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第266話 討伐の隙に忍び寄る影

―――討伐戦でゆっくりと前に出るのは、


「やれやれ……どうにも八雲の『龍紋の乙女達クレスト・メイデン』は緊張感があるのかないのか分からんな……さて、そろそろ我も出るとするか―――アリエス、サジテール、お前達はどうする?」


黒神龍ノワールは肩に鞘から抜いた黒大太刀=因陀羅を乗せて後ろに従う龍の牙ドラゴン・ファング序列01位と序列02位にニヤリとしながら問い掛ける―――


「―――では私は尻尾の方へと向かわせて頂きます」


―――アリエスが静かにそう答えると続けてサジテールが、


「―――では俺は真ん中の胴体に向かいます」


そう答える―――


するとノワールが最後に、


「では―――我は頭を貰うとしよう!」


それぞれの目的の攻撃ポイントへと向かっていく。


空中へ舞い上がり、空中浮揚レビテーションで位置を取ると手には黒弓=『暗影あんえい』を握り構えて、『収納』から八雲にもらった漆黒の弓に矢を番える―――


―――空中から巨大な百足の丁度中央辺りの胴体に狙いを定めるサジテール。


そして―――




九頭竜昂明流くずりゅうこうめいりゅう・八雲式弓術

―――『連弩・爆れんど・ばく』!!!」




―――その次の瞬間、『身体加速』と『思考加速』を発動したサジテールから、残像だけしか見えない手の動きで、まるでマシンガンのように矢が次々と放たれて百足の胴体に突き刺さったかと思うと、その突き刺さった矢が胴体にメリ込み爆発を引き起こしていく。


その連射速度は実に一秒間に十本の矢を飛ばしており、百秒放てば千本の矢が放たれて《火属性魔術》を予め付与された矢が千本のミサイルのように突き刺さった対象の身体で爆発を起こすという八雲オリジナルの弓術だった―――


―――その威力は本物のミサイル張りの攻撃力と火力である。


その技は硬い外殻で覆われた胴体を次々と破壊していくほどの威力を見せつけていくのだった―――






そして次に―――


―――大百足の『災禍』の胴体の上を尻尾に向かって疾走するアリエス。


後方から響く爆発音に振り返ると―――


「なかなかやりますね、サジテール」


―――双子の姉妹の様にそっくりな顔をしているサジテールの活躍に、ひとり賞賛を贈っていた。


そうして最後尾に辿り着いたアリエスの前に二本の太い触手を揺らす尻尾が、まるで見えているかのようにアリエスに向かって立ち上がってくると臨戦態勢に入っている―――


―――アリエスは八雲と同じ黒いコートを纏い八雲から貰った大切な黒脇差=『金剛こんごう』を差して、腰を落とすと呼吸を整えていく。


「スゥー、ハァー……」


柄に手を掛けたまま静かに呼吸を整えたアリエスに、お構いなしに攻撃を仕掛けようと迫る尻尾だったが―――




九頭竜昂明流くずりゅうこうめいりゅう・八雲式抜刀術

―――『咆哮閃ほうこうせん』!!!」




―――集中して研ぎ澄まされた龍の牙ドラゴン・ファング序列01位の神速の剣閃が迫りくる尻尾を支える胴に斬りつけられた。


その瞬間、尻尾は動きを止めており、そして八雲に手解きを受けた技と金剛でアリエスに斬れないものは最早ない―――


「……つまらないモノを斬ってしまいました」


―――そう言って金剛を一振りし鞘に納めた瞬間、


ズル……ズル、ズル……と持ち上がった尻尾を支えていた胴体の部分が斜めに滑り、切断面が傾斜に合わせて尻尾の部分だけズレて滑り落ち、砂煙を舞い上げて大地に落下したのだった―――


