場所は変わって、国の管轄内にある大草原に移動した。そこから南へ進むとセンたちが発見された場所の森林となっている。
この障害物が一つも無いだだっ広い場所で、これから俺と竜人族でいちばん強いとされているエルザレスの力試しが始まろうとしていた。
「じゃあお前ら、頼む」
エルザレスが号令をかけると同時に、四人の竜人戦士、俺とエルザレスだけを四角形状に囲んだ。囲んだと言ってもその広さはサッカー試合コートくらいはある。
俺たちを囲んだ四人の竜人戦士たちは次いで魔法を発動した。赤紫色の鳥かご状のバリアーが展開されて、俺とエルザレスを閉じ込めた。
「“魔力障壁”を応用させた結界魔法だ。これで見物人たちはもちろん、無関係な民たちにも被害や迷惑がかかることはない」
ここは大草原、さっきまでいた人気のある場所からは既にけっこう離れているというのに、こうしてバリアーを張ったのか。
「本気を出したら、この場所からだろうと国町に被害をかけてしまう自信があるみたいだな」
「ああそういうことだ。この結界は攻撃の余波はもちろん、俺の直接攻撃にもある程度は耐えられる構造になっているから遠慮なく暴れられるぞ」
自慢げに語っているエルザレスの格好は、さっきまでの派手服ではなく上半身は裸で下は一般的なジーンズとなっている。彼なりに動きやすい服装ってところだろう。俺が言うのも何だが、あまり戦いに向かない格好だな。
「コウガ、気を付けて。あの竜人は強い、凄く強い。私やここにいるどの竜人よりも」
結界の外からアレンが俺に忠告をしてきた。
「だろうな。さっきステータスを覗いたがアレンたちと桁が違い過ぎる。強さをランク基準で測るならSランクの最上ってところか」
しかもあれだけ年を食ってるというのに、あの強さだ。150才って……。俺くらいの年から戦いに出ていたとしたら、戦闘歴は百数十年という超ベテランだ。戦闘経験の豊富さではこの時点で負けている。
だから今回は相手を下に見るのはよそう。地底で過ごした日々を思い出せ……。あの時の緊張感を引き出せ…!
「じゃあ、始めるとしようか」
「ああ。だがまずは………」
俺はエルザレスにではなく、展開されているバリアーに接近する。
「あんたと、外にいる竜人どもに、俺の力を見せてやるよっ!」
そして脳のリミッターを解除して、「硬化」させた拳をバリアーにぶつけて……粉々に割ってやった!
パリィン…………!!
「は……?」
「え……!?」
「な………っ!?」
エルザレスが、バリアーの外にいる一同が、俺の拳で壊れていくバリアーを見て呆気に取られていた。
数秒沈黙。
「ば……馬鹿な!?この結界を一撃で破壊!?族長の攻撃でも数発は耐えるというのに!!」
「しかもただの拳一つでだと……いやよく見るとあの拳、とんでもない魔力が纏っている!?あんな高レベルの武装化は初めてだ……!」
結界を張っている竜人たちは驚愕して激しく動揺していた。加えてショックも受けていた。
「あの高密度の結界、災害レベルのモンストールを何体も閉じ込められる耐久力を誇っていたそうです…。それを武装させた素手で一撃で……。相変わらずコウガさんは狂った……いえ、常識から外れてますね……」
「コウガ…やっぱり凄い!」
クィンは若干呆れて、アレンは目をキラキラさせて俺を称えた。
「やれやれ、これには非常に驚かされた…。この結界を一撃で壊す奴は普通いないと思っていたんだがな…。だがこれではっきりした。
お前は強い。それも…俺を脅かすくらいに」
エルザレスは俺を認めたようだ。俺が格下ではない、油断できない相手だと認識したようだ。
四人の竜人戦士たちに結界を張り直させて仕切りなおす。
「今度は故意には壊さねーよ」
「当たり前だ、というかいちいち張り直させなきゃならんから止めろ」
今度はエルザレスに向かって駆ける。相手も迎え撃つべく構えをとった。剣も無ければ魔法を放つ素振りもないからして、俺と同じ素手での格闘戦か。
とりあえず先制の左ストレートを放つ。拳には「硬化」を纏っている。さあこの一撃をどう対処する?
「―――ってあれ………ぅお!?」
気が付けば目の前にいたはずのエルザレスが消えていて、俺の頬に奴の拳がめり込んでいた。
地面と平行に飛ばされるもどうにか体勢を立て直して着地する。
「お前の拳を受けると大怪我しそうだな」
「――いつの間にっ!」
一息つく間もない。気が付くと真後ろにいたエルザレスが軌道の読めない拳を放ってくる。ほぼ全発くらってしまう。
(何だあのパンチ…!全く読めねー。威力も高いし)
「まだだ―――“
手の形を獅子の手のように変えて、さらに蹴りも加えた連続打撃が襲い掛かってくる。その動きはうねる蛇の様だ。咄嗟に「魔力障壁」を体に纏わせて連撃をどうにか防いだ。
「ほう、防御魔法を体に纏わせるとは器用だな。だが………」
俺は地面を蹴ってエルザレスから距離を取った。