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第二十二話 アーロさまの疑問2

 アーロさまは、窓の側にツカツカと歩み寄ると、バンッと音を立てて勢いよく開けました。

 そこはベランダがない窓なので、開けると危ないですよ? 私たちは人化を解けば自力でなんとかなりますが、アーロさまは人間ですからね。そこから落ちてしまったらペチャンコになってしまいます。と思っても、それを直接言うわけにもいきません。ドキドキします。

「こんな場所に、こんな立派な建物を建てられるほどの魔法って……凄すぎませんか⁉」

 フワッと広がりながら揺れるレースのカーテンの向こうには、空が広がっています。広く広がる青の下のほうには、青みがかった霞が揺れていて。その向こうには、切り立った山々が連なっています。私たちにとっては、見慣れた景色です。

「どうやって資材をここまで運ばれたのですか? そもそも、あの崖をどうやって登ってきたのですか?」

 改めて下の方を覗いたアーロさまは、衝撃を受けたようで顔色がよくありません。せっかく血の気が戻ってきたのに、白い肌がより白くなってしまいました。普通は興奮したら赤くなるような気がしますが。なんだかアーロさまは、むしろ青ざめていますね。

「アーロさま、顔色がよくありませんわ。まだ動き回るのには、早かったのかもしれませんよ」

 私がアーロさまに向かって一歩近付くと、モゼルが間に入ってきました。

「そうですよ、アーロさま。ベッドに戻ってください」

 恋心は認めてくれても、身体的距離が近くなるのは許してもらえないようです。クスン。

「あ……あぁ。そうですね。つい興奮してしまって……横になります」

 モゼルに言われて、アーロさまは窓際からベッドへと向かいました。すかさずモゼルが窓を閉めます。ここは98階ですからね。窓を開けておいたら危ないです。

「そうなさってください。眠ってしまったほうが回復も早くなるでしょうし。昼食まで時間がありますから、ゆっくりしていてくださいませ」

「ありがとう」

 モゼルの言葉に従って、アーロさまはベッドへ横になりました。真っ白なリネンの中で目を閉じるアーロさまは、運び込んだときに比べたら状態はよくなっていても、まだ充分に元気な状態とは言えないようです。

 ベッドで目を閉じるアーロさまを眺めていた私は、モゼルによって当然のように客室を追い出されてしまいました。 ちょっとおもしろくないです。イラッとしました。

 私は自室に戻ろうとして、上へと続く階段を見上げます。もう一階上がれば大広間。その上には屋上があります。そこに行けば、晴れた青空のなかに気持ちよく飛び込んでいくことができることでしょう。

 アーロさまは寝ているから、大丈夫ですよね?

 私はアガマを呼び寄せると、悲鳴を上げる執事を背中に乗せて、朝の空中散歩を楽しみました。

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