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第68話 人外魔境G決戦①(sideG)


 もうめんどくせーから誰ともエンカウントしないように――


「あの~、ちょっと良いですか?」


 野太い声が背後から……。

 またか……。


 もういちいち構ってられない。

 スルーして理科室を出よう。


「悪いが今度にしてくれ。俺は急いでる」


 俺は振り向きざまに言った。

 そこに居たのは……金剛力士像だった。


 見間違いじゃない。

 体長一八〇センチほどの、金剛力士像が、そこに居たのだった。


「オイラの悩みを聞いてほしくて……」


 金剛力士像は言った。

 確かに喋った。

 金剛力士像が、喋ったのだ。


(え、えええええええええええええええええええ?)


 ここは化け物屋敷?

 もうここ日本……っていうか国じゃないでしょ。


 完全に異世界でしょここ。

 え、オレ異世界転移した?


「驚かせてゴメンね~」金剛力士像は野太い声で言った。「急に後ろから話しかけられたらビックリするよね」


 ビックリポイントそこじゃねえよ。


「あっ、急に東大寺から来たから驚いてるんだね」


 そこでもねえよビックリポイント。


「さっそくなんだけど悩み聞いてよ」


 何なのこの状況?

 像にお悩み相談されるって何?


 日本じゃ当たり前だったりする?

 ちょ、ゴメン誰か教えて。


「あの~、聞いてます?」


「あ、ああ……。え、ていうかキミ、何でそんなフツーに動いてるワケ? 妖怪の類とか?」


「うーん、そんなところかな? まあ日本じゃオイラみたいなのは当たり前だよ。外国の人だからビックリしたよね、ゴメンゴメン」


「あ、いや、大丈夫だ……」


 ど、どうやら日本じゃ当たり前のようだ、この状況は。

 じゃあこんなことで動揺してる場合じゃないか。


 良かった……事前に知っておいて。

 もしこういうこと知らずに明日、暗殺に行っていたら大変なことになっていた。


 ……とりあえず像の悩みを聞くか。

 そーいや日本には傘地蔵という話があったな。

 こういうことが元ネタになっていたのかアレは。

 解決したら良いことあるかも……?


「ところで、悩みってなんだい?」


 俺が聞くと、金剛力士像はモジモジ指を絡ませながら、


「ちょ、ちょっと好きな人が居て……」


 なにその中学生みたいな悩み?


「へ、へえ……。誰か聞いても良いかな?」


「え、名前言うんですか? いやでもな~、他の人にバレたら恥ずかしいし」


 中学生か。


「だ、誰にも言わないって約束してくれる?」


 中学生か。


「マジで言うなよ~? 隣のクラスの千手観音に知られたら茶化されるし」


 中学生か。つーか隣のクラスの千手観音って何?


「オイラが言ったらキミも好きな人言うんだぞ?」


 だから中学生かて。


「いや、その、オレにはもう(フランスに)彼女居るし……」


 すると、金剛力士像は「おおっ」と嬉しそうな声を上げて、俺の両手を握ってきた。


「それなら心強い!」


 金剛力士像はブンブンと俺の両手を振る。

 痛い痛い痛い。あんま強く手を握らないでくんない。骨折するから。


「やった、彼女が居る恋愛マスターが相手なら上手く行ける!」


 金剛力士像は手を離し、両手でガッツポーズした。


「……で? 誰なのかな? 弥勒菩薩とか?」


「ちょ、誰がアイツなんて! べ、別に、す、好きじゃねーし!」


 いやだから中学生かて。てか弥勒菩薩居るのね、冗談で言ったつもりだったんだけど。


「さ、最近会った人を好きになっちゃったんだよね~」


「へえ、最近。どこの誰かな?」


「え、えっとお、この学校に居る岩田先生っていう人なんだけど」


 アイツかいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。


「額に一撃喰らってから、あの人のことを忘れられなくなって……」


 なんの話だ。


「ど、どうすれば良いと思う? ええと……」


「……マルセルだ」


「あ、マルセルくん」


「……どうもこうも、好意を伝えれば良いんじゃないか?」


「で、でもお、それだと相手に好きだってバレるし……」


 はあ……とオレは大きくため息を吐いた。

 付き合ってらんないよ、こんな中学レベルの奴に。

 オレは金剛力士像を睨みながら、口を動かす。


「あのさ、好きだって気持ちは伝えないと伝わんないよ? もしかしてジッと待ってたら向こうが気づいて逆に告白してくれるとか思ってる? そんなこと一生起こらないからね? そんな消極的じゃ、素直に『好き』と言う男に取られて終わりだよ。いつまでもグダグダ言ってる暇があれば伝えに行けよ。自分から行く勇気が無いのなら人を好きになる意味は無いよ。いや、資格すら無いと言えるね。え、もしかして昔からそうやってモジモジしてたりする? だから彼女居ないんじゃないのキミ? そろそろ自覚すべき時じゃないかな?」


 オレが早口で言うと、金剛力士像は納得したのか、「なるほど」と呟いた。


「た、たしかに……。オイラはずっとそうやってウジウジしてたよ……」


「だろうと思った。もうそういう自分は捨てて、最短で好意を伝えに行きなよ」


 な? とオレが肩を叩くと、金剛力士像はとても嬉しそうに頷いた。


「ありがとうマルセルくん! じゃあ今から最短で伝えに行くね!」


 言うと、金剛力士像は理科室の扉を『ガッシャーン!』とぶん殴って破壊した。そして『ドシンドシン!』と足音を鳴らして、色んなものを蹴散らしながら廊下を走って行った。


(え、ええええええええええええええええええ?)


 いや誰が最短ルート(物理)と言ったああああああああああ。

 校舎破壊するつもりかテメーは?


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