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第71話 魔王VS魔王(sideG)


(よし、あとはここを出るだけ……)


 俺が理科室を出ようとした、その時だった。


「トム! ナンシー! イエス! グッド!」


 おかしな英語を言いつつ、破壊された扉経由で理科室に誰かが入ってきた。


 俺は不思議と、ソイツから只ならぬ気配を感じて……。

 咄嗟に掃除道具を入れるロッカーの中に隠れていた。


(次から次へと……)


 俺はロッカーの通気口から、その人物を覗き込む。

 ソイツは……髪を少し茶色く染めた男子だった。


 また生徒か……。

 でもあの学ランを着ていない。上は白シャツだ。


 素朴な顔立ちの男子だった。身長も高くない。一六〇センチくらいだろうか。 

 素朴な男子は、イヤホンで何かを聞きながら何度も頷きつつ、


「イエス! オンリー! ユー!」


 と、へんてこな英語を叫んでいる。


「ジャスト! モーメント! イズ! グッド!」


 ノリノリで男子は叫ぶ。

 な、なんだアイツは……?

 虚空に向かって叫んでるぞ。

 誰かに通じるモノがあるんだけど気のせい?


「ザット! オウ! シティー!」


 音楽でも聞いているのか?

 男子はノリノリだ。


「カントリー! イエス! ベリー! キュート!」


 いやうるせえよ。

 何なのコイツ? 何なのコイツ?


「イット! ソング! ショウ!」


 ビート刻みながら叫んでんだけど。

 マジで何なの?


「モーニング! ルーツ! アイドル!」


 もういいから。早く去ってくんない?

 つーか何で理科室来てんのキミ?

 そんな英語喋りたけりゃアメリカにでも行きなさいよ。


「キョウト! ナラ! グッド!」


 急に日本語ぶち込んできたな。

 さては知ってる英単語使い切ったな?


「ふ~。こんなもんで良いかな」


 言うと、男子はイヤホンを外した。


「英語のリスニングだけは不安なんだよな~。でもこんだけ勉強しとけばゴールデンウイーク前のテスト、全教科満点かな?」


 え、さっきのリスニングの勉強してたの?

 オマエが口に出したの小学生レベルだったけど大丈夫?


「HRサボって勉強してたのバレたら岩田いわた先生に怒られるから、とっとと帰るか」


 アイツの生徒だったんかオマエ。

 てかサボるやつ多いなここ。ホントに日本トップクラスの高校か?

 まあいい、さっさと帰宅してくれ。


「あ、俺の学ラン、やっぱ理科室に忘れてたのか」


 男子は机の上の学ランを羽織った。

 なるほど、アイツのだったのか……。

 だから理科室に来たのね。


「……ん? なんか俺の学ラン……ゴキブリ臭くね?」


 な、なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?


「ヤベーよゴキブリが大量に走り回った形跡あるわ」男子は学ランを脱いで、肩に担いだ。「帰ったら洗濯するか」


 こ、コイツううううううううううううううううううう。

 オレがゴキブリ臭いってか?


 仕留めたい、今すぐ仕留めたいいいいいいいいいいいいいいいいいい。

 い、いや、ダメだダメだ……。


 今、ここで事件を起こすわけにはいかない……。

 ヤるなら明日だ……。

 教頭の『ついで』に、アイツも暗殺してやる……。


「一匹の匂いが付いたら百回は洗わなきゃダメって言われてるしな」


 一匹居たら百匹居る、だバカヤロウ。


「理科室にもゴキブリホイホイ導入するか。ロッカーとかにも潜んでそうだし」


 誰がゴキブリだ。


「理科室の扉が不自然に壊れてるのもゴキブリが走った跡か。最近のゴキブリは凶暴だな」


 それ金剛力士像の仕業。ゴキブリが走っただけでそうなるワケないよね。

 物理学の勉強しようか(怒)



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