目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第118話 第二次カレー戦争

―――天狐を捕縛している空間から葵と出てから八雲はその空間を閉じるとふたりで厨房に向かった。


厨房ではアクアーリオとフィッツェが指示を出して、それをユリエルと雪菜が一緒に手伝っていた―――


ユリエルも転生者、雪菜も転移者でカレーの知識があるから率先して手伝っていたのだ。


だが、まだ雪菜はユリエルが転生者だという事実は知らない。


「香りからして、もう出来上がりか?」


「―――あ、八雲様♪ はい、後は盛り付けするだけで皆様向こうのテーブルにお着きになっています」


厨房から隣の部屋に向かうと桁違いに長いテーブルの上座にノワール、そしてその膝の上にはシェーナ。


左に八雲の席とその隣に雪菜、白雪の席を用意し、そしてダイヤモンドとその膝の上に眠そうなトルカが座っている。


その横に葵、ユリエル、ヴァレリア、シャルロットが並んで座った。


右にはイェンリン、紅蓮、そしてフレイアとその膝の上には元気なレピスがもぞもぞニコニコしてフレイアを見上げている。


そしてその横にエディスとエヴリン親子とレベッカが座っていた。


その向こう左右に座る龍の牙ドラゴン・ファング達の中でアリエスの膝の上には話好きのルクティアが、あのね♪ あのね♪ とアリエスに一生懸命に話をしているのが微笑ましい。


そんなテーブルの景色を眺めて八雲はダイヤモンドとフレイアといった子守りなどしたことがないため、緊張してガチガチになって子供の相手をしている様子に思わず吹き出していた。


