「え、ええと、岩田さんは、おいくつなんですか?」
岩田さんは、ちょっと考えてから、
「じゅ、十七歳です……」
目を背けてポツリと呟いたのだった。
(え、えええええええええええ?)
なにそのすぐバレる嘘?
どんだけサバ読むの?
さっき教師っつってたよね?
十七歳でなれるワケないよね?
え、もしかしてなれる? 俺の知識不足だったりする?
「まあそんなことは置いておきましょう! 歳なんて関係ありませんしね!」
そうですね。これまでの全ての会話自体が関係ありませんけどね俺には。
「じゃあ暗殺のほう、見せてもらってもいいかしら?」
じゃあって何?
「えーと、実は今日、暗殺するための武器を持ってきてないので無理というか……」
俺が言うと、岩田さんはムッと表情を強張らせた。
「武器を持ってきてないですって? いい加減にしなさい! あなたそれでも暗殺が趣味なの?」
いい加減にするのはアンタだ。
「まさか暗殺が趣味なの嘘じゃないでしょうね!」
アナタの年齢ほど嘘じゃないです。
もういいから。
そんな話を広げるシーンじゃないでしょここ。
早く逃げさせて。
こんなとこで足止め喰らってたらフルアーマー女子に見つかる。
「あ、今からちょっと家に帰って武器持ってくるんで、俺はこれで失礼します」
「そんなこと許されるとでも思ってるの!」
まだこの話広げるのおおおおお?
もう良いでしょうよ。
つーかさっきからアナタの怒りポイントが分からないのですが?
「今はお見合い中でしょう! 最後までやり切りなさい!」
ここはいつからお見合い会場になったんですか?
学校の理科室ですよ?
「そんなハンパだとあそこの人体模型にも笑われるわよ!」
急にここが理科室ってこと認知してるってのアピりだしたな。
もしかして今思い出した?
「あ、いけない!」岩田さんは腕時計を見て、「もうとっくに帰りのHRが始まるわ、行かなきゃ」
良かった、ようやく去ってくれそう。
「因みに年収はいくら?」
まだやるのおお?
俺の年収より生徒たちを学校から撤収させる方が大事でしょ。
まあいいやテキトーに答えて終わらせよう。
「百五十万くらい――」
です、と言い切る前に、岩田さんは『タッタッタッタッ』と軽快に走りだしたのだった。
(え、えええええええええええええええええええええ?)
ここまで露骨に態度変えるうううううううううう?
いや早くどっか行ってほしかったけど腹立つ。
これはこれで腹立つ。
(ぐぐぐ……まあいい……)
俺は世界に名を轟かせている暗殺者だ。
この程度でいちいち腹を立ててる場合じゃない。
クールに……クールに……。
(ふう……)
よし落ち着いた……。
さあ、早くこんなところから出て仕切りなおそう。
明日、この高校の教頭をガチで狩りに来るぞ……。