「配布プリントにも目を通しておくように」
岩田先生は仕切りなおすように言った。
「じゃあ早速なんだけど、転校生を紹介するわ」
ざわつく教室。
(転校生……?)
こんな中途半端な時期に転校、か。家の事情とかかな?
……まあ、どんなやつが来ても問題ないというか……。
「なるほど! 孤立しないように全力でサポートしないとね!」
右隣の常にうるせー奴(加藤)とか。
「ほう。これはクラス委員長として除菌しなければ」
左隣の超潔癖症フルアーマー女子(トアリ)のことを考えたら、どんな奴が来ても、今更ねぇ……って感じだし……。
「新しい風が吹きそうじゃない!」加藤は言った。
「そうですね、教室の汚染度を下げるには新しい風が必要です」トアリも続いた。
残念ながら無理だよ、新しい風が吹くことないからね。主にキミたちのせいで。
え、もしかして気づいてない?
自分たちのキャラが濃すぎるがゆえに、どんな奴が来ても微風にしかなんないの。
流石に気づいてるよね?
「クラスのキャラを濃くする良い機会ね!
と加藤。
「そうですね。そろそろ城ヶ崎くんに続く、キャラが立った二人目が居ないと汚染度を下げられません」
とトアリ。
(……………………いや何でだよ)
何で気づいてねーんだよ。
完全にキャラ立ってるからキミたち。一人で十人分くらい担ってるから。このへん一帯キャラの渋滞起きてるから。
「このクラスにもようやく新たな風が吹くって考えると楽しみね!」
と加藤。
「確かに。その風で汚染度を下げられますし」
とトアリ。
だから風が吹くことないから。
つーかさっきからトアリは汚染度のことしか言ってねーぞ。マジでブレねーなコイツは。
「じゃあ紹介するわ。入ってきて!」
岩田先生が言うと、教室の扉が開いた。
(こちとら毎日、両隣の変人相手にしてるんだ……。別にどんな奴が来てもどうってことない――)
転校生は、ドスン! ドスン! と足を鳴らしながら歩き、教壇の傍に立った。
その転校生は、身長が高かった。一八〇くらいはあるだろうか。
しかし、しかし……。
どう見ても人間じゃあなかった。
何回見ても、何回まばたきして確認しても、その事実が覆ることはなかった。
金剛力士像だった。
転校生は……金剛力士像だった。
東大寺南大門にある金剛力士像の体長を、そのまま一八〇センチにサイズダウンしたものだった。
俺の左右に座る二人以外、ポカンと口を開けて驚愕していた。
「ど、どうも。今日からこの学校に通うことになった金剛力士像です」
野太い声で言うと、金剛力士像は照れるように頭を掻いたのだった。
(え、ええええええええええええええええええええええええ?)
新しい風、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
マジで来たよ新風が。クラスの風穴開けてきたよ。
え、ちょ、え、あの、ちょ。
どういうことですか?