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第46話 人生ゲーム


「さー始めましょうか」


 トアリ、加藤かとう、俺の順で人生ゲームが始まった。初期の所持金は一億円。


「最初から飛ばさせてもらいます」


 トアリが回したルーレットは三で止まった。赤い車の駒が三つ進み、『道ばたで五千万円を拾う』のマスへ。


「なかなか幸先良いじゃないトアリさん」


 次に加藤が回した。五で止まり、駒は『警察に補導される。二千万円払う』のマスへ。


「ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!」


 うるせえよ。そこまで魂込めるほどのもんじゃねえよこれ。


「よし、俺の番か」


 俺がルーレットを回そうとした時だった。


城ヶ崎じょうがさきくんはルーレットも別です」


 トアリが出したルーレットは普通のものと同じだった。数字の代わりに『ス』と書かれた目が一つだけ足されていること以外。


「……なんだこの『ス』は?」


「それは『スーパーカサカサタイム』の略です」


 スーパーカサカサタイムって何?


「ゴキブリの駒のみが得られるスペシャルなタイムのことです。そこに止まるとゲームでとても有利になります。うわ城ヶ崎くんの駒気持ち悪っ」


 だから駒の作者テメーだろうがああぁ。


「なるほど……。敵に塩を送っといて後悔すんなよ?」


 俺はルーレットを回した。止まったのはトアリと同じ三。


「よっしゃ、五千万円ゲットだぜ!」


「ああ城ヶ崎くん。違います。マスも専用のものになります」


 トアリは『道ばたで五千万円拾う』と書かれたマスを捲り、下にある隠れたマスを出した。


「ゴキブリの駒は捲った下のマスです」


 出現したマスは、


『ゴキブリホイホイにハマる。五千万円払うと同時に二回休む』


 ペナルティ重すぎんだろ。


「あーあー残念ですねー城ヶ崎くーん」トアリが言った。


「まったくもって張り合いが無い人だわホント」加藤が続いた。


 トアリと加藤は仲良く爆笑。


(ぐぐぐ……)


 ゲームだと分かっててもなんか腹立つ。


 その後、主婦に見つかって三千万円払ったりスプレーをかけられて二回休む等、ゲームバランス崩壊レベルのペナルティが俺を襲った。


 トアリと加藤は順調に進んで、俺との差を広げていった。トアリはあと四マスでゴール。加藤は六マス。俺は数えるのが面倒なくらいゴールから遠い場所。所持金も果てしなく差がある。


 最初にゴールできたものは多額の賞金を得られ、ワンチャン捲れるが……絶望的だ。


「俺の番だ」


 俺はルーレットを回した。六に止まったが、あまり嬉しくはない。


「一、二、三、四、五、六……っと」


 マスに進めて捲ると『羽で飛翔する。追加で一度ルーレットを回す』だった。


「へー」とトアリ。「はいはい」と加藤。もう俺なんて脅威に思えていないようだ。


 追加のルーレットを回すと、再び六。進めて着いたマスは『ゴキブリは一匹居たら一万匹。一億円を得てルーレットをもう一度回す』。


 強力なマスに止まってもトアリと加藤は「すごいねー」程度の反応。しかし、次に俺が五マス進んでマスの効果を見たとき、二人の顔色が変わった。


『ゴキブリの生命力は計り知れない。五千万円貰う。更にルーレットをもう一度回す』


 これで俺の資金は二人にかなり近づき、ゴールにも近づいている。


「よーし! こっから巻き返すぞ!」


 俺はルーレットをスタンバイ。


「ま、まあ、そう何度も良いことは起こりませんよ?」トアリは焦った様子で言った。


「そうよそうよ! 今更頑張ってもね!」加藤も焦燥を隠せていない。


 見てろよ、と俺はルーレットを回した。

 そして起こる奇跡っ……!

 出た目はなんと『ス』っ……!


「よっしゃ! スーパーカサカサタイム! スーパーカサカサタイムだよなこれ!」


 ぐぬぬ……とトアリと加藤の両者が睨んでくる。


「してトアリ、スーパーカサカサタイムの効果は? ゲームを有利に進められるんだよな?」


「ええ……」トアリは悔しそうに「スーパーカサカサタイムに止まったら、追加で二度ルーレットを回すことができるだけではなく、出た数の二倍駒を進めることができます」


 マジかスゲーなスーパーカサカサタイム。


「このままいかせてもらうぜ!」


 出たのは四。つまり二倍の八進められた。


『ゴキブリに適した暖かい時期を迎える。三千万円もらう』


 ゴールに近づいただけでなく資金を得た。これで二人との差はほぼ無い。しかもあと十三マスでゴールだ。


「頼むぞ……」


 俺は念を込めてルーレットを回した。


 六ッ……! 六が出たッ……! 


「おっしゃー! 二倍の十二マスううぅ!」


 意気揚々と駒を進める俺に、舌打ちする二人。


「さーて、マスの効果は何だろな~? もう一度回せたら俺の勝ちだぜ? マスを見る限り、オマエらがどんなに良いところに止まっても俺をまくることはできねえ!」


 マスを捲る俺の指に、全ての視線が集まる。

 ゆっくりと捲られたマスの効果は、


『ゴキブリ用の、新たなスプレーが開発される。スタートに戻ると同時に全ての資金を失う』


「なんでだああああああああああああああああああああああああああ!」


 俺は叫んだ。


「ふざけんなド畜生! こんなマスありかよ!」


 怒鳴る俺に、トアリと加藤はプッと吹き出す。


「城ヶ崎くーん。なにゲームにムキになってるんですかー」


「そうよ恥ずかしい! こんな子どもの遊びに!」


 さっきまでワリと本気でやってたろテメーらも。


 もちろんそのゲームでは負け、その後、何度やってもGの呪いが俺を苦しめるのだった。


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