「武術の方はまだまだ未熟のようだな」
「………仰る通り、だ」
返す言葉もない。それにしても奴のあの動き……あれが「
しかも固有技能もしっかり使いこなせてやがる。さっき消えたように錯覚したのは「隠密」でくらませたから。回り込まれたのも「隠密」と「瞬足」を上手く掛け合わせたからだ。
(固有技能の使い方が上手い。さすがは戦闘経験歴が百年以上ってところか)
武術が未熟。確かにその通りだ。今までの俺はただ力を振るっていただけにすぎない。「技」をきちんと使ってないし把握もしてない。それじゃあダメだ。
(……そうだ、俺にはあの固有技能があるんだった)
自分が持っているとある固有技能を思い出す。意識すれば今の俺でもそれなりに武術が扱えるはずだ。
「じゃあ行くぞ――」
エルザレスが次の攻撃に出る。身を前傾させてこちらに接近して、そこから超音速の拳と蹴りを放ってきた。
(さっきまでの攻撃とは違う――)
その一挙手一投足が、まるで龍が飛んでくるかのよう。くらえば体が弾け飛ぶだろう。
「あれは……“
「っ!?そんな危険な技を!?コウガさん…!!」
外からカブリアスとかいった奴の声が微かに聞こえた。あとクィンの切羽詰まった声も。
なるほど、要するに「強い技」ってことだ。
ならくらうわけにはいかねぇな……!
「はああああああ………!!」
意識を集中させて、今自分がこうありたいってことを思い浮かべて、その通りに体を動かす!
俺は蛇のように体をくねらせて躱し、飛んでくる拳と蹴りをタイミングよく弾いていなして受け流した。まあ途中何発かくらって体にかなり傷がついたが、ほぼ成功と言っていいだろう。
「お前、その動きは…!」
「見よう見まねでやってみたから粗さはあるが、ある程度は使えたぜ」
俺が今実践した動きは、「蛇竜武術」を真似たものだ。
俺の固有技能には「武芸百般」がある。これを意識すればどんな武術もほぼ真似ることが出来る。俺自身が未熟だからまだ完コピは出来てねーけど。
「だから、もっと来いよ。俺に武術をもっと見せてくれ」
挑発するように手招きをして余裕を見せてやる。
「迂闊にこちらの技が出せない、か。だったら次は魔法技だ」
俺の挑発に乗ることはしないエルザレスは、俺から距離を取ってから手を前に突き出して魔法を放った。
“
大量の赤い砂粒が飛んでくる。後ろへ飛んで躱す。砂が地面についた瞬間、大爆発して被爆した。
さらに砂粒が降ってくる。範囲が広い。まともにくらえば体がバラバラになってしまいそうだ。
「魔力障壁」を展開して爆発を防ぐ。ヒビが入るが気にしない。こちらの魔法を放つ隙が作れれば良いのだから。
“絶対零度”
パキイィンと、爆発ごと砂粒を全て一瞬で凍らせてやった。
「大した魔力だ―――“魔力光線”」
続いて赤い魔力光線がとんできた。こちらも青い魔力光線を放って応戦する。
拮抗したのはほんの数秒。俺の方が競り勝って光線がエルザレスに飛んでいく。
当たったら殺しちゃいそうだったので軌道をずらして被弾を避ける。エルザレスの左後ろ側が大爆発して地面が焦土と化していた。
「………この俺が、手心を加えられるとは。しかもお前のような若い人族に」
不満げに言葉を漏らすエルザレスの頬には一筋の汗が流れていた。
「今のやり取りで分かっただろ。今のあんたじゃ俺には勝てねー。そろそろ見せろよ、“進化”を」
「まあそういう約束だったからな。いいだろう、ここからはマジでやってやる。
先に言っておく……」
エルザレスから魔力やら覇気やらの上昇が感じ取れる。次第に体の形態が変わっていく。
「死ぬなよ」
「もう死んでるから心配ねーよ」
「そうか―――“限定進化”」
カッと光が生じる。光が止んだ先から現れたのは、巨大な赤い蛇のような龍だった。
全長10mはあるな。人型時の強靭な筋肉をさらに発達・巨大化させた腕と胴体。全身には硬度が増しているだろう赤い鱗が覆われている。さらに禍々しい角と牙を生やし、見るもの全てを射殺すかのような眼をしている。
「あの見た目とそれに相応しい圧倒的な強さ。竜人族の皆が、そんな彼を称えて、“
「これが……竜人族の長の真の姿…何てオーラと覇気…!対面しただけでも敵わないと思わされる…!」
「お母さんはあれとかつて互角に戦ってきた…。私が目指す強さは、あれをも上回るレベル……」
せきしんりゅう?赤き神の竜ってか……カッコイイ二つ名じゃねーか。能力値が初期より10倍近くも跳ね上がっている。見た目通りの強さを持っている……!
「では行くぞ!」
「ああ、こっちもさらにリミッターを外してやるからな!」
魔力を高めて攻撃態勢に入るエルザレスと脳がかけている力の制限を無理矢理外す俺。
――脳のリミッター 500%解除――
第二ラウンド開始だ。