「よ、ヨロシクでやんす」
金剛力士像は野太い声で恥ずかしそうに言った。
「ああ皆、彼は全体的に茶色いかもしれないけど生まれつきよ。日焼けサロン行ってるワケでもないからイジらないであげてね」
岩田先生それ以前に問題なところありませんか?
主に人間か否か的な。
「ゴツゴツしてるところもイジらないであげてね」
岩田先生そこでもないです。
「ああでももう少し足音を静かにするように」
「す、すいやせん」
へへっ、と照れるように笑う金剛力士像。
……え? これツッコンじゃいけない?
皆もなんか空気読んで口を挟まないんだけど。
誰か勇気ある人――
「はい! 先生! 質問があります!」
加藤が挙手しつつ立ち上がった。
よし良いぞ、ツッコめ加藤。オマエなら出来る。
ホントこういう時だけは頼りになる――、
「金剛力士像くんの名前はなんですか?」
そこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?
「ほらほら、自分でしなさい?」
と、岩田先生に促されると、金剛力士像は白チョークで『金剛力士像』と黒板に名前を書いた。
「お、オイラの名前はそのまま『金剛力士像』でやんす」
「なるほど! ヨロシクね!」
加藤は着席した。
ヤベーよ。ここまで盛り上がらない転校生の自己紹介初めて見たよ。
皆ツッコんでいいかどうか互いにチラチラ見てけん制し合ってるよ。
「はい、先生」
今度はトアリが挙手しつつ、ギリュリと立ち上がった。
「金剛力士像が転校してくるのは流石にナイと思います。何か理由を教えて下さい」
オメーがマトモにツッコむんかいいいいいいいいいいいいいいいい。
他の人ならまだしも一番異常な奴がフツーにツッコんだよ。
ちょ、止めて、なんか俺らが逆に異常に見えるじゃん。
「あら、流石にバレた?」
岩田先生? バレたって何? もしかして隠し通せるとでも?
「白状すると、我が校もグローバル化を目指して特別枠を設けることにしたの」
グローバル通り越して別次元に行ってないですか?
「そこで試験運用として、急きょ金剛力士像を『銅像枠』として迎えることにしたの」
銅像枠って何?
「これが生徒たちに好評だったら、来年から特色化選抜として、県外から色んな枠の人を迎えようってこと。そのお試しみたいなものよ。
「ええ、そういうことなら」
トアリは着席した。
何で今ので納得できるんだよ。
余計混沌としたんだけど。
「千手観音にしようか迷ったけど、最初は無難に金剛力士像に来てもらったのよ」
千手観音? てか金剛力士像も無難でもなんでもねーよ。
「千手観音は手が多いから、生徒として手こずるかと思って」
うまくねーし、俺たちが知りたいのそこじゃないんですが。
「皆、最初は受け入れられないかもしれないけど、新しい環境に順応するのも勉学の一つよ」
これは勉学と言えるのですか?
「悪いけど、社会はこんなものじゃないからね」
そーなの?
……マジかよ……。
マジでこの金剛力士像を受け入れなきゃならねーのかよ。
せっかく俺の立場が安定したと思ったのに、新たな試練が待ち構えてたよ。