時は少し遡り、フードコートの中にある、とある料理店。
旬の魚をたっぷりのせた海鮮丼を何杯も平らげているアレンと、アレン程ではないがそれなりに食べているクィンが二人向かい合って食事をしている。
一息ついたところで、二人は会話を始める。
「コウガさんって、あんなに戦闘が強いだけではなく、とても情報収集にも精を出していますよね。何だか慎重に思えるくらいに」
「私もそう思ってるんだけど、コウガが、何事にも計画を事前に練って行動すれば、成功率が上がるって言ってた。コウガは強くて頭も良い!」
アレンは少し興奮気味にコウガを褒めた。
「そうですね。圧倒的な力を持つことに驕らず、しっかり考えて行動するあの姿勢には尊敬する気持ちでいっぱいになります」
「私の伴侶は、コウガみたいな人がいい。そうすれば、昔よりももっといい鬼族の里をつくれる」
「...みたいなってことは、コウガさんとは...そ、そういう関係になろうとは考えていないのですか?」
クィンが照れながらアレンに聞く。
「伴侶にするのは、仲間のうちの誰かと……って、鬼族の中ではそう決められている。けど私は昔から伴侶にしたいって思える男はいなかったし、これから再会出来た仲間の中に男がいなかったら...その時は、コウガと結ばれるのも、良いかも」
途中からアレンが頬を赤らめて呟く。
「アレンさん……(何で、こんなに複雑な気持ちになってるのだろう。私は、別にコウガさんとは……けど、気になる人ではあるような……)」
クィンが何か悶々としているのをよそに、アレンがぽつりと呟く。
「コウガは、仲間にはとても優しい。仲間想いのコウガに酷いことをして見捨てたっていう元クラスメイトっていう人たちって、それほどロクでもない連中なのかな...」
それを聞いたクィンが落ち着きを取り戻して、会話に戻る。
「確かにアレンさんや………私に対するコウガさんは、思いやりがあってピンチの時には助けてくれる、頼りになる人だと思ってます」
クィンには皇雅が自分に対してもアレンと同じくらいに仲間意識を持っているかどうかの自信がなかった。旅の同行が始まってからまだ日が浅いし、そもそも自分は監視の立場で同行しているから、そのせいで距離があまり縮まってないのではと、心の奥ではそう考えてしまっている。
わずかにどもったのはそのせいだ。
「ですが……コウガさんはどこか過激なところがあると思います。昨日のこともありますし…」
「…?あの冒険者の腕を斬って潰したあのこと?」
「うう、言い方…。コウガさんは普通の人と比べて短気なところがあります。あれでは行く先で次々トラブルを起こしかねません。場合によっては兵士団に捕らえられる事案にまでなりかねませんよ」
「そうなの?」
「ええ。だからアレンさんも、コウガさんがあまり暴走しないよう止めてあげて下さい。私の力や言葉ではコウガさんを治めることはあまり出来ないと思いますから」
「うーん……私も正直、昨日の冒険者たちには腹を立ててたから止める気なかった。
というか、コウガに悪口言う人たちはみんな嫌い。コウガ悪いことしてないのに勝手に馬鹿にされたり悪く言われたり…。だからコウガが怒って悪口言ってちょっかいかけてくる人たちに攻撃するのは、私止めたくない」
「気持ちは分かりますが、行き過ぎると大変なことに……」
(やっぱりアレンさんでは止める役は務まらない…。私が出来るだけコウガさんのストッパーにならないと……)
自分が皇雅の監視役である以上、しっかり彼を治める役目を務めようと、クィンは内心で強く決意するのだった。
「クィンは、復讐して欲しくないって言ってたよね。どうしてそこまで私に魔族への復讐を止めさせようとするの?」
今度はアレンが話を振ってくる。昨日クィンがアレンの復讐について反対的だったことが引っかかっているらしい。
「私が旅しているのは復讐の為でもある。両親や仲間たちの命をたくさん奪ってきたあのモンストールを殺すために…。モンストールだけじゃない、散り散りになりながらも生き延びようとした仲間たちを襲ってきた他の魔族たちも赦さない。あいつらのせいで僅だった仲間たちがさらにいなくなってしまった。
だから、私は他の魔族たちにも復讐する…!」
「……。魔族間では領地争いなどを理由に、頻繁に戦をしているとは聞いています。そのせいで魔族が他の魔族を恨み、攻撃するようになってしまっているのでしょうか…。
アレンさんは復讐というやり方で、もう失ってしまった仲間たちの無念を晴らそうとしているのですね。それが人殺しという結果であろうとも……」
悲し気にクィンはそう言葉をこぼす。クィンの反応を見たアレンは複雑な気持ちになっている。
復讐を反対するのは自分のことを想ってのことだと、分かっているのだ。しかし彼女にとって復讐を決行することは譲れないものとなっている。クィンの好意や優しさを突っぱねてでも成し得たいことなのだ。
「コウガさんには、復讐を止めるようにとは言われてないのですか?」
「うん。初めて会った時、コウガにも同じことを話した時……“私の気持ちが分かる”って言ってくれた。復讐したい気持ちがよく分かるって、言ってくれた」
「そう、ですか」
「初めて会った時も、コウガは私を敵として見なかった。それどころか私と手を組もうって言ってくれた」
アレンは洞窟で皇雅と会った時のことを振り返る。