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「俺は死んだ」2

 気が付けば、前後左右モンストールに囲まれていた。

 血を流し過ぎて、頭が回らない。落下のダメージも合わさって、全身ズタボロで逃げるどころか立つことも困難だ。いや、仮に無傷で疲れていない状態でも、ここから逃げることなど俺のステータスでは不可能だっただろう。


 「こいつら、よく見れば、一緒に落ちたあのトゲトゲの奴と同じGランクじゃねーのかよ...?」


 どいつもこいつもサイズがトゲトゲのと同じくらいで、ヤバいオーラだだ洩れだ。......もう、ゲームオーバーか。元の世界では、まだ、やり残してること、山積みだというのに。陸上競技も、趣味も、たくさん、残ってるのに!!


 ふと、怒りや恨みといった感情が湧いてくる。それにより意識がはっきりしていく。今の俺の動力源が、こんな黒い感情だとは。

 諦められない。こんな所で死んでられるか。

 ここから脱出するべく無性に走り回りたい衝動に駆られて、下半身に力を入れると...


 「――ッ!?えっ??」


 動かなかった脚が突然軽くなり、気付けば、全速力でモンストールたちの股下を駆け抜けていた。突然の俺の行動にモンストールたちも反応しきれずにいる。


 「血は減ってるのに、フラフラしない、アドレナリンが分泌されているから...?だとしても、こいつらが気付かないくらいのスピードが出るものか?」


 不審に思った俺は、走りながら、あの落下でも傷一つついていないステータスプレートを取り出し、確認する。



カイダ コウガ 17才 人族 レベル11

職業 片手剣士

体力 5/400

攻撃 390

防御 350

魔力 160

魔防 200

速さ 400

固有技能 全言語翻訳可能 逆境強化



 逆境強化?いつの間にか、固有技能が発現し、効果が分からない技能が発動しているらしい。この単語に触れると、画面が技能の解説に切り替わる。



『逆境強化』:体力が1割未満になると、体力が回復するまで全能力値が数倍上昇する。


 名前通りの技能だ。現在俺の能力値は、上昇前の約10倍に跳ね上がっている。小型の奴らを倒したことでレベルアップしたことと、トゲトゲの奴の攻撃で死にかけていたお陰で、後天性の固有技能が発現したのだろう。この絶体絶命の状況で。

 それにしても、体力が残り5って...マジで風前の灯火の状態じゃねーか。普通なら、立つこともできないくらいの瀕死状態のはずだが、この技能によって痛覚とか、倦怠感とかが全て遮断されているかのように、体が軽い。力も溢れ返るくらいだ。まさに、火事場の馬鹿力というやつだ。


 だがそれでも、今相手している敵は、そんな俺をはるかに上回るヤバさを感じられる。倒せる気がしない。しかも4体もいる。ここは戦うよりも逃げることが賢明だ。普通の思考なら、逃げることに徹する道を選んだだろう。

 しかし、この時の俺は、怒りと焦りのあまり、俺の前に立ち塞がるものは全て目障りな敵としか認識できず、戦力の差など度外視で、目の前にいるモンストールに剣を突き刺しにいく。


 結果は分かり切っていた。ゴリラの何十倍も太い腕と厚い胸板をもつムキムキなモンストールにブン殴られる。剣は折れ、俺は瓦礫の山に吹き飛ばされる。全身の骨にひびが入る。折れてないだけ、頑丈になったといえる。だが、災害レベルの化け物の一撃は、10倍の能力値を持つ俺をまたも瀕死にさせる。


 「あーあ。今度こそ終わりかぁ...。力もう入らない、逃げれば良かったのになぁ」


 今の一撃で死ななかったのが不思議なくらいだ。けど、本能が、俺はもう死ぬ、と告げている。あと数分すれば、この小さな命の灯火も消えて無くなるだろう。

 俺に止めを刺そうと、ゴリラ型モンストールが拳を振り上げ狙いを定める。

 その時、ゴリラに横槍を入れるものが。


 (あいつは、さっきのトゲトゲ...の)


 そこには、俺と一緒に落ちてきたトゲトゲのモンストールが。よく見ると、ハリネズミに似た姿をしている。

 さらに、残りのモンストールたちも俺の近くに集まり、お互い睨み合う形に。


 (俺を殺すのは自分だ、とでも言いたそうだな。こっちはもう死ぬっていうのに...ふざけてやがる!)


 やがて、5体もの災害レベルのモンストールがその場で争い始める。その余波で俺は瓦礫ごとまた吹き飛ばされる。そして、暗くて気付かなかったが、あいつらの中の誰かが放った光線の光で周りが明るくなったことで、ここが崖っぷちの場所で、俺は今まさに落下するところだ、しかもこの下には今までに無いくらい濃くて禍々しい瘴気が充満していて、ヤバい気しかしない。


 (あれを吸いこんだら、もう死ぬのかな...。結局、元の世界に帰れずに、人生終了するのか...)


 悔しい。憎い。怖い。死にたくない。様々な感情と思いが去来する中、俺の頭の中に出てくるのは、家族や部活仲間、高園、藤原先生、異世界で出会った王女、そして俺を嗤いながら見捨てた奴ら…。


 (何故俺じゃなきゃならなかったんだ?召喚の恩恵だってそうだ。俺だけが不遇で、あんなクズどもから痛めつけられて、王族どもから見下されて…。

 俺はこんな程度の人間になるはずじゃなかったはずだぞ…!それなのにっ!!)


 次第に意識が闇に落ちていく。もう二度と光が差さない永遠の闇へ吸い込まれていく。


 (認められるかこんな終わり方…!やり直させろよ、俺はここで終わる男じゃねぇ。俺にはまだ未来があるはずだ。異世界にしろ、元の世界にしろ!)


 足掻こうと体を動かそうとする。しかしもう力が入らない。何も出来ない…。

 何も出来ないまま闇と瘴気の中へ落ち、やがて地面に激突し、体の色んなところが砕ける音がした。


 「ち、く…しょう」

 (くそったれな最期……だ………)






 こうして俺は、異世界の闇の底で命を落とし、18才に差し掛かる前にその生涯を終えた―――


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