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第233話 新たな剣の誕生と出発

―――8月8日


八雲の帰国宣言により明日にはアルブム皇国を旅立つことに、それぞれの神龍達の眷属は出発準備を進めている―――


白雪は白い妖精ホワイト・フェアリーの誰をヴァーミリオンに連れて行くかを選定していた。


「ダイヤ。此方に残す者と連れていく者の選定は終わったかしら?」


「はい、白雪様。明日同行するのは―――」




総長

不屈のダイヤモンド


副長

幸福のエメラルド


四番

情熱のルビー


六番

高潔のサファイア


七番

創造のオパール


八番

潔白のトパーズ


九番

誓いのラピスラズリ


十二番

聡明のアクアマリン




以上、八名が同行メンバーに選出された。


「―――エメラルドまで連れ出して、大丈夫なの?」


「はい。パールにペリドット、それにアメジストがいれば問題ないかと。それにオパールは天翔船雪の女王スノー・クイーンのメンテナンス、アクアマリンはその天翔船での物資輸送の任務でアルブムとシュヴァルツ、そしてヴァーミリオンの往来を担当してもらうこととなりますので」


「ハァ……まさかアルマー村の頑固者が九頭竜八雲を気に入るとはね。ホーネッツも好感を持ったようだし、関わらない訳にもいかないから貴女達にも協力してもらうけれど、雪菜もアルブムが栄えることには賛成している様だから宜しく頼むわね」


「ハッ!お任せください」


「ところで、サファイアは雪菜の傍にいたいから自分から言ってきたのでしょうけど、トパーズは貴女の判断?」


白雪からの問い掛けにダイヤモンドは少し表情を曇らせて答える。


「はい。トパーズはあまりに外へ出ないことは問題です。城の中のことは特に問題ありませんが、外に出ることを指示すると途端に腰が引けてしまいますから……」


「そう……あの子の性格だから半ば諦めていたところもあるけれど、この旅で少し変わるかも知れないわね。特に九頭竜八雲と関わっていると嫌でも変えられるわ」


「八雲様に、ですか?」


怪訝な表情を見せるダイヤモンドに白雪は無表情で応える。


「ダイヤモンド……貴女、今までの自分と彼に出会ってからの自分が本当に変わっていないと思っているの?あのイェンリンを自分の女にしたほどの男なのよ?」


その言葉にダイヤモンドはハッとした表情で、


「そう言えば確かに……白雪様も感情的なツッコミを―――」


「―――黙りなさい」


「あ、はい……」


と言い終わる前に遮られたが、ダイヤモンドは心の中で、


(そういうところですよ、白雪様。あなたも自分が影響を受けていることを認識していらっしゃるのに)


そう思ったが、口には出さなかった。


「引き続いて出発の準備を進めなさい。明日にはここを立つのだから」


「畏まりました。白雪様」


ダイヤモンドにそう命じた白雪は、執務室の机に積まれた留守中の報告に目を通していくのだった。


明日は出発の日だ―――






―――ちょうど、その頃。


八雲はフロックとオパールと一緒に城の工房に集まっていた。


「八雲様の『創造』は本当に凄いねぇ」


オパールはテーブルの上に並べられている八雲の『創造』の加護が生み出してきた、黒神龍装ノワール・シリーズの黒刀=夜叉と黒小太刀=羅刹を鞘から抜いて、その造りに目を見張る。


「ホントにいい出来の武器だ」


フロックも一緒に見ているが、八雲としては『創造』は職人のふたりには敵わないと考えているので、


「いや、ふたりが造る武器やシュティーアの方がよっぽど凄いさ。俺のは加護を用いて造っているだけだから」


「謙遜することはないさ。私には天翔船なんて造れないしね」


フロックは掌を上にして肩の横に上げてお手上げのサインを見せるとオパールも、


「アタイにも天翔船なんて代物は無理さね。それどころか魔術飛行艇エア・ライドなんて想像も及ばないよ。シュティーアはいいねぇ♪ こんな鍛冶師冥利に尽きる御子様の元に仕えることが出来て」


「だと良いんだが……」


そこで表情の暗い八雲を見て、オパールとフロックが顔を見合わせる。


「どうしたんだい?」


「何かシュティーアにあったの?」


「ああ、シュティーアは口にはしないけど、自分が黒神龍の鱗を加工出来ないことを気にしていると思うんだ」


八雲の言葉に、オパールとフロックの表情も真剣になる。


「そのことは、昔からアタイ達も相談に乗ったりはしてきたさ。けど、神龍様達の元にいる鍛冶のスキルを持った龍牙人の中でシュティーアだけは鱗の加工能力が顕現しなかった」


