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「ドラグニア王国」その2

 「この世界のこと、人族の危機、化け物...モンストール?のことは大体理解しました。でも、俺たちはただの学生なんですよ?なんの力も無い俺たちが戦ったってすぐに殺されるだけなんじゃあ...」

 「彼の言う通りです。何より、大切な生徒たちをそんな危険極まりないところへ送るのは納得いきません!」


 里中の質問というより疑問発言に続きオッサンに抗議したのは藤原先生だ。身勝手な召喚に加え、俺たちに化け物と戦わせるという話に憤りの感情をうかべている。


 「確かに、私たちがそんな恐ろしいのと戦うなんて...想像できない」

 と高園が呟くように言う。まぁそうだよな。普通そう思うよな。が、こういった展開をラノベでいくつも読んできた俺は、この先が読める。


 「ここに召喚された際に、何か特別な力を宿すようになっている、とか?」


 思ったことをつい口に出してしまう。クラスの全員が俺の発言に怪訝な物を見るかのような視線を寄越す。


 「ほう、察しがいい。その通り。さっき魔法陣の傍にいた召喚班のことだが、彼らの特別な召喚術で呼び出された者には、特別な能力・職業を授かることになっている。おぬしらも例外なく強い能力を持っているに違いない」


 オッサンが俺の予想に首肯し、俺たちは特別召喚の恩恵で色々特別な力があると答えてくれる。お約束展開だね。


 「私たちに力があると分かっても、生徒たちを戦わせるなんて...」


 先生はまだ、俺たちが戦地へ赴くのが許容できないようだ。新任してまだ3ヵ月くらいだというのに俺たちのことに一生懸命だな。


 「おぬしは彼らの引率者であるようだな。生徒たちを危険な目に遭わせたくない、その心情お察しする。だが、おぬし含む彼らの力なしには、我々人族は滅亡の一途をたどることになる。勝手なのは承知している。だがどうか…我らに力を貸してはくれないか?」


 そう言うと、オッサンは椅子に座ったまま頭を下げる。それに倣ってお姫さんも下げる。マルスとかいう王子も渋々下げる。あの王子も俺にとっては敵対関係になり得るかもしれない。


 「先生、心配しないで下さいよ!俺達には大きな力があるんですよ!最初は混乱したけど、何も今すぐ化け物たちと戦うわけじゃないんだし。この王国で訓練したらすぐ強くなれるって!」


 乗り気な大西が先生に言う。大方、自分が人族を化け物…モンストールから救う姿を見せつけてこの世界の人たちからちやほやされることが目的だろう。ありきたりな下心にじませてくれてドーモ。


 「初めから一般兵士よりも強い能力があるんでしょ!?ならすぐ化け物にも勝てるじゃん!」

 「やってやろうじゃん!こんだけいれば大丈夫っしょ」

 「この世界の偉い人たちに恩を売れば美味しい想いもできるんじゃない?」

 「じゃー私もやろうかなー」


 などと、次々にクラスメイトたちがオッサンの頼みを受け入れる流れになり。先生は困った様子だ。この流れは別に悪いことじゃない。

 が、まだ解決していない問題が残っている。こういう物語だと答えは予想できるが、聞かずにはいられまい。生徒のざわめきが小さくなる頃を見計らい、再び口を開く。


 「化け物たちと戦うこと以前に、あんたら俺たちを元の世界に帰してくれるのか?勝手にここへ召喚されて、戦えだの救ってくれだの要求されてんだ。こちらにも相応の見返り、報酬が無いとは言わせねぇぞ?で、世界が平和になれば、俺たちは帰れるのか?答え次第では、あんたらの頼みを聞く訳にはいかねぇ」


 これは、自分達の立場の確認と後の報酬に対する権利の主張だ。

 今まで読んだラノベでは無条件で召喚した奴らの頼みを聞くパターンが主流だった。

 俺はいつもこの展開に物申したい気持ちになる。なんでこいつらの理不尽身勝手に付き合わされりゃあならんのか。周りが何なんだよといった視線を寄越すが、無視。


 「元の世界に帰すことは可能です。しかし、今すぐは不可能です。実は今回の召喚術が完成されたのがつい最近のこと。呼び出した者を元の世界へ送る術はまだ完成されていないのが現状なのです。それも、完成するのがいつになるのかも...。で、ですが、必ずあなた方を帰すことを約束致します!そして報酬もできる限り望むものだけ用意しますので!」


 俺の意見に答えたのは、あの青髪の小柄なお姫さん…ミーシャって子だ。オッサンと王子は俺にやや不快気な視線を向けた。口の利き方が気に食わないだけだろう。二人とは逆で、彼女は俺を見据えて真摯に答えてくれる。


 「とりあえずはお姫さんからは言質取れたな。王様も約束してくれるのか?」


 ついでオッサンにも振ってみた。若干眉をひそめる仕草を見せるが、「...約束しよう」と言質を取ることに成功した。


 「よし、後で誓約書も書いてもらうことにして、ひとまずあんたらの頼み聞き入れるとするよ。これでいいですよね、先生?」

 「へ...?そ、そうね。命の安全も保障してくれるのなら...」


 言いたいことだけ言って、最後は先生に振って引っ込むことにした。その際大西とかから不愉快そうな視線を浴びせられたが意に介さない。


 クラス全員が戦いに身を投じることに賛同したところで、改めて今後の事について説明を受ける。これから俺たちが暮らすところ、生活の術、そしてモンストールと戦うための力の使い方等を。

 いくら規格外の恩恵があると言っても、元はただの高校生だ。何も学ばずに戦いに出るのは愚かで無謀というものだ。


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