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「ミーシャ王女」


 今後の説明が終わったあとは、外はもう夜になっていた。今日はもう解散...ではなく、俺たちをもてなすための晩餐会が開かれた。

 すっかり警戒と緊張が解けたクラスメイトたちは異世界のグルメに舌鼓を打ち、はしゃいでいた。先生もだいぶ周りと同調し、楽しそうに王族らと談笑していた。男子はお姫さんに、女子は王子や同席している兵士団長や身分高いボンボンどもに群がっていた。

 俺はもちろん端のテーブルで独り飯だ。どの料理も良い食材をつかってるようで、美味かった。


 そんな俺のところに、ミーシャ王女がやって来た。可憐な笑みを浮かべて俺の隣に立って話しかけてきた。


 「お料理はお口に合いましたでしょうか、カイダさん…でしたよね?」

 「ええまぁ…」


 適当に返事をして特にトークをする気がないまま黙っているとお姫さんが再び話しかけてきた。


 「カイダさんは…随分したたかなお人なのですね。さっきの謁見の時にあなただけがお父様にあそこまで意見なさりましたから。

 いきなり見知らぬ地に召喚されて王族の方がたくさんいる中で自分の利について堂々と主張するのは、中々出来ないことですので…凄いと思いました」

 「まぁ…そういうところをなあなあにしてしまうと、タダ働き同然の扱いをさせられそうだと思ったんで。相手が誰だろうと自分の利を保障させるのは必須だ」


 そう言うとお姫さんは謁見の時に俺にだけ見せたあの年相応の緩んだ笑みを浮かべる。しかしその笑みは次第に曇っていく。やがて真剣な顔つきに変わる。


 「今回、あなたたちをこの世界に召喚させようという考えを、計画を提案したのは…………

 「……あんたが?」

 「五年程前に…世界の敵であるモンストールの対策に行き詰った時、私は一人書庫に保管されてあった過去の戦争記録を読み漁って、異なる世界から私たちと同じ人間を召喚したという事例があったことを見つけて、そのことを調べてました」


 五年も前からこの世界はモンストールに脅かされていたらしい。


 「かつて人族は百年以上前にも、今と同じく世界を脅かす敵と戦っていたという歴史がありました。その時に私たちが行った同じ召喚を、当時の人族も行っていたそうです。敵を滅ぼす最後の手段として。

 異世界から召喚された人族たちはこの世界の人族を凌駕する力を手にして、それで世界の敵を滅ぼしたと…歴史にはそう記されていました」


 異世界ラノベあるある展開だな。異世界召喚の恩恵でチートな力を手にした俺らと同じ現代人間たちが異世界を救った、と。この世界で百年くらい前にそんなことがあったらしい。


 「モンストールに対抗するには…滅ぼすには、百年前と同じ異世界から召喚した人族の力しかないと考えた私は、お父様たちにそのことを提案しました。結果私の案は受け入れられて、数年の準備を経て…今日カイダさんたちをこの世界に召喚しました」


 俺は今、このお姫さんから物凄い裏話を聞いてしまった。本当に俺たち召喚組がこの世界の人類の切り札ということになる。


 「なんか…凄く重い事実を知った気分だ。というか、今の話俺にだけ話して良いのか?凄く重大なことなんじゃねーのか」

 「……カイダさんには、話しておこうと、何となく思ったんです。こういうことを話してもあまり混乱しない人だと、そう思えたんです…曖昧な理由ですが」


 俺の疑問にお姫さんはよく分からない答えを返した。直感か何かで俺になら話して大丈夫だと判断したというのか。


 「私の勝手な提案でカイダさんたちをこんな危険な世界に呼び出したことは申し訳なく思っています。しかしあなたたちこそが今の私たちにとって最後の希望なんです。

 どうか……私たちに力を貸して頂けないでしょうか」


 本当に申し訳ないといった様子でお姫さんは俺に懇願してきた。


 「……あんたらの都合で俺たちを勝手に召喚したことには思うところがあるが、グチグチ言っても何も生まれない。まぁ多少は気張ってこの世界の敵…モンストールとやらを駆除してやるよ。ちゃんと報酬も出るそうだし」


 やれやれと言った様子で俺はお姫さんの頼みを受け入れる。それを聞いたお姫さんは顔を明るくさせてホッとした顔をして礼を言った。


 「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします…!」


 こうして晩餐会は過ぎていった。






 「あ…甲斐田君と、王女様…?

 何…話してるんだろ?」


 少し離れたところから皇雅がミーシャと話しているところを高園は気になる様子で見つめていたが、当然皇雅がそれに気づくことはなかった。


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