―――黒神龍の姿になったノワールの頭上に乗り、大空に繰り出す八雲
「ウヒャァア―――ッ!!これは凄いな!まるで竜騎士になった気分だ!」
【―――あまり浮かれて墜ちるなよ、八雲!】
「ああ!分かってるさ!しかし……アイツ、一体何匹の古代龍の墓を暴いたんだ?」
ヴァーミリオン皇国の首都レッドの上空は既に陽が傾き始めていて、空の色が沈み行く西側を起点に赤く染まり始めていた。
その澄んだ空気の中を切るように地平線を眺めながら飛翔する黒神龍の向かう先には、横並びに数多くの古代龍の亡骸がアンデッド化して羽ばたいていて黒神龍と八雲を待ち受けている。
【龍の墓に葬られていたのは確か二十体の英霊達が眠っていたはずだ……どうやらすべて乗っ取って操っているようだな……彼らの身体は死しても腐ることがないほど、まだその力を維持している】
ノワールは静かに答えているが、その内心では戦友達を蔑ろにされている行為に怒りが燃え上がっていた。
「そのくらい力を蓄積している亡骸ってことか……」
そんなノワールと八雲に対峙しているダヴィデ。
「……来たか。漸くこの時が!おいっ!古代龍共!!―――
一際大きな古代龍の頭上に立つダヴィデが、接近してくる黒神龍と八雲に向かって攻撃開始を指示すると、白く濁った眼で目標を睨む古代龍達は一斉にその大きな顎を開き、その喉奥の中心部では白い炎のような光が収束していく―――
「ッ?!―――ノワール!何か仕掛けてくるぞっ!!」
【フンッ!古代龍の
巨大な龍の眼を細めて正面に並ぶ古代龍達を睨むノワールは、その黒神龍の巨体を揺らしながら漆黒の翼を羽ばたかせる。
「放てェエエ―――ッ!!!」
ダヴィデの叫び声に呼応する様に、古代龍達の骸から龍の白い
「―――来たぞ!」
【任せろっ!!】
―――まるで極大のレーザー光線のような白い光がニ十本、大空を引き裂くように黒神龍に迫る。
しかしそれを予測していた黒神龍は華麗で高速な旋回を繰り返して回避し、その白い閃光の合間を掻いくぐって尚もダヴィデに接近していく―――
「続けて放てェエエ!!!」
―――回避する黒神龍と、その頭上にいる八雲に憎悪の表情を向けながらダヴィデは叫ぶ。
黒神龍に回避された
―――空中で黒神龍と古代龍達が戦闘状態に突入した時、
地上では闘技フィールドに立つ数十の恐らくアンデッドであろう銀仮面達が、振り子のように不気味に揺れる動きを見せながらシリウスとメンフィスに迫ってくる―――
―――どの銀仮面も両腕の袖口から『
しかしシリウスの傍にはリヴァーが人造だと言い切った光の精霊が寄り添い、銀仮面達が繰り出す死霊の髪の毛をシリウスに近づけさせない―――
「ウォオオオ―――ッ!!!」
―――銀仮面達の髪の毛攻撃が通じないシリウスは鳳凰剣=天舞を握り、その首を狙ってフルスイングを喰らわせる。
その剣閃で首が吹き飛ぶ銀仮面―――
―――気がつけば天舞に光の精霊が光属性の付与を掛けていた。
「FUOOOO―――ッ!!!」
―――そして光属性の力で次から次にアンデッドの動きを封じて、光の精霊が浄化していく。
その様子を見て、問題が無さそうだと確認したドクトル・メンフィスは―――
「ふむ、生憎と光の精霊はあれしかいないのでね……だから、お前達の相手は……」
―――そう言い掛けたメンフィスに、銀仮面達の死霊の髪の毛が四方から一斉に絡みつく。
しかしその状況でも平然と立ち尽くすメンフィスは、足元に白い輝きを放つ魔法陣を展開させる―――
「―――コイツに任せるとしよう」
―――メンフィスの言葉が言い終わるかどうかというタイミングで、魔法陣から巨大な光輝く魚がまるで水面を跳ねるかの如く飛び出してきて、そのまま空中を遊泳していく。
大きさは有に十m以上にもなるその巨大な光る魚は、空中で魚のギョロリとした眼で見下ろしてアンデッド達に狙いを定める―――
―――それを見てシリウスは振り返りながら驚愕する。
障壁に護られている観客達もメンフィスの召喚とその光の巨大魚に驚きを隠せない―――
