―――オーヴェストで各国のトップが会合を行ってから暫くした頃。
ヴァーミリオンの浮遊島にあるバビロン空中学園では、近づいてくる学園祭の申請や準備のために各学年、各クラスの催し物が進み始めていた―――
八雲達の特別クラスにおいても、八雲が立案してクラスメイト達とも詰め込んだ企画書を元に準備を進める―――
「―――ユリエル~!そっちの方はどう?」
「うん。大体材料は揃ったかな!雪菜の方はどうなの?」
「何とかはなってるけど……Levelが上がって不眠不休でも作業が出来るように身体が変わってるなんて、ここまで追い込まれなかったら気がつかなかったよ……」
フォンターナ迷宮で上がったLevelのため八雲と同じく人間をやめかけている雪菜もまた、『龍紋』の影響もありステータスがとんでもないくらいに跳ねあがっていて、任された作業も普通なら無理な予定だったが自室に戻っても不眠不休で作業を続けた結果、スケジュールに余裕まで生まれてきたのだ。
「あまり無理しちゃダメだよ?いくら強くなっても雪菜は女の子なんだから」
ユリエルは雪菜を心配してそう告げると、
「ありがと♪ 倒れそうになったらユリエルに『回復』掛けてもらおうかなぁ~♪」
「そうなる前にシッカリ休みなさい!」
「はぁ~い♪ でも……こんなことしてたら、本当に女子力がゴリゴリ削れている気がするのって……気のせいじゃないよね?」
自分でもおかしいと思えるほど長時間の作業もこなせる雪菜は、ジト目になってユリエルに問い掛ける。
「あ、あはは……大丈夫だよ!雪菜はいつも可愛いよ♪」
「も~う♪ ユリエルだっていつも可愛いよ~♪ ハァ~!私が嫁にしたいくらい!」
そんな黒髪と金髪の美少女のキャッキャ♪ ウフフ♪ といったじゃれ合いの会話に、クラスで同じく作業をしている男子生徒達はニマニマとした表情になりながら、そのゆるいユリ雪カップリングを見つめて萌えていた……
「―――ちょっとっ!男子ぃ!厭らしい目をしていないで、サッサと手を動かしなさい!!」
男子のそんな視線に気がついた女子陣が、淫らな目でユリ雪を見つめる男子達に注意すると、この異世界でも草食系が多いのか皆が手元の作業に戻る。
クラスの教室でそんな作業が進められている中、八雲は何処にいるのかというと―――
何人かのクラスメイト達とヴァレリア、シャルロット、ブリュンヒルデ、アルヴィトを連れて校舎の外へと出ていた。
「八雲様☆ 此方がお店になる場所なのですか?」
シャルロットがニコニコしながら八雲に問い掛ける。
「ああ、そうだよ。この学園の空いている敷地を俺達のクラスでいち早く抑えたからね!だからこうして場所を確認してるんだ」
「そうなのですね。では彼方のクラスの方達は?」
そう言って八雲の指示によって作業を行っているクラスメイトの男子達を見るシャルロット。
「ああ、彼等は建築系の知識を持っている人や土属性魔術が得意な人達なんだよ。ちゃんと測量して場所取りをしないと、あとから不備を言われて催し物が出来なくなったらダメだろ?」
「へぇ~☆ 流石は八雲様ですわね♡」
「うんもっと褒めていいよ!シャルちゃんマジカワユス」
「えへへ☆八雲様に可愛いって言ってもらいました/////」
「守らねば……この天使」
そんな馬鹿なやり取りも、シャルロットの姉ポジションであるヴァレリアはフフフッと上品な笑みを浮かべて見ている。
「しかしヴァレリアもシャルと一緒に店員をやるって言い出した時は驚いたよ」
「えっ?ええ、そうですわね。わたくしもシャルロットと同じで、こういった催し物や街のお店の方のことは興味がございましたから♪」
