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「鬼娘との親睦」

 アレンの言葉に俺は黙ってしまう。

 復讐…。確かにあいつらのことは憎いと思っている。俺を嘲笑って虐げて理不尽にハブって、最後は見捨てやがったからな。奴らがここにいたら殺しても良いかもと思えるくらいは憎んでいる…と思う。

 けどまあ、そうだな……


 「確かに憎いって思ってるけど、わざわざこっちから出向いて捜し出してまであいつらを殺すのは…手間かかって面倒だって思ってるから、こちらからわざわざ殺しに行く気にはなれないな。あのクズどもの顔はもう見たくもないし、どうでもいいし。

 結論として、復讐は考えてはないな」

 「そう…」


 もし今後、あいつらが俺の害になり得るのなら、その時は殺すと思う。遠慮は無い。あいつらに情の一つも湧くことはない。


 「...私は、モンストールが憎い。散り散りになった仲間を襲った他の魔族も許せない。みんな、倒して、鬼族のみんなを集めて、また平和に暮らしたい...!」


 アレンは復讐だけではなく、その後のことも見据えている。復讐と種族の再繁栄が彼女の今の野望か。


 「俺はこれから洞窟を抜け、サント王国に入る。そこで冒険者登録したり、俺が探っている情報を得たりと、することがあるからな。

 アレン、しばらくの間、手を組まないか?その状態でのままでこれから上位以上のレベルのモンストールどもと戦うのはきついだろうし、また金目当てで狙ってくる馬鹿どもとやり合うのもめんどいだろ?俺といれば、安全に体を休めることができるし、復讐は…分からないが鬼族復興の援助くらいならすこし手伝ってやれるかもよ?どうする?」


 元の世界に帰る方法を探すという旅の途中だが、その旅はすぐに終わらないどころか何年もかかるかもしれない。手がかりを探す一方でアレンの手助けをしてやるのもありかもな。どこかで彼女が俺の旅に役立つ時が来るかもしれないし、組んで損は無いだろう。

 アレンは俺の提案にしばらく逡巡したが、やがて俺をしっかり見据え、


 「うん、コウガと一緒に行く。一緒に連れてって?」


 と手を差し出した。俺はよろしくの意を込めてその手を握った。




 アレンの食事が終えた後、サント王国方向へ洞窟を進む。


 「鬼族は獣種の魔物とか、人も...食えたりとかするのか?」


 そういえば何気に獣の魔物を生で食っていたことをスルーしてたが、鬼族ってそういう食習慣があるのだろうか。


 「蟲以外なら、肉は基本何でも食べられる。でも人族はあまり食べない。さっきの殺した冒険者もひとかけらも食べてない。鬼族には、人族は食べないって決まりがあったから」


さっき言ってた魔族と人族の相互不可侵というやつか。人族との争いを避けるためだろうな。ただでさえ今はモンストールとも争っている時代。下手に敵をつくらないように不干渉でいようという姿勢か。


 道中飛び出してくる獣種、蟲種の魔物を軽くいなし、出口へ向かう。その間、雑談も少々はさみながら。会話しているうちに、お互いすっかり打ち解けられ、アレンの表情も和らいでいるように見えた。


 「世界が平和になって仲間が集まったら、村…ううん、里を復興させるんだけど、コウガも、よかったら一緒に暮らさない?鬼族じゃないけど、コウガならみんな歓迎してくれると、思う」

 「そうかぁ?俺なんか動く死体の元人間の得体の知れない何かだぞ?まぁ一応、血は通っているし、心臓も動いている。この体の構造は俺でも全く分かってねーんだよなぁ...。理性もあるし、あの瘴気に死体をこうやって動かす成分か何かあったのかもな」


 するとアレンが俺の服の中に手を入れて胸あたりに触れてきた。


 「アレン...?ナニヲナサッテルンデ?」


 思わず片言になる俺をよそにアレンはしばらく胸に手を当て、やがてゆっくり手を引いた。少し頬を赤らめてこっちを見ながら、


 「コウガの体、死んだように冷たい。けど、心臓はちゃんと動いてる。血も冷たいのかな?変わった体...ふふ、面白い」

 と笑いかけてくる。


 いつぶりだろうか。クラスメイトどもの悪意のある笑みではなく、こんな屈託のない、無邪気な笑顔を向けられたのは。元の世界でも、この世界でも向けられなかった笑顔を。

 冷たくなっている体にほんの少し温もりが感じられた気がした。知らずのうちに俺の口元にも笑みが浮かんでいた。ずっと孤独だった俺にいつぶりかの親しくなれそうな仲間ができた気がした。



             *


 ひたすら進み、ようやく光が見えてきた。出口が近い。

 と、一歩進めたその時、地響きがして足元が揺れた。何だと思うより先に後ろに跳ぶ。すると地中から、何かが飛び出してくる。土属性の魔物かと思ったが、すぐに違うと気付いた。

 なぜなら…地底で嫌という程あてられたあの瘴気が発生したからだ。


 「想定外の事態に備えてはいたが、ここで出てくるか...」


 やがて土煙が晴れ、飛び出した奴があらわになる。そいつはあの暗闇の地底で何度も戦ってきた奴と同じだ。隣にいるアレンがかすかに動揺しながら呟く。


 「どうしてここに、モンストールが...!?」


 体長5mはあるモンストールが俺たちを睨み、大きく吼えた。


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