子供達にコゼロークがひとりずつ首に子供用のエプロンを着けて回っている。


子供達のいる席には大人用の大きなカレー皿と、子供用の小さめの皿に入れられた甘口カレーが置かれた。


イェンリンと紅蓮と白雪は初めて見るカレーに、


「―――なんだ、これは?米の上に何かかけてあるが……見た目はアレだが、香りは食欲をそそるな」


「ええ、そうね。とっても良い匂いだわ。香辛料がしっかりと効いているのね」


「……辛いのかしら」


少し不安を感じながらも様々なスパイスが醸し出す食欲をそそるカレー特有の香りに、その場にいる全員が喉を鳴らす。


ヴァレリアにシャルロットもキャッキャ♪ と話しながらカレーに興味津々のようで、同じく初めてカレーを見るエディスとエヴリンも美味しそうな香りに笑みを溢していた。


だが、そんな中で龍の牙ドラゴン・ファング達は広間でシーンと静まり返って目の前のカレーを見つめながら、常人では捉えられない速度の視線で他の者を牽制している。


そこで八雲が―――


「今日はカレーの日だ……分かっていると思うが、おかわりは自由だが量には限度がある。そのことを踏まえて―――いただきますぅう!!!」


「―――いただきます!!!」


八雲の挨拶と同時に―――龍の牙ドラゴン・ファング達は黙々とカレーを口に運ぶ。


その異様な光景にイェンリンと紅蓮、白雪は少し引いているが―――


「うお!?―――なんだ!これは!美味いじゃないか!!」


「うん!凄いわ!―――こんな料理初めて食べたけど、これほどお米と合う料理があるなんて!」


「辛い!……でも美味しい♪ モグモグ……これはどんどん食べてしまう効果があるわ」


―――カレーを一口食べて一気にテンションが上がった。


「お、おお、おいひぃい♪ カレーが食べられるなんてぇ♪」


雪菜は涙を流しながらカレーを頬張り、その声を聴いたユリエルは、


「やっぱり八雲君のカレー最高♪ 専門店にも負けない美味しさだよ♪」


と口にしたことで、その言葉に雪菜は「ん?」とその言葉の違和感に気がつく。


「―――専門店?ティーグルにはカレー専門店があるの?」


と問い掛けると、ユリエルは思わず八雲に目線を送る。


「雪菜!後から話しがあるから今はカレーをたんまり食っとけ。次いつ作るか分からないぞ?」


「―――ええぇえ!?そ、それは大変!モキュモキュモキュモキュ♪」


と小さな口で一生懸命カレーを食べていく。


そんな中、子供達の面倒を見ている者は……


「あ、あ~んしてみようか?」


ダイヤモンドが恐る恐る膝の上のトルカに子供用の甘口カレーをスプーンで掬って、口を開けるように促すとトルカがゆっくりと小さな口を開ける。


その口に子供用の小さめのスプーンをプルプル震える手で運ぶと、トルカはパクリ!とスプーンを咥えて、その後ゆっくりモグモグして、


「……うまぁ~♪」


と言って普段眠そうにしている目を見開いて覚醒している姿を見せられてダイヤモンドが頬を赤らめる。


「はぁ~♡」


と虜にされて吐息を吐いていた。


フレイアの膝の上にいるレピスは元気過ぎて大人しく出来ない。


「あの、レピス。今は食事中ですから、お行儀良くご飯を食べましょう?」


フレイアに優しくそう促されると、レピスは振り返ってニカッと笑みを浮かべ、


「―――あい!ゴメンちゃい♪」


と元気に返事すると何故かフレイアがキュ~ン♡ と何かに目覚めた表情をしている。


「そ、それじゃあレピス、あ~んしてください♪」


どこか弾んだ声色になったフレイアに促され、小さなお口を大きく開いたレピスはスプーンをパクリ!と咥えてモグモグすると―――


「えへへ♪ しゅごい~おいちぃ♪」


と満面の笑みになってフレイアの心を鷲掴みにするのだった。


アリエスの膝の上にいるルクティアは自分で小さなスプーンを持って甘口カレーを食べていた。


ルクティアはお話好きであり、そして背伸びしたいお年頃の気持ちが強く出ていて、自分でやりたがる性格の子だった。


「ハフハフ!フ~!フ~!……あ~ん、モキュモキュ♪」


「―――ルクティアはもう自分で食べられて偉いですね」


「モキュモキュ♪ あのね!あのね!ルクティア食べられりゅ!」


アリエスに褒められてルクティアはムフー!とした表情で甘口カレーを食べていたが―――




―――ピチャ!




「あ……」


握っていた手の角度が傾いて子供用のスプーンから甘口カレーが零れ、それが貰ったばかりの白いワンピースの上に零れてしまった……


「……あう……うぇ……ふぇええ……」


貰ったばかりの新しい服にカレーを溢してしまったことで、パニックに陥ったルクティアは瞳に一杯涙を溜めて今にも大泣きしそうな状況になっている。


それをアリエスが声を掛けて、


「綺麗になるわ」


と宥めるが、ルクティアは食べ物を溢したことに恥ずかしい気持ちが溢れてきて涙は決壊寸前だった。


だがそこに八雲がやってきて、風属性基礎ウィンド・コントロール水属性基礎ウォーター・コントロールを発動するとルクティアのワンピースに着いたカレー色になった部分の繊維に水を通し、風で乾かして一瞬で汚れを落とした。