「そうか。まあ、これもいい経験になるよな!―――お~い!七野ぉ~!どうだぁ~!」
八雲が企画書で抑えた広大な用地の奥まで行っていた七野に八雲が叫び声を上げて問い掛ける。
すると―――
【八雲殿、こちらは計測を終えて、縄張りも張り終わりました】
―――と、七野からの『伝心』が届く。
「よし……それじゃあ、まずは手始めに店舗から建てるとしよう」
そう言って幾つかに分けて張られた縄張りのひとつに歩み寄る八雲は、測量などを終えたクラスメイト達を下がらせてから、その縄張りの前で地面に両手をついて―――
「いくぞォオオッ!!―――
―――土属性魔術を発動する。
「―――ウオォオッ?!な、なんだ!?この膨大な魔力はっ!?」
「こ、これが黒帝の……実力ってヤツなのか……」
地面が揺れる中、そう囁くクラスメイト達の前で八雲の魔術は鉄筋を形作り、その鉄筋の間には土壁が立ち上げられ、建物の窓や入口も造られるとその窓には硝子までご丁寧に取り付けられていく―――
―――建物自体は平屋造りではあるがその建物はかなり広く、そして中はホールと厨房らしき場所も形作られて見た目が大きな入口と大きな窓硝子が設置し終わり、そこには壁が黒に近いダークブラウンの落ち着いた色に魔術で染まった立派な大型オープンカフェが出来上がっていた……
「……ス、スゲェ、こ、こんな魔術なんてありなのかよ」
「《土属性基礎》でここまで細かい造形なんて……絶対に無理だろっ!?」
土属性魔術が得意で特別クラスに在籍していた生徒達は、八雲の奇跡のような『創造』と《土属性魔術》に自信が砕かれていた。
「重要なのは『イメージ』だよ。出来ないじゃない。やるって決めたらやりきるんだ。魔力量は簡単には上がらないと思っているかも知れないけど、Levelは反復訓練でも経験値はちゃんと上がる。後は図面にしてから魔術を行使してみるとか、イメージを強くする練習をすることだ」
自信を無くした魔術師志望のクラスメイト達に魔術のレクチャーを行う八雲。
具体的な八雲のレクチャーは、クラスメイト達も「なるほど……」と納得させられる様な説明で自分達もこれなら!と、またヤル気を引き戻すのに役に立っていた。
「それじゃあ皆には、この図面に沿ってカフェの外に建てるテーブルと椅子、そして日除けの傘を魔術で造っていって欲しい。失敗してもいいからイメージを強くもってやってみてくれ。造る場所は印を張ってあるポイントに頼む」
「ああっ!了解だ!―――よし、皆!始めようぜ!!」
八雲から指示を受けた魔術師志望の生徒達は早速その指示された場所で自分達の魔術によってオープンカフェのテーブルセットを造り始める。
「さて……俺は向こうの縄張りを整備し始めるかな」
次に八雲はオープンカフェの隣に張った広い敷地に向かっていくのだった―――
―――そうして今日の敷地の準備分を終えた八雲は教室に戻ってくる
パタンと扉を開いた八雲が中に入って、まず目に飛び込んできたものは―――
「ちょっ!?それ、ユリエル!?」
「キャアッ?!―――や、八雲君っ!?お、お、おかえり、なさいませ♪ ご主人様/////」
「ブハァ―――ッ?!な、なんという破壊力……ハッ?!こんなユリエルの姿を見たらっ!!!」
八雲は慌てて振り返って、外で一緒に作業をしていた男子生徒達を見ると―――
―――そこには、ユリエルのプリティーなミニスカメイド姿に萌え死んで倒れていくクラスメイトの死屍累々があった。
「シッカリしろっ!!!傷は浅いぞっ!!!目を覚ませ―――おい!ルイス君!!!」
「グハッ!!……お、俺の名前……ロイド……」
クラスメイトの名前もしっかり覚えていない残酷帝の所業に、倒れたクラスメイトはトドメを刺されて逝った……