「神龍達全員に?ということは蒼神龍のところにも?」


するとフロックが答える。


「勿論いるよ。私達と同じく鍛冶のスキルを持った子がね。そうじゃなかったらマキシ様の『蒼夜』は誰が鍛えたって話になるだろ?」


「あ、確かにそうだな」


「セレスト様の眷属にいる鍛冶のスキル持ちの名前は蒼天の精霊シエル・エスプリイレヴン―――『自由』のリベルタスだよ。アタイ達とシュティーア、そしてそのリベルタスは大昔から神龍様の城で鍛冶の仕事を請け負っている鍛冶仲間さ」


「シュティーアの能力が決して劣っている訳じゃない。ただ、以前にノワール様にそのことを訊いたことがあるんだけど……」


「―――ノワールに?なんて言っていたんだ?」


フロックの言葉に八雲は喰いついた。


「鱗は所詮ただの鱗。心はシュティーアにある―――と、一言だけおっしゃっていたよ」


「禅問答かよ?心はシュティーアに……か」


「まあ、ここでアタイ達が四の五の言ったところで、シュティーアが出来るようになる訳じゃない。気になるならシュヴァルツに帰った時、シュティーアをヴァーミリオンに連れていったらいいんじゃないのかい?八雲様に身近で関わることで、あの子にも何か変化が起こるかも知れないよ」


「そうだな。ヴァーミリオンに行く時は街づくりを任せる理由で残ってもらったけど、今度一緒に連れて行くことにするよ」


「さあ、それじゃあ本題の話しをしましょうか?」


フロックが話題を変えて八雲は『収納』からある物を取り出す。


ゴトリと音を立ててテーブルの上に置かれた物は―――


「随分と派手に折ってくれたもんだねぇ……私の最高傑作だったのに」


―――それは、八雲が【呪術カース】によって操られたイェンリンを止めた時にへし折った紅蓮剣=業炎だった。


八雲の黒神龍装目録ノワールシリーズ・インデックスで召喚した武器によって強引に破壊された業炎を八雲は必ず直すと誓っていた。


「すまないフロック。でも、俺も剣士のはしくれだ。業炎を折る時に、必ず直してやるからと誓った。だからふたりの意見を聴きたくて相談に来たんだ」


「正直、一度折れた剣を繋げても、繋ぎ目が弱くなって脆くなるだけさ。そうなるとまた折れる。こうなると打ち直すしかないねえ。でもそれには時間が掛かる。この業炎を仕上げるのに私でも半年は時間を使ったよ。そのくらいの一品だったんだ」


そう言ってフロックは折れた刃をそっと指先で撫でる。


その姿を見ると八雲の胸の内もギュッと掴まれるような気分に陥った。


「こうなったのは俺の責任だ。だから、俺の『創造』で修理することを生みの親のフロックに許可してもらいたい」


八雲の決心を言葉にして伝えると、フロックは一瞬驚いた顔を見せるが、


「フフフッ、律儀な御子様だねぇ八雲様は!我が義姉妹イェンリンは八雲様に自分を捧げたんだろう?自分の妻に捧げる剣を夫の八雲様が造ることに何の断りがいると言うんだい?」


「それじゃ―――」


「―――但し!!やるからには私の業炎を超える剣じゃなきゃ許さないからね!!!」


覇気の込められた言葉に、八雲は背筋を伸ばしてフロックを真剣に見つめ直す。


そして―――


「今まで見た事のない剣を見せてやるよ!」


―――ニヤリと笑ってふたりを見つめる八雲。


そんな八雲にフロックもオパールも期待を込めてニヤリと笑みを返していた―――






―――それから日付が変わり、8月9日


八雲が宣言した帰国の日がやってきた。


白龍城には皇国の国王ホーネッツを始め、国の重鎮たる外交を担当する大臣も同席して挨拶にやってきていた。


「短い期間しか話せなかったことが本当に残念だ。また我が国に来られる時は是非とも我がホワイト城にお越し願いたい」


八雲の手を取って堅く握手をするホーネッツ。


「ええ、勿論また来ます。マダム・ビクトリアにもどうぞ宜しく伝えてください」


八雲のその言葉に、必ず伝えるとホーネッツは笑顔で約束する。


外交担当の大臣はアメジストとアクアマリンに挨拶をして今後のシュヴァルツとの国交について話し合う。


紅蓮とイェンリン、紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー達のところにもホーネッツは挨拶に向かう。


