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第78話 新しい風


「配布プリントにも目を通しておくように」


 岩田先生は仕切りなおすように言った。


「じゃあ早速なんだけど、転校生を紹介するわ」


 ざわつく教室。


(転校生……?)


 こんな中途半端な時期に転校、か。家の事情とかかな?

 ……まあ、どんなやつが来ても問題ないというか……。


「なるほど! 孤立しないように全力でサポートしないとね!」


 右隣の常にうるせー奴(加藤)とか。


「ほう。これはクラス委員長として除菌しなければ」


 左隣の超潔癖症フルアーマー女子(トアリ)のことを考えたら、どんな奴が来ても、今更ねぇ……って感じだし……。


「新しい風が吹きそうじゃない!」加藤は言った。


「そうですね、教室の汚染度を下げるには新しい風が必要です」トアリも続いた。


 残念ながら無理だよ、新しい風が吹くことないからね。主にキミたちのせいで。


 え、もしかして気づいてない?

 自分たちのキャラが濃すぎるがゆえに、どんな奴が来ても微風にしかなんないの。


 流石に気づいてるよね?


「クラスのキャラを濃くする良い機会ね! 城ヶ崎じょうがさきくんくらいしかキャラが立ってないし!」


 と加藤。


「そうですね。そろそろ城ヶ崎くんに続く、キャラが立った二人目が居ないと汚染度を下げられません」


 とトアリ。


(……………………いや何でだよ)


 何で気づいてねーんだよ。

 完全にキャラ立ってるからキミたち。一人で十人分くらい担ってるから。このへん一帯キャラの渋滞起きてるから。


「このクラスにもようやく新たな風が吹くって考えると楽しみね!」


 と加藤。


「確かに。その風で汚染度を下げられますし」


 とトアリ。


 だから風が吹くことないから。

 つーかさっきからトアリは汚染度のことしか言ってねーぞ。マジでブレねーなコイツは。


「じゃあ紹介するわ。入ってきて!」


 岩田先生が言うと、教室の扉が開いた。


(こちとら毎日、両隣の変人相手にしてるんだ……。別にどんな奴が来てもどうってことない――)


 転校生は、ドスン! ドスン! と足を鳴らしながら歩き、教壇の傍に立った。


 その転校生は、身長が高かった。一八〇くらいはあるだろうか。

 しかし、しかし……。


 どう見ても人間じゃあなかった。

 何回見ても、何回まばたきして確認しても、その事実が覆ることはなかった。


 金剛力士像だった。

 転校生は……金剛力士像だった。


 東大寺南大門にある金剛力士像の体長を、そのまま一八〇センチにサイズダウンしたものだった。


 俺の左右に座る二人以外、ポカンと口を開けて驚愕していた。


「ど、どうも。今日からこの学校に通うことになった金剛力士像です」


 野太い声で言うと、金剛力士像は照れるように頭を掻いたのだった。


(え、ええええええええええええええええええええええええ?)


 新しい風、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


 マジで来たよ新風が。クラスの風穴開けてきたよ。

 え、ちょ、え、あの、ちょ。

 どういうことですか?


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