「―――なんでコントなんてやってるの?八雲」
「いや、これ仕込みとかネタじゃないからね?―――というか雪菜まで!?」
「フフ~ンッ♪ どうどう?私もこうしてコスプレすれば可愛い貴方のメイドさんだよ♪ 萌え萌えキュン♡」
両手の人差し指と親指で♡マークを作った雪菜がウィンクしながら美味しくなる呪文を唱えてしまうと―――
「グハッ?!……ゆ、雪菜、さん……もう死んでも、いい……」
立ち上がりかけていたクラスメイトが再び倒れた……
「おいっ!気をたしかに持て!―――リチャード君!!!」
「ゲボッ!!……お、俺は、マイクだ……グフッ!」
やっぱり名前を覚えていない八雲……
「いい加減に名前くらい覚えてあげて……」
流石の雪菜も八雲に教育的指導を入れる事態だった―――
―――特別クラスの隣にある空き教室を利用して、女子達が次々にメイドコスプレを身に纏って戻ってくる。
さながらクラスの女子によるファッションショーのようなものだ。
「―――こ、これは……少し、裾が短すぎではございませんの?/////」
そう言ってメイドコスで教室に現れたのは、ヴァーミリオン皇国シュタインベルク辺境伯の長女―――クリスティン=フォン・シュタインベルクだった。
恥ずかしそうに短い裾を抑えながら顔を赤く染めた金髪美少女メイドに、クラスの男子達の顔はニヤニヤとして破顔していた……
勿論、その中に八雲も参加していることは言うまでもない。
「いや、クリス!よく似合ってるよっ!ホント美少女メイドは最高だぜっ!!!」
「そ、それは、褒め言葉ですの?ど、どうも……ありがとう?」
八雲の言葉に褒められている気がしないクリスティンだったが、それはニヤけた八雲の視線から、そう感じても仕方がないことだろう……
「でも、やっぱりすごいのは雪菜だよな。この短期間でよくここまでちゃんとしたメイド服を仕立てられたな?」
「えっへん♪ 頭が高い!」
「ハハァアア~ッ!」
腰の両脇に拳をつけて偉そうに胸を張る素振りを見せる雪菜に、八雲のみならずクラスの男子達まで挙って深々と頭を下げる。
「アハハッ♪ でも、ホントはこれ、屋敷でアリエスに
「ああ~!なるほどなぁ~!でもやっぱりスゴイぞ。これでオープンカフェの方はバッチリだなっ!」
「うん。八雲の方は、お店出来たの?」
雪菜の質問に八雲はフフンッ♪ と鼻を鳴らして、
「バッチリ出来たぞっ!テーブルセットもルイス君やリチャード君達が頑張って造ってくれたぞ!!」
「―――ロイドだ」
「―――マイクだ」
相変わらず名前を覚えていない八雲に雪菜は呆れ顔で、
「こうやって八雲への恨みがしっかり募っていくんだね……」
と、八雲に告げると、
「解せぬ……」
それを聴いた八雲は何故?と言わんばかりの表情で首を傾げながら呟いていた……
そんな時に―――
「ちょ、ちょっと雪菜!?―――どうして僕の衣装がこれなのさ!?/////」
そう叫びながら教室に飛び込んできたのは―――バニーガールコスプレのマキシだった。
「おい、流石に学園祭でこれはアウトだろ……」
雪菜にそう言い放つ八雲だが右手はしっかりと親指を立てて、グッ!とナイスな仕事をした雪菜を称える。
その八雲の親指に返すようにして雪菜もまた右手の親指を立てて、グッ!と返すのだった。
「いや、ふたりとも何を満足そうにしてるの!!僕、絶対こんなの学園祭で着ないからねっ!!!/////」
顔を真っ赤にした黒バニー衣装で艶めかしい網タイツと肩から胸上までの過剰なマキシの露出姿に、八雲の後ろにいた男子生徒達は三度目のノックダウンを喰らって床に倒れていくのだった―――