や雑用などは、自ら進んでやると言いだした。
「有り難う、非常に助かる」
「うんや、車両もバリケードや見張り台に使いたいからね」
こうして、ショーンとクネラ達は、建築現場の死体を片付けた後、昼飯を食べにいく。
もちろん、何人か建物の上に、見張りを残して、交代制で警戒は怠らなかった。