「聖光魚アスピドケロン……コイツは闇属性の魔物が大好物だ。悪食だがこういう場面では役に立つ」
―――メンフィスがニヤリと笑みを浮かべて召喚したアスピドケロンに命じる。
「さあ!アスピドケロン!此処にいるアンデッド共は全部喰らってかまわないぞ!!」
するとまるで主に従うペットのように、アスピドケロンはそのギョロっとした魚の眼を銀仮面の集団に向け、まるで水中の様に身体をくねらせて空中を滑空すると―――
【GYOEEEEE―――ッ!!!】
―――奇声を上げながら、その巨体からは想像も出来ない高速で銀仮面達に襲い掛かっていった。
真っ先にメンフィスを死霊の髪の毛で縛っていた銀仮面のアンデッド達がその牙の生えた巨大な口の中へと納まっていくと、メンフィスを縛る髪の毛も同時に光に包まれて霧散していく―――
―――メンフィスとシリウスによって闘技フィールドの銀仮面達が間もなく駆逐されようとしているところを、フレイアの障壁に護られた観客席の観衆達は息を飲んでその行方を見守っている。
「シリウス……」
その中に両の手を握り、祈るようにしてシリウスを見つめるエルカミナの姿もあった―――
―――闘技フィールドがシリウスとメンフィスによってアンデッドが一掃されてきた頃に、
【―――イェンリン!】
【―――紅蓮かっ!】
『伝心』でイェンリンに紅蓮の声が届けられる―――
【紅龍城から学園の上空に幾つも大きな影が見えたから嫌な予感がしたけれど、まさか古代龍が襲来しているなんて!ノワールが向かって相手をしているようだけど私も加勢に行くわ!】
【分かった!―――余も行くぞっ!】
そう答えてイェンリンは―――
「レーツェル女王!此処の者達の護衛を
オーヴェストの貴賓席にいたレーツェルに向かってアトス達、
「それは構いませんが……イェンリン様は、どちらに?」
「余は―――」
イェンリンが答えようとしたところに、学園の闘技場の上空を巨大な影を落として真紅の神龍が颯爽と通過する―――
「―――八雲とノワールの加勢に向かう!!」
―――そう宣言すると一瞬しゃがんだイェンリンが一気にジャンプを繰り出すと遥か上空まで飛び立ち、そこに旋回して闘技場上空に戻って来た紅神龍の頭上に飛び乗る。
イェンリンはそこでフレイアに伝心を飛ばす―――
【フレイア!見ていたが闘技場の方はシリウスとメンフィスのふたりで対処出来るだろう!余は紅蓮と八雲達の増援に向かう!お前は―――浮遊島と首都レッド全域に障壁を展開せよ!古代龍の流れ弾が当たっては洒落にならん!!】
【承知しました。イェンリン!】
―――紅神龍の御子からの命令にフレイアは膨大な魔力を湧き起こし、今いる浮遊島から地上の首都レッドまで巨大な障壁を展開した。
フレイアに障壁を張るよう命じたイェンリンは、遠くに見える古代龍達が放つ幾つもの白い閃光を睨みつける。
「急ぐぞ!紅蓮!!」
【ええ!分かってるわ!!】
真紅の巨体が高速域の速度で、上空の戦場へと駆けていくのだった―――
―――その間、八雲とノワールは……
「―――次また撃って来るぞ!ノワール!!」
【分かっている!振り落とされるなよ!八雲!!】
ニ十体の古代龍が間を置くことなく顎から放ち続ける龍の
「あれだけデカいと俺の攻撃でも、そう簡単には仕留めきれないだろうな……しかも相手はアンデッド化しているおまけ付きだ」
黒神龍の頭に乗りながら撃ち込まれる白い閃光を回避していく中も、八雲は反撃の手を考えるが巨大な古代龍ニ十匹が相手となるとそう簡単にはいかない。
【せめて動きを止められたら、我の
「マジか!遂に
アルブムでダンジョンを全階層貫くほどの威力を持つ
【ふざけている場合ではないぞ八雲!何か手を考えろ!!】
且つての戦友であり、英霊として祀っていた古代龍達を利用されていることに怒り心頭のノワールは、八雲にも言葉が強くなっている。
「ああ、そうだよな……あの死霊使いを何とかすれば、少なくとも多少動きが鈍るだろう。ノワール!アイツが乗っている龍に出来るだけ接近してくれ!!飛び移ってあの死に損ないを今度こそ仕留める!!!」
