目の前にいる勝負相手の竜人、俺を馬鹿にしていた野次ども、何もかも凍りつかせてやった。まるで時が止まったかのような空間と化したこの場で無事でいるのは、魔法を放った本人である俺と、あえて魔法を当てないようにした情報屋コゴルの二人だけだった。
コゴルはブルブル震えている。その理由は寒さからか恐怖からか、その両方からか。顔面を蒼白にさせて、氷像と化した竜人と野次どもと氷雪地帯と化した景色を凝視している。
奴にとってはあまりにも非常識な光景だったようで、完全に我を失っている様子だ。
ちなみに氷漬けにされている奴らには、意識がある状態でいる。今は自分たちが凍らされて指一本も動かせないのを自覚させられる恐怖を味わっている最中だろう。指どころか目の筋肉さえも動かせないから、恐怖に染まった顔は見られないが、奴らへの心身ダメージは尋常ではないはずだ。
「これで俺のSランクとしての実力を分かってくれたのか、情報屋さん?」
「そんな………あのドリュウさんが……っ!
しかも、他の人たちや地形まで氷に…!こんな水魔法見たこと、ない……っ」
俺が話しかけてもまだ呆然と独り言を呟いているので、胸ぐら掴んで軽く締め上げてみる。
激しく咳き込んだところでようやく我に返ったコゴルは俺を認識して、どうにか口を開く。
「じ、十分見せてもらった!本物だ!これ以上疑うなど馬鹿なことをするものか!僕は今、自分の無知に恥じているところだ。試すことをしてすまなかった!」
「ああまあ……誰もが俺を初めて見たらああいう反応するんだなって、もう分かったから。テメーが俺を疑うのも仕方ねーなって、もう分かったから」
これからも俺を初めて見る奴らは実力を疑って見くびってくるんだろうな。死んでいるせいで何も感じられないから、どいつもこいつも俺を弱者だろうと思うんだろうな。
はぁ、いちいちこうやって力を見せないといけないのか、めんどくせーな。まあいいか、馬鹿にして罵ってくる雑魚どもは全員締めて潰したら良いしな。
まだブルブル震えているコゴルを解放する。そのせいで地面に尻もち着いた彼を見下ろしながら再び情報について訊くことにする。
「竜人族が遭遇したっていう鬼族について、鬼族がどうなったのかについて知っている情報があれば提供しろ。俺が知りたい情報は今回はそれだけだ」
「………さっきもそんなことを訊いてきた、ね。情報ならある。提供しよう。
だがその前に、氷漬けになっている彼らを元に―――ぐぇ!?」
コゴルの胸倉を再び掴む。今度は苛立ち混じりでだ。
「あのさァ。俺はわざわざテメーの言うことに付き合ってやったんだ。あんな茶番劇にな。今度は俺の要求を優先的にのむのが筋ってやつじゃねーのか?
凍ってるあいつらなら殺さないように調整してるからすぐには死なねーよ。そんなことよりさっさと情報を寄越せ、バラバラにするぞ?」
「わ、分かった…!そう荒ぶらないでくれっ」
雑に解放して話をさせる。
「………一週間前のことだ。序列を与えられている戦士の竜人が、竜人族が管轄している森の中で五名の鬼族を発見した。男が二人、女が三人だったそうだ。
少し小競り合いがあったものの、互いに争う気がないとすぐに分かったらしく、鬼族たちは竜人たちに国へ連れていかれたそうだ」
連れていったってことは鬼たちは殺されてはいないそうだな。捕虜か保護かどっちだ?
「………すまない。ここから先のことは竜人族に直接聞いてくれとしか言えない。彼らの国の細かな内情は人族や他の魔族には伏せられていてね。僕が知っている範囲だと、鬼族たちは今も生きている。これくらいしか断言出来ない」
「んだよ使えねー。大陸一の情報屋じゃねーのかよ」
溜息ついてやれやれと頭を振る俺に、コゴルがしかし…と話を続ける。
「僕の用心棒…竜人族の彼なら、さらに詳しいことを知っているはずだ。彼は序列を与えられている戦士だから、国の立場もそれなりにある。
彼に協力してもらえば君の知りたいこと全て分かると思うよ」
「あいつか。けっこうな地位を持ってるようなら確かに使えるかもしれないな。
ところで、“序列”ってなんのことだ?」
コゴルのことを教えてくれた竜人も言っていた“序列”。大体予想できるが確認してみるか。
「“序列”というのは、竜人族の戦士の中で特に戦闘力が高い者に与えられる称号だ。彼らはとても強い。一人一人が単独で災害レベルの敵を討伐する実力者だ。用心棒の彼……ドリュウさんもその一人だ。序列持ちの戦士は十人以上いると聞いている」
一人で災害レベルの敵を倒せるのか。魔物のエーレや地底にいたGランクモンストールを一人でね…。それが本当なら、異世界からやってきた生前の俺や元クラスメイトどもなんかより何倍も強いってことになる。人族の切り札となり得るあいつらよりもずっと強い。興味があるなそいつら。地底にいたモンストールどもより面白い戦いが出来そうだ。戦うことになるかは知らんが。
「じゃあ、続きはあの竜人に訊くとするか。ほら金だ」
「いや……金はいい。君を見くびったことと大した情報を提供出来なかった詫びとして、タダでいいよ」
「あっそ」
コゴルを氷があるところから離れさせて、魔法を解除して氷を一瞬で消した。