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第六十九話 治療

 私が泣き止むのを待って、アーロさまを連れて屋敷へ戻ることになりました。

 お父さまに乗っかっていたアガマがヒョイと降りてきて、アーロさまの体を一通りチェックします。

「やはりアーロさまは、怪我をされていますね」

「まぁ、大変」

 私が慌てるとアガマが呆れたような表情を浮かべて私を見ました。

「大丈夫ですよ、お嬢さま。前回と比べたら軽症です」

「あら、それならよかったわ。なら私に乗ってもらって早く屋敷に戻りましょう」

「それはダメですよ、お嬢さま。アーロさまは自力でドラゴンに乗ることができる状態ではありません。落ちないように、わたくしが支えていきましょう。ですからわたくしと一緒に、旦那さまに乗せてもらったほうがいいです」

 アガマがチッチッと立てた右手の人差し指を横に振りながら言いました。

 ちょっとムカつきますが、私の大事なアーロさまが落っこちてしまったら大変ですから、ここは大人しくアガマへ任せることにします。

「さぁさ、少しでも早く治療したほうがアーロさまも楽になりますから。早く屋敷に戻りましょう、お嬢さま」

 モゼルに促されて、私たちは屋敷へ戻ることにしました。

 お父さまは妙に無口です。

 屋上から屋敷の中に入ると使用人たちがテキパキと動いてアーロさまの手当てが始まりました。

「客室は、旦那さまが使われている部屋の、一階下部屋をご用意しました」

「そうなのね」

 私の部屋の一階下は、お父さまが使っています。

 どうせ荷物もろくに無いのだから、お父さまが一階下へ移動すればよいと思うのですが。

 そうもいかないようです。

 提案したら、お父さまに睨まれてしまいました。

「一階下の客室も綺麗ですから、アーロさまは、快適に過ごしていただけますよ」

 モゼルが慰めるように言いました。

 私の部屋の下の下の階にある客室のベッドは、少し小さめです。

 ですが、アーロさまには大きすぎるので、人形がチョコンと寝ている感じがします。

 可愛いです。

 うっとりと見ていると、お父さまがこちらを睨んでいるのに気付きました。

 迫力のある黒いドラゴンであるお父さまが睨むと、使用人たちが怯えるのでやめて欲しいです。

 私はちっとも怖くありませんから、何が気に入らないのか知りませんけど、効果はありませんよ、お父さま。

「では前回の感じで治療しますね。一気に良くなるわけではありませんから、痛みは残りますので、その点はご容赦ください」

「大丈夫です。治療していただけるだけありがたいです」

 アーロさまは、アガマによる治療を受けました。

「前回よりは軽傷ですから、そこまで心配する必要はありませんよ」

 アガマは私にそう言いますが、痛みが残るというのが気になります。

「セラフィーナさまのお父さま」

 アーロさまが、お父さまに声をかけました。

 お父さまが苦虫を嚙み潰したような顔をして振り返ります。

「本日は見苦しいところをお見せして申し訳ありません。後日、改めてご挨拶に上がります」

 アーロさまの言葉に、お父さまは軽く頭を下げて了解したことを伝えてました。

 これは一応、めでたしめでたしということでしょうか。

 お父さまが妙に無口なので、聞いてみるのも気が引けます。

 私としてはアーロさまへの印象や、封印のことなど気になる事はたくさんあります。

 でも今日は、そんな話をする雰囲気ではありません。

 私は、アーロさまが使う部屋を大人しく後にして、自室へと戻ります。

 夕食はお父さまと2人で摂りましたが、特にアーロさまの話題に触れることもありません。

 お父さまは、今夜もお母さまの卵を探しに帝国側へと出かけていきました。

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