「王国からの特別報酬を断ったそうじゃねーか?そりゃそうだろうな。どうせお前が上位レベルのモンストールの群れを一掃したわけじゃねーんだからなぁ」
俺よりも一回り大きく、大剣を背に担いでいるギザギザ髪の男が俺を睨みながら近づいてくる。周りの連中は奴を止めようともしない。レイさん含む受付嬢二人は少し焦った様子でいる。
「お前みたいなガキどもがSランク昇格なんて認められるか!お前らがこなした指名クエストだって、そこの兵士がほとんど活躍したに違いない!第一、本当にモンストールの群れをお前ら三人で殲滅させたのかよ!?」
ギザ髪の男の言葉に周りの連中もそうだ怪しい、と乗っかって俺たちを非難し始める。
「群れを殲滅させたのは本当です!あの村には生き残っていた人は残念ながら一人もいませんでした。私たちはモンストールの死骸も全てしっかり処分してきました。後日あなたたちか兵士団でその様子を見に行けば分かると思います」
クィンが前に出てギザ髪男に怯むことなく意見する。
「あんたならまだ分かる。かなりの手練れ兵士と見た。あんたがAランクのモンストールを討伐して、残りの雑魚どもをそこの二人が討伐したんだろ?」
「いえ…私の実力では、Aランクのモンストールを倒すことは出来ませんでした。オウガさんがいなければ私は今ここへ帰ってこられたかどうか。それに赤鬼さんも一人でAランクのモンストールを討伐してましたよ。私のこの目でしっかり見ました!」
クィンはありのままの事実を冒険者たちに告げる。しかし彼女の言葉を完全に信じる者はほとんどいなかった。
「おいあんた、謙虚過ぎるのもあまり褒められるものじゃねーぜ?そこの赤髪の小娘が本当にAランクのモンストールを討伐したとしてもだ!この男が同じように、しかも一人で討伐出来たとは思えねー!」
俺を指差し真っ向から俺の実力を疑いにかかる。
「おいガキ、戦いを仲間にやらせて手柄は自分も頂く…どうせそんなせこい手段で成り上がろうとしてるんだろ?上位レベルへの昇格ならまだ目をつぶってやってたが、Sランク昇格になるとさすがに見過ごせねーな。正直に言え、お前の実力はSランクに相応しくないと」
俺がSランクに相応しくないと主張したいというわけね。二人に敵を倒させて自分は何もしないで甘い汁をすするだけ…こいつは俺がそういう寄生プレイをしてるんだろと指摘してるってことなんだろ、下らない。
「いきなり出てきたかと思えば勝手なことばかり言いやがって。何で俺だけがそんなこと言われなきゃいけねーんだよ?俺にだけ不正摘発するのは何の根拠があってのことなんだ?」
冷めた目で冷めた声で適当に言い返す。その態度に腹を立てた様子のギザ髪男は口調を荒くする。
「お前だけ冒険者として…戦士としての覇気が全く感じられない!実力がある者からは普通強いオーラが出てくるはずだ!そこの兵士と赤髪からはそれなりのオーラが感じられる!
だがお前からは
その発言に周りの連中が声を上げて同意する。アレンとクィンは反論出来ずに黙ってしまう。ということはこの男が言っていることは正しいということか。
何も感じられない……俺は死んでいるからな。普通の人間がいつも発しているであろう生気すら無い状態だ。ゾンビだからな。
どうやら見た目だけで俺を蔑ろにして不正を疑っていたわけではないようだな。誰にでもあるはずの生気や戦士としての覇気やオーラってやつが一切感じられないからおかしいと判断したようだ。一応ちゃんと見てから俺を非難しているんだな。
「言いたいことは大体分かった。それで?どうすればテメーは俺から退いてくれるんだ?一方的に非難浴びせられてこっちもイラついてんだけど?」
「この場で自分がSランクに相応しくない者だと認めろ!そして昇格の取り消しもするんだ!
あるいは……」
ギロリと俺を再び睨む。
「本当にSランクの実力があると言うのなら、俺にその力を示してみろ!出来るのならな!」
大剣をこっちに突き付けてそんな要求をしてきた。
「どうせ大した力しかねーんだ!今すぐSランク昇格を取り消せ!」
「そいつは…ドイルはAランク昇格候補の冒険者だ!女の前で格好つけようたって無駄だぞ!」
「怪我する前に自分の不正を認めろ!!」
またも周りから耳障りな野次が飛んでくる。受付嬢たちが火消ししようとしてるが効果無し。
「……………マジで、鬱陶しい」
イライラが溜まりに溜まる。サント王国のギルドに初めて行った時のことを思い出して、冒険者どもに対する嫌悪がさらに増した。
というか、人間に対する嫌悪が増した。こっちは理不尽な目に遭って死を体験してきたというのに、死んでなおも、こうやって俺は叩かれなきゃならないというのか。
日本にいた時も、この世界にきてすぐの頃も、そして今も…責められてばっかり…。
もういい。とりあえず目の前にいるこいつ邪魔だから、潰そう。
ついでに周りの連中も鬱陶しいから黙らせよう。
この前の時と同じことをすれば良いだけだ。俺はチート人間なのだからな…。
「力を分からせてやれば良いんだな?」
「ああ?」
スタスタと奴との間合いを詰めて大剣を握る。グッと力を籠めて、大剣を粉々に砕いた。
「な………っ!?」
自分の自慢の武器が素手で破壊されたことに驚愕しているドイルとかいう奴にさらに近づく。左腕を「硬化」させて刀化させる。
俺がしようとしていることを察したクィンが、血相を変えた様子で叫んだ。
「っ!?ダメですコウガさん!それ以上は―――」
無理だ、ここまで虚仮にされて何もやり返さない程、俺は甘い人間じゃない。クィンの声を無視して俺は――
「っぎゃああああああ”あ”あ”あ”あ”!?!?」
ドイルとやらの右腕を切断した。
床に血がボタボタとこぼれて赤く染まっていく。その光景を周りの連中が把握するのに数秒を要した。
その間に、ドイルの首を掴んで引き上げる。これで終わらせてはやらない。見せしめは必要だ。
「あ”...あ”あ”っ」
「力を示せと言ったのはそっちだ。文句は言わせねぇ」
激痛に苦しんでいるドイルに冷たく話しかける。ドイルの目は怯えていた。
「こ、こんな...まさかそんな...っ」
「テメー、ムカつくから殺しても良いんだけど...そうすると面倒事になりそうだから、腕一本で許してやるよ。
覚えとけ、冒険者オウガの実力は本物だってな」
そう伝えてから、ドイルを床に思い切りめり込ませた。完全に意識を失っているドイルの右腕の切断面に炎熱魔法を放って傷口を塞いで止血してやった。
「さて...テメーらもさっき俺のこと好き勝手に罵りやがったよな。今日の俺はテメーらのせいでイライラしてるから、全員潰すわ」