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第278話 穏やかな日常

―――イロンデル公国のワインド公王が画策した『シュヴァルツ包囲網』の崩壊から数日が過ぎた。


その間に八雲はティーグルに戻り―――


―――新たにオーヴェスト各国に打診していた街道整備を進めていく。


黒龍城にいる序列外の龍の牙ドラゴン・ファング達に魔術式ローラーによりコンクリート状に速乾して整備されていく道が造られる黒戦車チャリオットを十台用意して地図で街道の予定図をメイド達に渡し、ティーグルを出発させる。


繋がり出す道に今度は警備府を設置するため、各地に飛んで《土属性基礎》で建物を建て、警備兵受け入れの準備をする八雲。


―――そうして更に数日が過ぎて、


漸く道路網の形成が終わり、フロンテ大陸西部オーヴェストは広大な大地を行き交う道路網で一つに繋がったのだった―――






―――この後は各国の兵による警備府の配置により野盗共からの強盗行為を徹底して排除すれば、商人達も安心して行き交うことが出来る経済網となる。


これほどの大事業を十数日で終わらせるというのは、八雲と龍の牙ドラゴン・ファング達の超人的な能力の成せる業であった―――






―――道路網の完成により時間の空いた八雲は、


エルフの子供達やレベッカの孤児院の子供達と共に、近くにある湖でキャンプをしたり泳いだりして過ごしていた。


この湖はかつて八雲が古代魚を仕留めた湖である。


そこにある鉄陣障壁スティール・ウォールで造ったステージ状の中島を錆びないように魔術でコーティングを施し、釣りのしやすい場所や湖に降りられるように階段などを新たに設置してレジャー施設として改装した。


勿論エルフのチビッ子達や孤児院の子供達が、湖中央の深い場所にあるステージで遊ぶことは大きくなるまでは禁止として、今は八雲が湖岸にプールを『創造』してグルグルと回りながら滑り降りてくる滑り台まで造って、子供達は其方で日々遊んでいく。


そこにはアルファ、ベータ、ガンマ、デルタの地獄狼ガルムのビーチガードが目を光らせている。


プールは安全性を考えて浅く造ってはあるが、水辺の事故はいつ起こるか分からない。


「お前達、シェーナ達が溺れないように、しっかりと頼んだぞ」


八雲の鋭い視線を受け取ったアルファ達、漆黒の毛を揺らす地獄狼達はドッシリと湖岸に腰を下ろして、


【―――ワゥワオオンッ!!】


(Sir!Yes Sir!―――お任せください!!BOSS!!)


四匹ともハッキリと返事の鳴き声を返す。


可愛らしい水着を着てキャッキャ♪ と子供用プールで遊ぶシェーナ達を見ていると、子供の頃に通った市民プールを思い出す八雲。


「―――何考えているか、当ててあげようか?市民プール行った頃のことでしょう?」


声を掛けてきたのは雪菜でその他にフォウリン、マキシ、ブリュンヒルデとノワールとアリエスが一緒だった。


勿論全員、見事なプロポーションに魅力的なビキニの水着を纏っている。


「ウホオオオッ♡ 八雲!八雲!見ろ!あの可愛い我の天使達を!!―――あ、いかん鼻血が……」


「おい、イケない方向に興奮が高まってないよね?憲兵さん呼ぶ?」


「けんぺい?なんだ?それは?いつの間に警備兵なんて雇ったんだ?」


冗談を真に受けるノワールのあぶない興奮を心配しつつ、八雲は雪菜の言葉に返事をする。


「―――でも雪菜には敵わないな。市民プールってお前とよく行ったからな」


「ふふっ♪ だって、このプールの造り、あの時の市民プールにそっくりなんだもん♪」


「えっ!?―――そうだったか?無意識に思い出して造っていたのかな?」


八雲は大雑把な性格であるが、雪菜は元いた世界の学校では成績優秀、運動神経も良く才色兼備なお嬢様であり、八雲よりも遥かに記憶力は良い。


特に八雲との思い出に至っては日付まで覚えているほどだ……


「八雲はあそこの滑り台、何回も滑って遊んでいたものね♪ なんだか懐かしいなぁ……」


プールでパチャパチャと手で水を掻き上げて遊んでいる子供達を見つめる雪菜の瞳は、遠い日の八雲との思い出を辿る様な瞳をして見つめていた。


因みに、この湖は転移シフトさせた黒龍城のすぐ横にあり、八雲がこの湖ごと新たな城壁で囲ってある。


その城壁の中には、エルフの娘達を住まわせた集落も含んでいる。


そのエルフ達は自分達で故郷のレオパールでも育てていた茶畑の栽培を精力的に行っている。


他にも作物を栽培しており水辺近くを選んで住む場所を決めたので、安全面も考えて後から八雲が土属性基礎アース・コントロールを行使して城壁を建てて覆ったのだ。


つまり、この湖はプライベートビーチ化しているのだ―――


―――その湖岸は八雲によって美しい砂浜に改造されている。


―――打ち寄せる波まで透き通り、湖底の石までよく見える。


―――プールにはリヴァーと八雲で水を浄化する《清浄化》の力を付与した石像を四隅に立ててあり、子供達に有害な物は入り込む余地はない。


―――鉄陣障壁スティール・ウォールの魔術で造ったステージにも《清浄化》の付与を行っているので、湖の水は綺麗な状態を保ち、流れ込む川の水と流れ出る川の水で循環する様になっていた。


