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「情報屋を雇う」2

 「「「「「――っは!!?」」」」」


 竜人と周りの野次馬どもが一斉にその場に崩れ落ちて、呼吸のしかたを忘れたみたいに息を乱している。

 まずは、俺を馬鹿にしたクソ野次どもにちょっかいをかけることにする。


 「で?誰がクソガキだって?誰が雑魚だって?もう少し俺の実力見せておくか?

 面白半分で馬鹿にされるとムカつくんだわ。俺は沸点が低いから、ああいうことされるとすぐ手を出すかもだから気を付けるように。

 分かった、かな!?」


 言っている途中で、その辺に転がっている奴の頭を乱暴に掴んで、適当に他の奴に投げ捨てる。


 「「ぎゃあっ!?」」


ゴッチィン!とヤバい音を立てて倒れたが無視。俺は感情の無い瞳で周りをじっくりと見回す。誰一人、俺を馬鹿にしてる顔はしていなかった。人も竜人もすぐさま土下座姿勢になって謝罪の言葉を叫ぶくらいだった。

 とりあえず満足したので、こいつらはスルーする。そして肝心の人物の前に立つ。


 「………」


 先程、俺に対しての噛ませ犬に使わされた竜人は、無言で俺を見返してくる。氷漬けにされたにもかかわらず、大して表情に動きはなかった。元々表情に乏しいタイプなのか。


 「テメーに訊けば詳しいことが分かるって聞いた」

 「………」


 何も言わないので、そのまま続ける。


 「俺の仲間に鬼族の女がいてな。彼女ははぐれてしまった仲間たちを探し回っている。そして仲間たちを集めて、鬼族を復興しようと、今も俺とともに世界を回っている。

 テメーが用心棒している情報屋によれば、鬼族の生き残りのうち5人をテメーらの仲間たちが国へ連れていったと聞いている。鬼族たちが今どうなっているのか確かめたいのだが、そこのところどうなんだ?」


 じっと、竜人の目を捉えて質問する。その間、竜人も俺を凝視していた。何考えているのだか。俺が言い終えてから少しした後、ようやく口を開く。


 「結論から言うと、鬼族は俺たちの国にいる。族長の家族のもとに住ませている。五人ともだ」

 思った通り、鬼族の生き残りがこの大陸にいたようだ。それも竜人族に保護されている。

 「いきなりで悪いんだが、俺と今は別のところにいる俺の仲間たちを、お前の国へ案内してくれない?あいつに彼女の仲間たちと会わせたいんだ」


 アレンにとって重要な要件だ。仲間たちと再会して、彼らとともに鬼族を再興させて昔の生活に戻りたいというのが、復讐と同じ、いや、それ以上に優先しているアレンの目標であり野望でもある。

 俺を肯定してくれて仲間として接してくれているアレンに協力したいと思った俺はこうして行動している。何とかこいつに協力して欲しいものだが。

 竜人の返答は………


 「俺の顔を立ててもらってどうにか入国を許可してもらおう。俺はお前に敗れた。勝者に従うのは鉄則だ。その要求を受け入れよう」


 というわけで、竜人族の国へ行けることになった。


 「俺はドリュウという。序列は下位だが国の中ではかなりの実力者であるつもりだ」


 そう自己紹介をして案内してくれることになった。よし、ドリュウを連れてアレンたちと合流するか。

 未だ恐怖で震えている野次馬どもをスルーして、アレンたちがいる店に行こうとすると、コゴルが俺を呼び止めた。


 「僕からも質問したいことがある。

 君は……人族、か?」


 緊張した様子で俺にそんな質問をする。ドリュウもこっちを見つめていた。


 「一応……そのつもりだ」

 「そうか……」


 分類上、俺はゾンビだ。今それを話すのは…必要ないから、とりあえず人間だと言っておこう。


 あ………そうだ。


 「なあ、テメーに探って欲しいことがあるんだが。

 異なる世界に転移する魔法か何かの方法について調べて欲しいんだ」

 「………何だって?」


 コゴルは予想外のことを聞いたって顔をする。ドリュウも怪しいものを見るような反応をする。


 「ドラグニア王国で行われた異世界召喚。テメーなら知ってるだろ?」

 「最近結成されたという救世団の…。彼らはこの世界とは異なる世界から呼び出されたと聞いてるが…」

 「そうそれだ。俺は今、この世界から別の世界へ転移する方法を調べて旅をしてるんだ。手がかりは全く掴めてねーがな。

 そこでだ。情報収集に優れているテメーにも、“異世界転移”の方法について調べて欲しい。これは依頼だ。金も払う。引き受けてくれねーか?」


 最初は驚いていたコゴルだったが、しばらく何か考えた後、愉快そうに笑った。


 「随分と面白そうな調べものだね。異なる世界へ転移するなど荒唐無稽なことだと思っていたが、ドラグニア王国が異世界召喚に成功したという実例がいる以上、ひょっとすると可能性はあるかもしれないと考えさせられるね」

 「依頼、していいか」

 「引き受けましょう。僕も異世界転移には興味がある。世界中に知り合いがいるから彼らにも協力してもらうとしよう。時間はかかるが構わないかい?」

 「もちろん。時間がかかるのは当たり前だろう。じゃあ定期的に連絡し合うってことで、よろしく頼む」


 こうして俺は情報屋を雇うことに成功した。こいつも使って元の世界へ帰る手がかりを見つけていく。

 良い成果が出ることを祈って、情報屋コゴルと別れてアレンたちの方へ向かった。


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