―――斬り口からは大量の紫色をした体液が振り撒かれていく。


その辺りの大地を一面紫色に染めていったのだった―――






「流石は我の愛しき龍の牙ドラゴン・ファング達よ。さて、それじゃあ我もいくとしようか―――」


既に遥か上空に飛び上がっていたノワールは肩に乗せていた黒大太刀=『因陀羅いんだら』を両手に握り締めて、上段に構えたまま重力に任せて自然落下していく―――


―――その狙いは大百足『災禍』の頭部、


二本のハサミのような牙を持つ醜悪で無感情な目をした百足の頭頂部だった―――


「これでぇええ!!!―――トドメだぁああ!!!」


―――気迫の籠った一撃


神龍固有の《龍気》が込められて、何人たりともこの一撃を受けることなど出来はしない―――


「くたばれぇえええ―――!!!」


―――振り下ろされた因陀羅が大百足の頭頂部に斬り込まれる。


同時にその刃から放たれた《龍気》により真二つに斬り裂かれていく『災禍』を見ていた他の乙女達からもオオッ!と声が上がった―――


―――頭頂部から数十mに渡って斬り裂かれた頭から首は、


牙をビクビクと動かしながらも、まだ息をしていた―――


「チッ!―――やはり『災禍』……なかなかにしぶといか」


―――頭頂部を縦に真二つにされても動き続ける大百足。


ノワールも思わず舌打ちをして鬱陶しいモノを見る視線を向けるのだった―――






―――そして、


蒼白く輝く刀がそこにあった―――


―――九頭竜八雲は手にした黒刀=『夜叉やしゃ』に魔力と共に、水の精霊の能力を注ぎ込んでいた。


「……リヴァー、この一撃で決めるぞ」


肩に乗った水の妖精リヴァーにそう宣言する八雲―――


「了解!―――やっちゃって!!マスター♪」


―――夜叉に水の精霊の能力を注ぎ込んだリヴァーは、リズミカルに八雲を応援する。


両手で柄を握りしめた八雲は、目の前にある『災禍』の太い胴体に向かって上段に構えたまま意識を集中する―――


―――『身体強化』


―――『身体加速』


―――『思考加速』


―――『限界突破』


強化系能力を発動してオーバー・ステータスを発動することで全身を蒼白いオーラが包み込んでいく―――




「参る!!九頭竜昂明流くずりゅうこうめいりゅう・八雲式剣術

―――『殻断・極凍からたち・きょくとう』!!!」




上段に構えた刃へ流れるように注ぎ込まれる魔力が黄金の魔術回線となって浮かび上がる―――


―――漆黒の刃に黄金の魔術回線が浮かび、それを輝かせて目の前の大百足の胴体にまるでスウッと吸い込まれるようにその刃が振り下ろされた。


すると一線を引きながら亀裂すら入れずに刀身から放たれた斬撃が吸い込まれて八雲は舞い降りていった―――


―――夜叉につけられた縦の切れ込みが大百足の胴体を真二つに切断したかと思うと斬り口が黄金の光を放ち出し、次の瞬間その切れ込みから左右へと黄金の亀裂が次々に走り出していく。


更に―――


―――走り出した黄金の亀裂から今度はリヴァーの補助を受けて強化された水属性魔術極位の極凍アブソリュート・ゼロが発動する。


大百足の『災禍』を真二つにした位置から左右に氷が広がっていくと、その両側を氷漬けにしていくのだった―――






「フゥ……なんとかなったか」


絶対零度の氷の中に閉じ込めた『災禍』は、そのまま生命活動を停止して永遠の眠りに就いた……はずだったが、


ピキッ……ピシッ……


「は?……おい、嘘だろ……」


真二つにされて絶対零度で氷結されても、まだ動きを止めずに覆っていた氷に亀裂を入れていく大百足の『災禍』に八雲は驚愕した。


しかも切断された箇所からなんと新たな頭が生え出してきて、二匹の大百足『災禍』へと分裂までしたのだ。


アリエスに斬り落とされた方の尻尾はどうやら三匹目にはならないようだが、自己再生能力が高いのか斬り落とされた本体側の切り口に新たな尻尾が再生されていた……


「ねぇねぇ!どうするのマスター!!アイツもう一匹増えちゃったよぉ!!!」


肩に乗り、耳元で騒ぐリヴァーの声に普段なら怒るところだが―――


「しつこすぎて、笑えない……」


―――雪菜ではないが、八雲も百足に対してトラウマになりそうな顔をしていた。


だが、更に混乱は続く……


【―――御子!俺だっ!!スコーピオだっ!!!】


突然八雲の元にスコーピオからの『伝心』が届いた―――


【どうした?―――今こっちはしつこい百足退治の真最中なんだけど?】


―――と、投げやり気味な返事をしていると、


【―――北東の丘の上を見てくれ!今すぐに!!】


焦った様子のスコーピオに只事ではないと、北東に視線を向ける。


「は?……なんだ?、あれ?……このタイミングかよ……」


予想外のものがそこにはあった―――






―――八雲が視線を向けたその丘の上には、


「―――陛下。あそこにいる黒いコートの男が黒帝、九頭竜八雲ですよ」


真紅の馬に跨り、そう告げるダルタニアン―――


―――同じく真紅の体躯に銀の装飾と馬具を纏った馬に跨った銀の甲冑を身に着けた美しき吸血鬼の女王、


レーツェル=ブルート・フォーコンがダルタニアンの指差す先にいる八雲を無表情のまま見つめていた。


そして―――


その横には真紅の馬に跨ったアトス、アラミス、ポルトスの姿もある。


「あれが……黒帝……九頭竜八雲……」


静かにそう呟くレーツェルの後ろには、その数にして十万はいるだろう真紅の兵隊達が隊列を組んで丘を埋め尽くしていたのだった……




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