―――水を浄水化し過ぎると微生物まで死滅してしまい、魚や生物まで住めなくなっては本末転倒なので程よく水を入れ換えるようにしているのだとリヴァーが水の妖精らしい話しをドヤ顔で八雲に語ったことは言うまでもない。


そんなビーチでは―――


八雲の『龍紋の乙女達クレスト・メイデン』が皆、水着となってビーチ・チェアに横になったり、八雲の『創造』したパラソルの下に用意された敷物の上に寝転がって日光浴を楽しんでいる。


このパラダイスの中で、男は八雲とルドルフ、シリウス、そしてカイルの四人だけだが、その内のルドルフとシリウスはレベッカにこき使われて子供達と遊んでいて、カイルはフォウリンの付き人のエルカと、フォウリン公認のカップルとして楽しそうに過ごしていた。


「黒龍城に以前来た時にはここまで整備されてなかったけど、これほど綺麗に整備されている岸辺もなかなかないわよ」


真っ赤なビキニにダイナマイトボディーを包んだ紅蓮が、イェンリンと共にやってきた。


イェンリンは赤と黒のコントラストがボディーラインを際立たせるハイレグのビキニに身を包んでいる。


「なあ八雲♪ 紅龍城にもこんな水辺を造ってくれぬか?造ってくれたら~♪ 余の水着姿を見放題だぞ♡」


そう言って胸を寄せる扇情的なポーズで八雲にウィンクするイェンリン。


「ゴクリッ……ま、まあ別に、その程度のこと俺にとっては簡単だからな!べ、別に水着が目的とかじゃねぇし~ぃ!」


「―――でも本音は?」


「メッチャ見たい!―――むしろ城の中でも水着推奨!!って、雪菜!?」


「それは余でもドン引きだぞ……」


周囲から冷たい視線を集める八雲だが味方は誰ひとりいない……


だがそこに―――


―――ぺちぺちと水着を着た八雲の太腿辺りを軽く叩く手があった。


「オオッ!!シェーナ!―――お前だけだよ、俺の味方は♪」


「おなか、ペコペコ……」


「オゥ……感動して沸き上がった俺の幸せ気分を返して……」


遊びすぎてお腹が減っただけだったシェーナを抱っこして、ショボンとした顔を浮かべる八雲は、岸辺で楽しめるように造った『海の家』ならぬ『湖の家』へと向かい、子供達のためにと、ひたすら焼きそばを焼くのだった……






―――そうして皆と楽しく過ごしていったある日、


八雲は遂にあの約束を実行する時が来た―――


自らの言ったことを守らなければ、という使命感に燃える八雲。


それは―――


八雲の生み出した自動人形オートマタである黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの艦長ディオネとのデートの約束だ。


黒龍城の正門の前で待ち合わせした八雲は魔術飛行艇エア・ライドを用意して、いつもの金色の刺繍を鏤めた漆黒のコートを纏いディオネを待っている。


その時、正門が音を立てて開くと―――


「お待たせしました……マスター」


―――普段の漆黒の軍服と軍帽姿ではなく、丈が短めの黒いワンピースに白い薄手のカーディガンを合わせて、長い黒髪もツインテールに纏めて、足元は赤いヒールで美脚を強調しているディオネだった。


ディオネがいつもの凛々しい姿とは違う『ギャップ萌え』をかましてくる、可愛らしい姿で八雲の前に現れたことに驚く。


「オォ……スゴク可愛い……メチャクチャ似合ってるぞ、ディオネ」


「ありがとうございます、マスター。ギャップ萌えしましたか?」


魔術飛行艇エア・ライドに跨る八雲に顔を近づけて確認するディオネを見て、当の八雲は少し呆れ顔になる。


「その一言さえなかったらお前は完璧だった……」


「なんと!?おかしいですね?雪菜様からこれでバッチリだとお墨付きを頂きましたのに……」


そこで八雲は、なるほどとひとり納得する。


ディオネのコーディネートは言われてみれば雪菜のセンスが垣間見える。


それだけディオネの初デートを応援しているのだろうと察した八雲は―――


「その恰好はホントに似合ってるよ。今日はお前が楽しめるように、シッカリと最後までエスコートするよ」


そう言って手を差し伸べる八雲を少し呆気に取られた表情で見つめていたディオネだが、ニッコリと美しい笑みを見せるとそっと八雲の手を取りその後ろに横向きになって腰を下ろす。


「それじゃあ、出発するから、落っこちないようにシッカリと掴まっておいてくれよ?」


「了解した、マスター……最後まで♡/////」


キュッと八雲の腰に腕を回してその背中に頬をつけるディオネ。


だが、その密着した状態ではディオネの豊満な胸部装甲が八雲の背中にダイレクトアタックを繰り出す。


「ディオネ、ちょっと当たってるから、もう少し離れて/////」


やや照れながらディオネに伝えると―――


「―――当てているのよ、マスター♡……と、こう言えばいいのか?」


―――と、無邪気にそう訊いてくるディオネ。


「おい……それって、誰に教えてもらった?」


「フィッツェだが?こう迫ればマスターの『暴れん坊』が火を噴くと―――」


「違う意味で火噴きそうだわ!指導者が爆乳だけに攻め方があざとい!!もういいから、行くぞ!!」


龍の牙ドラゴン・ファング最大の爆乳にまで学んでくるとはディオネ―――恐ろしい子!!)


と、内心ツッコミを思い浮かべながらも、八雲の後ろのディオネは楽しそうだった。


「了解した♪」


そうして笑みを浮かべているディオネに八雲も呆れ顔で笑みを返すと、ふたりのデートが始まるのだった―――



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