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第279話 ディオネとのデート

―――黒龍城の一番外壁となる城壁を抜けて、八雲とディオネは『黒神龍特区』へと入っていく。


地面から浮かび上がった魔術飛行艇エア・ライドは、風属性魔術を用いた推進力で風を切って道を進んでいた―――


「しっかし、まあ空から見た時も驚いたけど、こうして地上を通ってみても完全に都市になってるよなぁ」


「アクアーリオに聴いたのだが、シュティーアとドワーフ達は休む間も惜しんで街づくりに邁進していたそうだ」


ディオネが教えてくれた話しを聴いて、八雲は前を向きながら笑みを浮かべていた。


黒龍城を中心にして放射状に八方向へと広がる街道と、その道の間に結ばれた円形の横道に数々の建物が建てられている。


八雲の意向で現在この『黒神龍特区』は無課税状態になっている。


元々はサジテールの保護したニ十四人のエルフの娘達と、レベッカの孤児院を入植させたことが切掛けとなり、これから入植者を増やすことを目的として現在税収は行っていなかった。


カタリーナからの紹介でロッシ商会の知る腕のいい職人達や商人達にも入植してもらってはいたが、ここまで街づくりが進展しているとは当の八雲も思ってはいなかったのだ。


「これはいつから税金を始めるか、考えておかないと際限なく大きくなり過ぎるかも知れないな」


「それでは駄目なのか?マスター」


ディオネが八雲に理由を問い掛ける。


「―――ああ、街が大きくなるのは良いことだけど人が増えれば罪も増える。犯罪を取り締まるには警備府もいる。警備府を設けるには公金がいるってことだ。給料なしじゃ警備兵も雇えないだろ?そういったことに活用する公金を税金から捻出するんだよ」


「なるほど……だが、今すぐという訳ではないのだろう?」


「そうだな。そのための前準備として、『黒神龍特区』に入植する際には俺が設けた『役所』に身分証明が必要という決まりを設けている。そうじゃないと犯罪者や野盗が街に入り込んでもウザいからな。今は黒龍城の序列外のメイド達が交代で巡回をしてくれているが、今度エドワード王とエアスト公爵にでも警備兵の件、相談してみるか」


八雲はヴァーミリオンに留学に行く前に、アクアーリオに特区に住む者達の『住民台帳』の作成を頼んであった。


そのため、受付窓口を設けた『役所』をつくり、そこにもメイド達を配置して登録申請の受付を行ってもらっているのだ。


冒険者ギルドや商人ギルドといったギルドカード所持者は登録も早く終わるので、スムーズに入植が行われていた。


そうして大きくなった『黒神龍特区』の街並みに目を向ける八雲。


八雲が建てていった家以外にも多くの建物が既に密集して建ち並んでいて、商店の多い通りでは多くの人で賑わい活気づいている。


「この辺りが商店の多い区画らしいから、降りて歩いてみるか?」


魔術飛行艇エア・ライドを停止させてディオネに問い掛ける八雲。


「―――ああ。マスターの造った街を私も歩いてみたい」


魔術飛行艇エア・ライドを『収納』に仕舞って、ふたりして並んで街を歩き始めると途端にディオネが八雲に腕を組んできた。


ツッコミを入れようかと思った八雲だったが、隣のディオネが嬉しそうな笑みを浮かべて見上げている上目遣いに、そのままにして街を歩いて行くことにする。


住宅の様な街並みから店が建ち並ぶ大通りに向かって歩くふたり―――


―――大通りの街並みは綺麗な壁造りでショーウィンドウには大きなガラスが取り付けられ、その奥には商品が並んでいるのが見える。


「マスター、あれはなんだろうか?」


「―――ん?あれはどうやら雑貨屋みたいだな。生活必需品を売っている店だろう」


「マスター、あっちの店は食べ物屋か?」


「そうだな。あれは……どうやらパン屋みたいだな。いろんなパンがあるなぁ」


「あっちはなんだ?マスター!」


こうして街に出て練り歩く経験など殆どなかったディオネにとっては、天翔船から見る地上の様子とはまた違った新鮮な経験に瞳を輝かせている。


(思えばコイツは生まれてからまだ一年も経っていないんだよなぁ。見た目が大人だから、そういうことをつい忘れちまうのは駄目だな。今度からはちゃんとこうした経験も積ませてやらないと)