「大丈夫だよ、ルクティア。今度からはゆっくりよく噛んで食べような」


八雲にそう言われて頭を撫でられるとルクティアはキラキラした瞳と笑顔を八雲に向けて、


「あのね!あのね!ありあと!!/////」


と元気にお礼を言って、今度はゆっくりとカレーを掬って食べ始めた。


「ありがとうございます。八雲様/////」


泣き出さずに落ち着いたことでアリエスも八雲の心遣いに感銘を受け、熱い視線で礼を言う。


「このくらい大丈夫だ」


アリエスの頭にポンと手を置いて八雲は自分の席に戻っていった。


その頃ノワールはいつものようにシェーナに甘口カレーを食べさせていた。


「ほぉ~ら♪ シェーナ、あ~ん♡」


「……あ~」


最早慣れた手つきでスプーンをシェーナの口に運ぶと、


「どうだぁ?シェーナ♪ 美味ちいかぁ?」


「……ちょ~おいちい」


「―――あれ!?語彙力上がった?!」


シェーナの感想を聞いて八雲が思わずツッコミを入れていた。


「しかし……あれは完全に親バカではないか?」


イェンリンはノワールを見ながら自分のカレーを頬張っていく。


「あのノワールが、母親って偉大だわ……」


紅蓮もカレーを楽しみながら昔は孤高の神龍として孤独だったノワールと今のノワールのギャップに驚いていた。


シャルロットやヴァレリアもカレーに舌鼓を打ち、ニコニコしながら上品にゆっくり食べていた。


エディスとエヴリンの親子も初めてのカレーがよっぽど気に入ったのか、エヴリンはレオパールに店を作るとまで言い出していた。


黒龍城で初めてカレーを食べるサジテールも大人用の辛さに驚きながらも、食欲が進みガツガツ食べている。


―――しかし、


そこからが龍の牙ドラゴン・ファング達のカレー争奪戦の開始だった―――




―――即行で皿を空にしたヘミオスはすぐに厨房に駆けていく。


―――それに続くようにして体育会系健康美少女ジェーヴァが追いかける。


―――食い意地なら負けないジェナも獣の速さで皿を持って厨房に走る。


―――するとコゼロークもそれに続き、しかも皿を巨大な皿に変えて大盛を持って帰ってきた。


―――それを見たイェンリンが参戦して同じく大皿で大盛を持ち帰ると、そこからは収集がつかないカレー争奪戦になっていった……


―――さすがにイェンリンとスコーピオが武器を取り出したところでストップが掛かり、イェンリンは紅蓮の説教を喰らっていた。




葵やユリエルや雪菜、ヴァレリアにシャルロット、そしてエディスにエヴリンと同席したレベッカは普通の女の子レベルの食事量なので、おかわりまではしなくても十分満足だった。


子供達も用意された甘口カレーで皆がケプッ♪ と満腹になっている。


後は繰り返される厨房との行き来が個人個人で何往復も続き、漸く落ち着いてきたところで八雲から―――


「この辺でごちそうさましようか。はい!御馳走様でした!それと―――」


「―――カレーは二日目が美味しい!!!!!」


まるで企業のスローガンのようにノワール始め龍の牙ドラゴン・ファング達全員が唱和すると、


「……おいちい!」


と最後に可愛いシェーナの声で第二次カレー戦争は終結したのだった―――






―――そして、


レベッカは子供達を連れて帰ることになり、フレイアとダイヤモンドが率先して護衛になると言い出して送って行った。


フレイアとダイヤモンドの変わり様に紅蓮と白雪が苦笑いしつつも娘の成長を見る様な気持ちになる。


八雲はこの後ノワールに葵とユリエルと雪菜に白雪、ヴァレリアとシャルロットとエディスを呼び、話があると自室に呼んだがそこにイェンリンと紅蓮が―――


「―――乙女達を自室に連れ込むとは、余も参加するとしよう!」


と言い出し、あからさまに嫌な顔をする八雲を見て、


「余からも話があるのだ。心配するな、暴れたりせん」


と約束するイェンリンだったが、そこで紅蓮に視線を送ると頷き返してきたので仕方なく部屋に通した。


「うわぁ♪ 此処が八雲の部屋なの!?すごく豪華だねぇ♪」


日本で八雲の部屋にも入ったことのある雪菜から見れば、比較にならないくらい広く豪華な部屋だ。


雪菜を筆頭にこの部屋に初めて入る乙女達は部屋を色々見て回る。


そこには大きな書斎机にソファーとテーブルが綺麗に置かれているスペースにはクローゼットもあり、入口とは別にあるふたつの扉を開けてみるとひとつはトイレ、もうひとつは立派なシャワー付きの広々とした美しい浴室だった。


そして何より何人で寝るんだ!これ?と言っていいくらいの巨大なベッドが部屋の奥を陣取って置かれていて、当然八雲LOVEな乙女達は妄想が捗り顔を赤くする……


「浴室まで付いているのか……おい紅蓮。この部屋、余の部屋よりも豪華なんだが?」


「貴女の部屋も十分豪華よイェンリン。それに質素倹約を皇帝自身が体現しないと示しがつかない!と言ったのは貴女でしょう」


「もう三百年くらい質素にしているのだから、もう少し豪華にしても文句はないだろう」


「―――好きにしなさい」


呆れ顔の紅蓮を余所に八雲は全員に大きくて長いソファーに座ってもらい、給仕に呼んだレオとリブラにお茶の用意をしてもらう。


「さて……どこから話したものか。まずはさっき玉座の間にいなかった子もいるから事実だけを話すことにしよう。俺はアンゴロ大陸出身じゃない。むしろこの世界の人間じゃなくて、別の世界から来た人間なんだ」


