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「見せしめと自己紹介」

 アレンが着る服を色々見て回り、数十分で着替えが終わった後(最終的に灰色のタンクトップ系に落ち着いた。下は七分丈のズボンっぽいの。似合っている)、屋台で買った焼き鳥っぽい串焼きを食べながら冒険者ギルドへ向かう。

 年季の入った赤いレンガ造りで、屋根部分には「冒険者ギルド」と、でかでかと書かれた看板が付いた建物があり、そこが冒険者ギルドだとすぐに分かった。

 早速中へ入ると(その際、「擬態」で目や肌の色を普通の人間と同じ状態にしておいた)、外装とは裏腹に中は掃除が行き届いた清潔感ある空間だった。入口正面に総合受付があり、右奥には酒場を兼ねた飲食店が、左奥には装備屋が経営している。某狩りゲームのギルドみたいな風景だ。


 中へ入ってきた俺たちに、酒場にいる冒険者どもが一瞥をくれるが、すぐに視界から外す。中にはアレンの恰好を訝し気に見る奴もいた。確かにあまり冒険者っぽい装備ではないよな。ま、登録しに来ただけという様子で行けば気にされないだろう。このあとクエスト受注するけど。

 受付にて登録手続きを進める。ステータスプレートを取り出し、冒険者としての情報が保存される。その際、ステータスも見られる形になるのだが、プレートが少々おかしな表示をするとかで適当にごまかした。受付嬢に怪訝な視線を向けられるがスルーする。

 ここでは冒険者としてのコードネームを登録することができるらしいので、俺のコードネームは、“オウガ”にした。ファーストネームの「皇」を「おう」とも読めることから。ここでもゲームみたいな設定があることに胸が高まった異世界で冒険とくればコードネームは外せないよな。

 アレンはプレートがないため、ギルドが用意した登録証が刻まれた腕章をもらった。ランクもここで更新できるらしい。コードネームは“赤鬼”にしていた。

 俺たちのランクは最低ランクのFからだ。モンストールと同じ階級付けだ。というか、あの階級順は、元々こっちがオリジナルらしく、モンストールの階級はこっちを真似たようだ。


 さて、このままクエスト受注といこう。俺の戦闘をアレンに披露することを約束しているから割と熟練者向けのやつを受けたいな。

 登録初日からそういうのを受けられるのかと受付嬢に聞いてみたところ、命の保証はギルドでは請け負わないらしく、全て自己責任で片づけられる。故に、最低ランクでも受けるクエストに制限は無いとのこと。さらには、冒険者同士でのいざこざもギルド側に責任は一切無い。たとえ生死に関わる規模であっても、だ。それを聞いて安心し、迷わず今受けられる最高ランクのクエスト(現在はGランクの高難易度が最高難易度)を受注した。


 クエスト内容は、≪エーレ≫の討伐。エーレは、挿絵をみるに、日本のお化け図鑑とかで載ってる鵺みたいな巨獣だ。最近町や村が奴によって荒らされるということで、至急どうにかしてほしいとのこと。

 なおこのクエストは王国の兵団から討伐隊が編成されて同行する場合があるらしい。金も今欲しいから、手柄取られたくねーなぁ。けどこれ以外のはしょぼそうだし、さくっと受注するか。

 受付嬢が再三にわたって受注の確認をしてきたが、軽いノリで三回頷いてクエスト受注証を受け取る。


 手続きを済ませたのでアレンと並んでギルドを出ようとした時、後ろからずかずかと足音を立てながら俺たちに話しかけてくる冒険者が出てきた。


 「おいテメェ、新米冒険者がなにエーレ討伐を受注してんだぁ!?彼女の前にかっこつけるにしても限度ってもんがあるだろうがぁ!」


 振り向くと酒気を帯びたおっさん顔の男が絡んできた。これはあれだ。ラノベでよくあるテンプレ展開だわ。新人に絡みビビらせて恥をかかせにくるやつだよ。

 この手の奴らの性質は2種類ある。前者は、後で謝ってきてこれから頑張れよ的な激励をかけにくるタイプ。後者は、単に弱い者いじめ、悪意しかないクズだ。周囲に恥かかせるだけじゃなく、将来自分より昇級し、手柄を取られることを防ぐためでもある。さて、こいつはどちらのタイプかね。


 「しかもなんだその装備は!この業界嘗めてんのか!?新入りのガキがそんなみすぼらしい格好で一体何を討伐するってぇ!?おとなしくFランクの雑魚魔物とちまちま遊んでろ!」

 「ダイの言う通りだぜ!エーレの餌願望にでもなりたいってなら別だがなぁ。それより、そっちのねーちゃん、俺らと組まねぇか?そんな色白ひょろガキよりいい思いさせるぜぇ~?」

 「ふへへ、タンクトップ1枚とか中々そそる格好じゃーん。俺らんとこ来て飲まねーか?酔いつぶれたら優しく介抱してやるからよぉ―!」


 俺への絡みからアレンへのナンパに変わり、3人のできあがった酔いどれどもがアレンにちょっかいをかける。アレンは嫌そうだ。酒臭いのだろう、こっちにも臭うし。

 因みに、こいつら3人ともアレンの角に気付いていない。それ以前に、入国前にいた門番も彼女の角に気付いていなかった。その理由は、俺の固有技能「認識阻害」のせいだ。「迷彩」技能は他人にも効果を譲渡できるのらしく、それにより常にアレンの周囲の人族には角が見えないようにしている。これは本人にも説明済だ。


 とにかく、鬱陶しい。無駄だと分かっているが、一応通過儀礼として言葉だけであしらってみるか。


 「邪魔だ。これからクエストに行く。酔っ払いどもは隅で吐いてろ」


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