―――と、内心であまり構っていなかったことを少し後悔する八雲にディオネが、あれは?それは?と楽しそうに問い掛けてくる。


商店の建ち並ぶ区画を粗方説明しながら進んだ八雲達は、区画の端にオープンカフェのような店を見つけた。


「ディオネ、丁度良いから飯を食おうぜ」


「―――了解した、補給は大切だからな!」


少し声を弾ませて答えるディオネに苦笑しつつ、ふたりでカフェの席に着くと若い女性店員が注文を取りにきた。


「いらっしゃいませぇ~♪ 何にします?」


「―――俺はサンドイッチと紅茶で」


「私も同じ物でかまわない」


「は~い♪ ご注文を繰り返しますね♪ サンドイッチと紅茶をふたつずつですね?」


「ああ、頼むよ」


「―――少々お待ちくださ~い」


歳の頃は見た目ジェナくらいの女の子の店員が店内に戻っていくとディオネは、


「マスター、食事の後はどうする?」


と八雲にその後の予定を確認してきた。


「そうだなぁ~ディオネはどこか行きたいところだとか、欲しいものはないのか?」


八雲は逆にディオネの希望を問い掛ける。


「私の……そうだな、私服を買っておきたいかな。この服も実は雪菜様から借りてきた服なのだ」


やはり八雲の推測通りだったが、そこは敢えて知らなかった振りをする。


「そうだったのか。とても似合っているから同じような服を選んでみたらどうだ?気に入った物があったら俺がプレゼントするよ」


「それはありがたい。そして、その服の対価に私の身体を好きにさせろという訳だな」


「おい―――」


「えっ!?」


八雲がツッコミを入れようとするのと同時に、さっきの店員の女の子が注文した商品をトレーに載せてやってきたところだった。


「―――いやぁ、このお姉さん、すぐこう言って俺を揶揄うんだよ。アハッ、アハハッ……」


「そ、そうなんですか?ビックリしちゃいました/////」


「いやマスター、私は決して冗談など言った覚えは―――」


「―――ちょっと黙ろうか?ディオネさん。此処は街中で今はお昼だからね?」


「なるほど―――本番は夜からだと」


「アワワワッ?!―――し、失礼しましたぁ~!!/////」


慌てた様子でサンドイッチの載った皿と紅茶を置いた女の子は、そのままダッシュして店内に引っ込んでしまった。


「お前のせいでバカップルだと思われちまったじゃねぇか……」


「カップルだと、そうか/////」


「いや、そこ照れるところじゃないからね?あと頭のバカを飛ばすな……」


呆れ顔で八雲は目の前のサンドイッチを頬張るのだった……






―――食事の後にはディオネの希望を叶えるため、服屋を回るふたり。


ブティックのような店を見つけては一軒一軒のおススメを見て回り、試着してディオネに似合うものは片端から八雲が買っていった。


漫画によくあるような荷物を渦高く積み上げて運ぶこともなく、買った商品から次々に『収納』へと納めていく八雲。


普段着に使える物からドレス、冒険用のスーツ、果てには下着まで選んで買い漁っていく―――


「―――マスター、これなどはどうだろう?」


そう言って試着室から出てきたディオネが着けているのは、上下共に黒の下着に赤いバラの刺繍とレースが合わせてある今一番新しい下着とのことで、ディオネが見せつけてくる。


だが、そこは鈍感系でも優柔不断系でもない八雲だ。


「よし―――色違いから同一系統の下着、サイズの合うヤツを全部買うぞ」


「―――ありがとうございま~す!!!」


店員が泣いて喜ぶほどの大量購入で、下着に関しては即断即決のある意味男らしい八雲。


店を出た時には空も夕暮れから闇が広がり始め、街には魔法石の街灯が点灯されていく……


―――そうして下着まですべて買い終わって、八雲は再び魔術飛行艇エア・ライドを『収納』から取り出すとディオネを後ろに乗せて、


「帰る前に『黒神龍特区』を一周しながらツーリングして帰ろう」


と、ディオネに告げて走り出す―――


―――いつしか時間も経っていて気がつけば陽は沈み落ちており、そうして小高い丘の上まで走ってきたふたりは眼下に広がる『黒神龍特区』を見下ろしていた。


月が昇り星空が広がるその街並みに八雲はどこか懐かしいような、それでいて街の彼方此方の家の煙突から昇り出す夕食の準備のための煙を見てその胸中に嬉しい気持ちが込み上げてくる―――


そんなどこか嬉しそうな八雲の横顔を後ろから見ていたディオネは、思わず八雲の腰に回した腕に力をキュッと込めた。


「あの家の数だけ、此処で生活する家族がいるんだな……」


静かにそう呟いた八雲の言葉に、


「貴方がいたから、あそこに家族達が生活しているのだ。マスター/////」


ディオネも呟くように答えていた―――






―――街の夜景を眺めてから、黒龍城へと戻ってきたふたりは、


空間船渠ドックに停泊している黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの一室にやって来ていた―――


「おい、ディオネ……此処って……」


そう、そこはかつてカタリーナとエディスと閉じ込められた部屋……通称『ヤリ部屋』である。


あの時はふたりにそれぞれ交尾しなければ出られないというルールが扉に文字で浮かんでいたが―――



『ディオネに交尾しなければ出られない部屋』



と最初から記載されている……


「フフッ♡……マスターとの初めてを迎えるのなら、この部屋しかないと決めていた……どうか、この想いを受け取ってもらえないだろうか?/////」


八雲が『創造』で生み出した自動人形オートマタでありながら加護により『自我』を植え付け、自ら思考判断して行動出来るようにしてあるディオネ―――


―――マスターである八雲の命令に従うこと以外は、普通の人間と変わらない意志を持っている。


八雲からすれば娘のような立場になるディオネだが、八雲自身はどちらかと言えば『自分の理想』を求めて結集した存在と言った方が間違ってはいないのだ。


そんな自分の好みを結集したディオネが、今この部屋で八雲を求めていることを明確に示している状況で八雲が断る理由はまったく見当たらなかった―――


「―――覚悟はいいな?俺は一度始めたら、止まらないぞ?」


―――そう言ってディオネの覚悟を試すように挑発したつもりの八雲だったが、そこでカーディガンとワンピースをストンと床に滑り落として、見事なプロポーションと新しく買ったばかりの黒地に赤いバラの刺繍が入った下着を着たディオネが舌舐めずりをして逆に八雲を扇情的に誘ってくる。


「―――臨むところだ、マスター。私は生まれた時から、貴方のものなのだから♡/////」


ベッドに横たわるふたりは、そこから次の日の朝まで絡み合い、睦み合う時間へと入っていくのだった―――



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