「おや、こんなところに居たのですか」
と、言いつつ誰かが理科室に入ってきた。
ギシュリと登場したのは、あのフルアーマー女子、
（次から次へと……）
なんでこう、いちいちオレの前でめんどくせーことが起こるの？
「クラス委員長なのにＨＲサボるのは感心しませんね」
鞘師トアリは言った。
「ワリーなトアリ。ちょっと道に迷ってた外国人を助けてて」
リスニングの勉強してたよね。
「ほう、やるじゃないですか
鞘師トアリは感心するように言った。
どうやら素朴な男子は城ヶ崎――
（って、ええええええええええええええええ？）
じょ、城ヶ崎だってええええええええええええええええええ？
あ、アイツか。
アイツが城ヶ崎かああああああああああああああああ。
この高校の極悪非道六神獣及び魔王か。
あんな素朴な奴がオレと同じ二つ名を持っているとは。
いやでもなんかその素朴さが逆にリアルだわ。
そーいう奴って『いかにも』って感じが無いんだよね。
な、なるほど……。
アイツが……アイツが城ヶ崎……。
明日……オレをゴキブリ臭いと言ったことを後悔させてやる……。
「だろ？ やっぱリスニング勉強しといて良かったわ。駅の場所カンペキに教えられたし」
あんな稚拙な英語じゃ無理だよ実際。
「でも最近この辺をうろついている不審者だったかもしれませんよ？ 城ヶ崎くん、その人の特徴とか覚えてますか？」
「あー、容姿の特徴とかは覚えてねーわ」
そりゃリスニング勉強してただけだからね。外人と会ってすらないからね。
「良く思いだしてください。もしかして、ゴキブリが擬人化したような人じゃなかったですか？」
なんでそうまでして全ての人をゴキブリにしたいワケ？
「あー、そういや……。そいつ、学ラン着たいって言うから貸したらゴキブリの匂い付けられたんだよな俺」
嘘をつけええええええええええええええええええええ。
てか誰がゴキブリだあああああああああああああああああ。
消したい、消したいいいいいいいいいいいいいいいいいい！
今すぐ消したいいいいいいいいいいいいいいいいいいい！
なんでコイツら揃いも揃って相手のヘイト溜めるのうめーんだ。
煽りの専門家か？
「トアリの言う通り、ゴキブリが擬人化した外人だったかもしれねえ……」
違うから。
「間違いありません。まさに
うまくねーし。
「ところで城ヶ崎くん。ゴールデンウイークの予定は当然無いですよね？」
当然って何？
「ワリーけどゴールデンウイークは空欄で埋まってんだよ」
それ予定真っ白ってことだよね。なにその強がり？ どんだけメンタル強いの？ やっぱ魔王だから？
「なるほど。まあそれは置いときましょう」
さてはツッコむのめんどくて流したな鞘師トアリ。
「あのですね。ちょっと城ヶ崎くんにお伝えしたいことがあるんですけど……」
訪れる沈黙。
見つめ合う二人。
え、なにこの空気？
もしかしてアレ？
告白とかする感じ？
ヤベーよこんなとこ覗き見する趣味無いんだけど。
でもスゲー気になって釘付けになってるオレが居るんだけど。
ちょ、止めて、そういう趣味無いからマジで。
「……何だよ改まって？」
気づいてないっぽいよ城ヶ崎。どんだけ鈍いの？ 男としてリードしてあげなよ。
って何で応援してんのオレ？
「城ヶ崎くん……その……」
ヤバいヤバい。告白するって、告白するって。
「その……か……か……」
……か？
「か……課外授業……楽しかったです……」
言い切ると、鞘師トアリはギシュリと城ヶ崎から顔を背けた。
城ヶ崎は少しだけ口を緩めた後に、
「ああ。俺も楽しかったよ」
ニヤリと笑ったのだった。
「よし、じゃあトアリ、一緒に帰ろうぜ」
「ふ、ふん！ まあいいでしょう！ べ、別に一緒に帰りたいとかじゃなくて、城ヶ崎くんが道中ゴキブリホイホイにハマらないようにするためにご一緒するだけですからね！」
「誰がゴキブリだっつの！」
というやりとりをしながら、城ヶ崎と鞘師トアリは理科室を出ていったのだった。
ポツンと、オレはロッカーの中で取り残されていた。
（……え？ 何アレ……）
何だかあの二人にとても遠くまで引き離されたような……。
疎外感を覚えていた。
（ま、まあいい……）
にしても、あんなやりとりを見せられたら、ヤりづらくなるじゃないか……。
極悪非道六神獣及び魔王って呼ばれてるけどさ……。
ああいう裏の話とか知らずに遂行してのことだからね。
実は情に弱いのよオレ。
冷静に考えてみれば、ゴキブリって間接的には言われたけど、直接言われたワケじゃないし……。
根は悪い奴らじゃない……よな……？
くそ、どうする……？
教頭の暗殺だけにしとくか？