この事実を知っている者は動じないが、先ほど玉座の間にいなかった八雲の出自について話を初めて聞く者はポカーンとした顔になっていた。


「八雲が今言ったことは事実だ。我が保証する」


ノワールの言葉を聴いて漸く反応を示すヴァレリア達を見て八雲は話を続ける。


「ヴァレリア、シャルロット、ユリエル、エディス―――俺は皆のことは家族だと思っている。だから俺のことはちゃんと話しておきたかった」


そこから八雲はこの世界に来た時のことから今までのことを語った。


そしてこの話は遠く離れたフレデリカとカタリーナにも『龍紋』を通して聴かせていた。


「八雲様がそんな大変な想いをされていたなんて……」


ヴァレリアが哀しそうな瞳を向けているが八雲は笑顔を向けて―――


「でも―――そのおかげで皆に会えた」


―――と今が幸せだということを伝えた。


だが、話はまだ続く―――


「実は此処にいる雪菜は俺の幼馴染―――つまり別の世界で隣の家に住んでいた子なんだ」


―――この事実を知らない皆が雪菜に釘付けになる。


「実はそうなんです。八雲が突然いなくなって、ずっと探していて……でも突然この世界に飛ばされて絶望していたところで白雪に助けられて……そして皇国の皇帝になった八雲のことを知って此処まで会いに来たんです」


「―――雪菜様!それほどまでに八雲様のことを!よかったです。八雲様と雪菜様が再会出来て本当に良かったです!」


シャルロットが涙目になって雪菜にすがりつく。


「それともうひとつ。皆が聖女として知っているユリエルも実は俺達と同じ異世界人と言える」


「ええ!?―――聖女様まで異世界から来たんですか!?」


エディスが驚きの声を上げるが八雲は冷静に事情を説明していった―――


「―――転生者と転移者……まさかその様なことがあるなんて」


ヴァレリアは話が荒唐無稽に思えて思考が追いつかない。


「まさかユリエルさんが転生者なんて……だからカレー専門店とか話していたんだね。まるでアニメみたい」


雪菜はまるでアニメの物語のような状況を思い浮かべる。


「―――ん?あにめ?」


ノワールが首を傾げるがそこはスルーして、


「俺と雪菜とユリエルを取り巻く事情は今話した通りだ。だから何だという話で特に今までと変わることはない。でも俺の家族には知っておいてほしかった」


「余のことをそこまで想っていたとは、可愛いヤツよな」


「―――いやイェンリンは違うから。事情知っているから別にいいかと思っただけだから」


「フフン♪ 素直じゃないヤツだ」


「―――おい紅蓮。コイツの頭が大変だから早く『回復』掛けてやれ」


突然話しを振られた紅蓮は溜め息を吐きながら、


「もう手遅れよ……」


と、一言だけ呟いていた―――






―――その頃、あの閉ざされた八雲の『空間』では……


「フグ~ッ!!!ううう♡ うおおぁああ~♡♡♡……グフ…あ、ああおお♡」


口には粘液が形作ったギャグボールを噛まされ、声は言葉にならない唸り声と喘ぎ声だけが響く。


暗闇の空間の中で紫の光を放つ粘液に囚われ、過敏薬で全身性感帯にされた天狐が触手の愛撫によりあれから何度も気絶しては目覚めるを繰り返していた……


粘液の発する紫色の光に照らされた自らの身体が淫靡に浮かび上がり快感に身悶えている。


(も、もうイヤァア―――ッ!!!イ、イヤなのにぃいい!!!あおお♡ あ、ああ!また!またぐるぅう!!!!!/////)


助けを望んでもたったひとりしかいない空間で、天孤は無休で身体を弄られ開発されながら、そこでまたひとりで意識を遠のかせるのだった……



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?