イェンリンは普段通りの振る舞いだったが、ホーネッツは大陸にその名を轟かせる剣聖を前にして、額に汗が浮かんでいた。


そうして出発の時刻になったところで―――


「イェンリン、ちょっといいか?」


イェンリンに近づいて声を掛ける八雲。


「ん?どうしたのだ?余のことが恋しくなって今から睦み合いたいのか?仕方のない奴め♪」


冗談めいた言い方で八雲を揶揄おうとするイェンリンだったが、八雲は『収納』を開く。


「イェンリンに返したい物がある」


「ん?余に返すだと?お前に何か貸した覚えなど―――」


「―――これだ」




八雲が『収納』から取り出したのは一振りの剣―――


―――以前の業炎から一回り大きくなった真紅に周囲が漆黒の鞘。


―――鍔は金の鍔に変わり柄は黒い黒神龍の革が用いられ、柄頭には真紅の宝玉が埋め込まれている。




その剣の鞘を掴み、イェンリンの前に横向けで差し出す八雲に彼女は言葉を失っている。


「お前の業炎を俺が破壊してしまったから、昨日フロックに許可してもらって俺が『創造』の加護で修復した。いや、見た目が変わったのは許して欲しいんだ!フロックとオパールと色々強化を考えていったら、こうなった」


少し申し訳なさそうにしながらも、最後は笑っている八雲の顔を見つめていたイェンリンは、その剣を受け取ると―――


「……お帰り……業炎」


―――そう一言、囁くように言った。


「抜いてみてくれないか?」


業炎を抱き締めているイェンリンにそっと八雲が声を掛ける。


「ああ、そうだな」


イェンリンは左手で鞘を、右手で柄を握るとゆっくり横にその剣を鞘から引き抜く―――


―――鞘からその刀身が現れると、


抜き去った刀身を目の前で縦に構えてその雄姿を見つめるイェンリン。


―――以前の真紅の刀身から今は真紅の刀身に漆黒の刃が合わさった一回り長くなった新たな剣。


―――見つめるイェンリンの顔が写り込むほどに磨き上げられた鏡面の真紅と漆黒の刀身。


その新たな剣にイェンリンは、ホゥと息を漏らす。


「八雲、この黒い部分はまさか?」


「お察しの通り、紅神龍の鱗で出来た業炎に黒神龍の鱗を合わせた世界でただ一振りの剣だ」


後ろで見ていた紅蓮やフォウリンもその言葉に驚きを隠せない。


「私とノワールの鱗を合わせて造るだなんて……本当に八雲さんは発想が凄いわね」


紅蓮の驚きもそうだが、


「我の鱗と紅蓮の鱗で造っただと!?そんなことが可能なのか!?」


同じく八雲の近くで聞いていたノワールは困惑して驚いていた。


するとイェンリンは剣を鞘に納めると―――


「それで?銘は何という?」


―――と、八雲に問い掛ける。


「え?いや業炎じゃないのか?」


「戯け!余の業炎とは似ても似つかぬ姿ではないか!―――お前が銘をつけるのが筋であろう……/////」


少し頬を赤らめて、最後は少し声が小さくなったイェンリンだが、ここでも八雲のネーミングセンスが試される。


勿論、即行で『思考加速』を発動して一人検討会を開催する八雲。


その結果―――


「その剣はノワールと紅蓮の鱗を合わせて造った剣。だから―――黒炎剣=『焔羅ほむら』だ」


「黒炎剣……焔羅……か。フフッ、いいだろう!気に入った!余の帯剣として認めよう」




―――黒炎剣、銘は焔羅ほむら


破壊した紅蓮剣=業炎を元に黒神龍の鱗と紅神龍の鱗を合わせて生み出された世界に一振りの剣。


業炎が付与されていた『回復』阻害の能力は破壊された際に消失してしまったが、新たに八雲から様々な付与を組み合わせて強力無比な剣に生まれ変わった。


その能力は今後のイェンリンの活躍で披露されることだろう。




そうしてイェンリンが腰に佩びた新たな剣、焔羅。


その姿に八雲も、そしてフロックとオパールも笑顔を見せる。


「よし!それじゃあ出発するぞ!!―――『空間船渠ドック』開放!!!」


八雲の掛け声で白龍城の上空に空間が裂け広がり、その中から―――


まずは天翔船『黒の皇帝シュヴァルツ・カイザー』が、続いて天翔船『雪の女王スノー・クイーン』がゆっくりとその巨大な船体を外の世界に現わしていく。


「こ、これはっ!?」


間近で天翔船を見たホーネッツやその家臣達も驚愕の顔で、その巨大な雄姿を見上げて開いた口が塞がらない。


風属性魔術式の推進部に魔力が注入されていく。


八雲達が乗り込んだ天翔船はゆっくりと前進を開始する。


ホーネッツや残ることになった白い妖精ホワイト・フェアリー達は笑顔で手を振って見送っていた。


こうして、八雲のアルブム皇国滞在は終了し、目的地であるフォック聖法国へと舵を切ったのだった―――



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