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「お咎め」2

 少し離れたところにいる冒険者どもを睨んでゆっくり歩く。


 「ひ...ひぃ」

 「化け物だ…」

 「あのドイルを、一瞬で...!」

 「逃げろ、殺される!!」


 俺に睨まれた冒険者どもは真っ先にギルドから逃げ出そうとする。それを許さない俺は、出入り口のドアに大地魔法を放って岩石を生成する。逃げ場を完全に断ってやった。


 「そ、そんな!?物理攻撃に特化した戦士じゃねーのかよ!?こんな精度の高い魔法まで…!」

 「た、助けて!さっき罵ったことは謝るから、殺さないで!!」

 「疑って悪かった!!許してくれぇ!!」


 ドアの前で立ち尽くして、全員が俺に謝罪と命乞いをするが、俺の気は一向に晴れない。こういうのはやっぱり一人くらいは潰しておかねーとな。

 誰から潰そうかなと拳を振り上げたその時、


 「止めて下さい!!」


 クィンが俺の前に割って入って腕を広げて叫んだ。


 「やり過ぎです!腹が立った気持ちは分かりますが、いくら何でもあそこまをする必要はないはずです!そこまでにしておいて下さい、お願いします!」


 やっぱり止めにきたか。正義感強いだけあってこういうのは見過ごせないかやっぱ。


 「コウガさん…!どうかここは怒りを治めてもらえませんか?」


 必死の形相で俺を止めようとするクィン。ここでさらにモメると彼女のバックにいるサント王国が出てきそうだ。ひと暴れしたしもういいや。正直シラけたし。


 「はぁ…上の階にあるレストランで飯にしようかと思ったけど、他のとこにしよう。行こう」


 岩石を削除してどうでもよくなったって態度でギルドから出ていく。アレンも後に続いて出て行く。


 「………申し訳ございません、部屋を荒らしてしまって」

 「いえ…!彼の力をこの目で見れたことで、あなた方がクエストを成功したということを改めて信じられることが出来ましたから…」


 クィンが受付嬢たちに何か謝罪っぽいことを言っているが、それを待つことなく移動した。

 この一件で冒険者オウガと赤鬼の名がまた世間に広まることとなった。悪い意味での広まりが強かったそうだが別にどうでもよかった。




                 *


 いちばん評判が良いと聞いた店に入る。元の世界で食べた料理をここで食えることを楽しみにしていたので、機嫌を直す。

 料理がテーブルに置かれたと同時に、乾杯も忘れて、がっついてしまう。アレンも美味しそうに食べていた。


 「コウガ、ご飯食べてる今がとても生き生きしてる気がする。さっきまではつまらなさそうにしてたけど、今は楽しそう」

 「そうかな。ま、俺が知っている料理が食えてるからかもな。久しぶりって気持ちが強くて」


 食事をしなくても大丈夫な体だが、すっかり食事が習慣化してしまった。この世界ではゲームも書籍もアニメも、何の娯楽も無いから、食事がある意味娯楽だ。何よりこの料理に懐かしさを感じられる。

 鬼族はやっぱり人族よりもたくさん食べるようで、アレンはあっという間に俺よりも多くの料理を食べ尽くした。。


 「人族の食文化はスゴイ。私たちが知らない料理がいっぱい。村を再興したら、人族の料理を取り入れる!」


 とてもお気に召した様子で新たな目標を追加していくアレンに、俺は小さく笑う。


 「………」


 対してクィンはあまり箸が進まない様子だ。

 さっきのことを引きずっているようだな。俺は彼女に話すことなく食事を続ける。


 「……コウガさん」


 やがてクィンが俺に呼びかける。


 「今後は……は止めて下さい。不愉快に思う気持ちは分かりますが、あなたが振るう力は強大過ぎます。下手をすれば死者が出ることになっていたかもしれないのですよ?」

 「そうは言っても、俺はああいう何でもすぐ悪い方へ決めつける奴らが無理なんだよね、潰したいって思うくらいに。それに冒険者間のいざこざは自己責任だって聞いてるぞ?だから荒っぽくやった」

 「そういうことを言ってるのではなく...!

あの時のコウガさんは……何の躊躇も無しに冒険者の腕をあんな...。虫を殺すかのように平然と傷つけて...」


 言いたいことは分かる。すぐに暴力に訴えたこと、平気であんな大怪我を負わせたこと。クィンは俺の普通じゃない行動を咎めているのだ。


 「とにかく、今後はあまり力を使うのは止めて下さい。あんなやり方で解決など認められません」


 クィンの説教は続く。食事の手を止めて、はっきりさせておきたいことを言う。


 「先に言っておくけど、俺は今後もああいうやり方は続ける。相手が俺に悪意を向ける限りは力でぶっ潰す。俺は誰だろうと敵対してくる奴らは潰すことにしてるから」

 「そんな...」


 クィンは俺が分かってくれないことに落胆している。残念だがクィンでは俺のストッパーにはなれない。俺と彼女には力の差があり過ぎる。

 俺はこれからも俺を侮蔑してくる奴ら、敵対してくる奴ら、悪意を振りまいてくる奴らには容赦しない。場合によっては殺すことにも躊躇わない。


 「アレンさん、あなたもコウガさんにああいう過激な行為を止めるように言ってくれませんか?」

 「ん?うーん……」


 アレンにも説得するが当の本人の反応はイマイチだ。アレンにとっては人族同士のいざこざにはあまり興味が無い。

 というか俺が非難されまくってた時アレンも奴らに敵意を出してたな。彼女も俺のストッパーにはならないし止める気もないだろう。

 クィンには悪いが、俺はこれからも過激なやり方で解決していくことにする。



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