「さて、とっととこの騒ぎを終わらせましょうか」
フルアーマー女子こと、
「にしても現場に駆けつけるその速さ。流石はGですね」
誰がゴキブリだ誰が。
「おや。少し背が伸びましたか
城ヶ崎って誰?
「ああシークレットブーツでしたか、失礼」
違えよ。自前の身長だわ。
「声も変えてますよね? 無理にイケボにしても無駄なのに、いとをかし」
これも自前。
「可哀想に……。素朴な顔が人体模型並みの素朴になって……」
それは自前じゃねえよ。
「ああ神様……どうか城ヶ崎くんをこれ以上素朴にしてあげないでください」
だから城ヶ崎って誰?
「なにも顔の半分血管が見えるようになったり脳みそが見えるほど素朴にしなくても良いのに……」
いや素朴どころか逆にインパクトデカくね?
「まあでも大丈夫です。私はそんな外見になってもあなたがGであることは決して忘れませんので」
だから誰がゴキブリだ。
「あ! そういうことですか!」
今度は何?
「なるほど! ゴキブリであることを忘れさせるためにそうなったのですね!」
違えよ。
何なのコイツうううう。
失礼にも程があるんだけど。
こんな失礼な生命体初めて会うんですけど。
「流石は極悪非道六神獣及び魔王です。極めて素朴な四天王最弱と改名しようとしたことをお詫びいたします」
謝ってんのにここまで謝意が伝わってこないの初めてなんですけど。
ま、まあいい……。まずはこの場を鎮めることを考えるか……。
(にしてもどうする? アイツを次の一撃で仕留められれば……)
そうこう考えていると、
「……今度はオイラの番だ……」
金剛力士像は立ち上がった。くそ、反撃されたらキツイぞ……。
「ところで城ヶ崎くん、金剛力士像を仕留める手は浮かんだのですか?」
この感じだと、鞘師トアリは、俺のことを城ヶ崎という奴だと勘違いしているらしい。
つまり城ヶ崎というやつも極悪非道六神獣及び魔王ってことか。
校内放送で言われてた魔王も城ヶ崎って奴のことだったのね。
まさかオレと同じ二つ名を持つ奴が日本の高校に居るとは……。
ど、どーなってんだこの高校?
てかその城ヶ崎ってやつ、いっつもこんな感じの扱いなの?
一体どんな奴?
「お姉ちゃーん!」
と、ここで制服姿の可愛らしい少女がこちらに走ってきた。
眩いほど可愛らしい少女は、鞘師トアリの傍に来た。
「おや、なるみ。どうしたんですか?」
どうやら少女は鞘師トアリの妹で、なるみという名らしい。
「忘れ物を届けに来たんだよ~」
このタイミングでえええええええ?
もう授業終わってるんだけど。下校時間なんだけど。
教科書とか筆箱とか届けにきても全く意味が無い――、
「はいこれ」少女なるみは、鞘師トアリに大きな矢を渡した。「破魔の矢」
「ありがとう、なるみ。丁度これが必要だったんだよね~」
鞘師トアリが受け取ったのは、二メートルほどの『破魔の矢』だった。
(え、ええええええええええええええええええ?)
何でそんなモン持ってんの?
何でこのタイミングで届けに来るの?
忘れ物リストには確実に入らないモノだよね?
え、これも日本じゃ当たり前だったりすんの?
「お姉ちゃんの近くに『魔の気配』を感じて持ってきたんだよ~」
魔の気配を感じる妹ってなに?
陰陽師か何かですか?
「……あれ? あなたは……?」
少女なるみは俺を見て怪しむ。
や、ヤバいぞ……。
俺が例の城ヶ崎って奴じゃないってバレたら面倒なことになる。
「なるみ、信じられないかもしれませんが城ヶ崎くんです」
「えええ? 城ヶ崎さんなの? ついに人体模型になれたの?」
ついに人体模型になれたのってなに?
「良かったですね城ヶ崎さん! 人体模型って世界的に素朴で有名な人だよ!」
何を祝われているのオレは? 姉妹揃って失礼度高すぎるだろ。
失礼な一族の末裔だったりする?
「じゃあ私、友達との約束があるから!」
少女なるみは軽快に走り去っていったのだった。
(え、ええええええええええええええええ?)
言うだけ言って友との約束に走ってったああああ。
こ、これがジャパニーズチルドレンなのか?
「さあ城ヶ崎くん。この『破魔の矢』で金剛力士像にトドメを刺すのです」
だから何でそんなモン持ってんだっつの。
あとオレ城ヶ崎じゃないからね。
まあいいや、ツッコむのめんどくせーからヤるか。
「わ、分かった。貸してくれ」
オレは鞘師トアリから『破魔の矢』を受け取った。それを大きく振りかぶって、金剛力士像に狙いを定める。
「消えろおおおおおおおおおおおおおおお!」
オレは叫びつつ矢を投げた。
破魔の矢はシューっと綺麗な風切り音を鳴らして飛び、ガシュッと金剛力士像の胸部を貫いた。
「ぎいやあああああああああああああああああああああ!」
断末魔を上げると、金剛力士像は白煙となって消えた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
と、現場が地響きするほど盛り上がる。
「流石は魔王!」
「なんだ今のは!」
「魔王だから投擲なんてお手のモンなんだよ!」
「す、スゲー!」
「私、ファンになったかも!」
「ちょっと、ファン第一号は私よ!」
「とにかく奴が学校を支配しようとしてるのは間違いだったんじゃないか?」
「いや、まだ安心は出来ない!」
「でも今日は助けてくれたぜ?」
「そうだな、今は彼を称えよう!」
等とギャラリーたち。次いで校内放送が入った。
『生徒会副会長の加藤律子です。皆さん、極悪非道六神獣及び魔王に感謝を』
パチパチパチパチ! と拍手喝采。
『今日からは極悪非道六神獣及び魔王には注意ではなく感謝をしましょう』
またも拍手喝采。
……なにこの流れ……?
『でも良い気にならないでくださいよ城ヶ崎くん! あなたが悪事を働いたらすぐさま裁きますからね!』
だから城ヶ崎って誰よマジで。
ナニモンなの?
つーかここまでして本人出てこないの何?
もしかして架空の人物だったりする?
(……まあいい……)
金剛力士像は殲滅したし……。
幸い、けが人も出なかったようだし。
もうこの学校を去って、明日へ備えよう。
ギャラリーたちの拍手や声援を背に、オレは走り出した。
(もう最短で……最短で出るからな……!)
まず理科室に戻って、人体模型の顔を置いておいた。そして学ランも元の机に戻して、トレンチコートに着替える。