【分かった!!―――しくじるなよっ!!!】
すると絶え間なく襲い来る古代龍の
「何のつもりだ?くだらん小細工など、儂には通用せんぞっ!!古代龍共!何をしている!!サッサと撃ち墜とせ!!!」
―――
骸と化した古代龍達は、その魂の抜け殻となった巨体から白い閃光を集中して黒神龍に向かって撃ち続ける―――
【不味い!―――避けきれん!!】
―――そう叫ぶノワールの目の前に集中して放たれた
ノワールは黒神龍の鱗に覆われた身体でダメージを受けることは考えられないが、頭上の八雲は生身の身体だ―――
―――そして正面から直撃を受ける黒神龍。
【八雲ォオオッ!!!】
直撃を受けた八雲の身を案じるノワールの叫びが、直撃して上がった黒煙に向かって轟く―――
―――だが、その黒煙の晴れていく中から現れたのは、
「八雲式精霊魔術
―――
―――そこには蒼く光沢のある鏡面状の表面に覆われた輝きに満ちた鎧が現れて、その全身を覆われた八雲が姿を現す。
フルフェイスの兜には額から後ろ向きに一本の角が伸び、背中には六枚の長い三角形をしたスラスターのような羽根が付いていて、両手にはそれまでの夜叉と羅刹に蒼い刃が加わり、一回り大きくなった二本の蒼い太刀が握られていた―――
【何それっ!?超カッコイイィイイッ!!!】
―――八雲の姿にノワールも思わず厨二心をくすぐられたのか、空中で絶賛の声を上げた。
「な、なんだ!?一体何なのだ!!その鎧はっ!!!」
古代龍の頭上で八雲の変身した姿を目の当りにしたダヴィデが、まさか古代龍の
「お前に一々説明してやる義理はない―――ダヴィデ=カノッサ!!今此処でお前に引導を渡してやる!!!」
そう言い放つと八雲は黒神龍の頭上から飛び立って、ダヴィデの乗る古代龍の背中に下り立つ。
「クッ!!―――いい気になるなよっ!若造がァアアッ!!儂にも切り札ぐらい用意してあるのだっ!!!」
すると、ダヴィデの周囲に四つの巨大なドス黒い輝きを放つ魔法陣が展開する―――
「よく見ておくがいい……あの時、儂に与えた屈辱から生まれた復讐心が!今のこれを生み出したことを!!!
ハァアアア!!
―――
―――その魔法陣に躊躇なく飛び込む古代龍の四つの影が見えた瞬間、その魔法陣からダヴィデに向かって激しい稲妻が迸ると、中心にいるダヴィデを覆い尽くす。
「まさか!?あの時のエルフ達のように今度は古代龍でするつもりかっ!!!」
且つてのエルフの身体を合体させた光景を思い出し、八雲が叫ぶ―――
―――稲妻の直撃で立ち込めた白い煙が風に吹かれ、古代龍の頭に立つダヴィデの姿を鮮明にしていくと、
「フッフッフッ……ハァア!ハッハッハッ!!―――どうだぁ!!これこそは古代龍の骸から生み出したる儂の新たな力……名づけるなら……『
そこに現れたのは―――
―――フルフェイスの額から前に向かって生えた二本の角
―――古代龍達の鱗と同じ黄土色を基調とした外装装備
―――そしてその上から紫の毒々しい筋が入った全身を覆うフルプレートの鎧
その禍々しい鎧に身を包んで立っている、ダヴィデの姿だった―――
「ハハハッ!!あの時のエルフの娘達などで編み上げた鎧とは大違いよ!!!―――これは古代龍の骸に残っていた魔力も込められている最強の鎧だ。最早この地上に儂を倒せる者などいないのだ!!」
高らかにそう叫ぶダヴィデを八雲はフルフェイスの中で、むしろ哀れな者を見る目で見ていた。
何故なら―――
「―――世界最強とは大きく出たな?死霊使い!」
「ッ!?―――グオォオオオッ!!!お前はっ!!!」
そんなダヴィデの遥か上空から自由落下で古代龍の背に降り立ち、その際に黒炎剣=焔羅でダヴィデ自慢の鎧を袈裟斬りに斬り裂いた赤い閃光―――
「ポッと出の死霊使いが、世界最強を囀るなど―――千年早いわっ!!!」
―――遥か上空から下り立ったのは、この国の皇帝。
世界最強の剣聖イェンリン=ロッソ・ヴァーミリオンだった―――