最初の激突で空気が震えた。二回目の激突で地面が揺れた。
俺の黒い拳とエルザレスの魔力がこもった拳が何度もぶつかり合う。その度に俺たちがいる空間から尋常じゃない力の余波が飛び交って、悲鳴のような音が発生した。
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エルザレスが超凝縮されている筋肉質の腕を音速で振るって、魔力を纏った爪裂きを放ってくる。それは空間を削り取るかのよう。くらえば体が引き裂かれるだろう。
“身体武装”―――刀
腕を刀に変形させて爪裂きに対抗する。俺の黒い刀とエルザレスの爪が火花を散らして何度も激しくぶつかり合う。
けど俺は剣術が未熟な為、的確に人体の急所を狙ってくるエルザレスに競り負けてしまい、左腕が切り裂かれる。骨が見えるくらいに肉が抉られて使い物にならなくなる。とはいえそれは数秒の話。
だがその数秒の隙を突いてきたエルザレスが、強大な魔法を放ってきた。
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至近距離で激しい炎を纏った巨大な竜巻が俺を吞み込む。常人なら焼かれて灰になるか風の圧力か刃でズタボロになってただろう。
(つーか、俺が不死身のゾンビだと分かってから全く遠慮しねーな!?俺がゾンビじゃなかったら何度死んでたか!)
内心で愚痴りながら魔力を溜めて、魔法として一気に力を発揮する。
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水魔法・斥力の力を有した重力魔法・大地魔法といった三つの属性を複合させた魔法を発動。斥力で竜巻を弾くと同時に水素と原子を混ぜて大爆発させる。耳を劈くような爆音が響き、炎の竜巻は跡形無く吹き飛んだ。
「魔力障壁」を纏っている俺は無事だ。
「ぐっ!俺の複合魔法を難なく破るか……!“
悔しそうに歯嚙みしながらもエルザレスは次の魔法攻撃を放った。口から大地魔法と光魔法が複合して圧縮された弾丸が放たれる。あれは現代世界で表すならば圧縮粒子弾ってところか。
“
こっちも強力な電磁弾丸を飛ばして対抗する。雷電と光の複合魔法で創った弾丸は雷の如き速さで突き進み、エルザレスの魔法攻撃をぶち破った。
「これも破るか……!」
自分の魔法が破られるといち早く察したエルザレスは横へ回避する。俺の弾丸は地面に着弾した瞬間、雷の粒子を広範囲にまき散らしながら爆発した。
「あれをくらっていたら体が焼き焦げていた…。やはり魔力が尋常ではないな」
エルザレスは冷や汗をかいた様子だがまだ戦闘態勢を解こうとはしなかった。まだやる気らしい。
「複合魔法を発動させること自体が困難だというのに、あれ程の緻密で超強力な技を放つなんて……。レベルが違い過ぎます…!」
「力試しとか言っておきながら、二人とも殺す気で闘っていないか?」
外野にいる連中は全員唖然とした様子で俺たちの勝負を見ている。やっぱり俺たちのレベルはキチガイ領域に達しているようだ。
「エルザレス、リミッターを外した俺は加減するのが難しくなる。肉弾戦が特にそうだ。まだやるってんなら、死なないよう気をつけろよ」
「ふ……上等だ。お前はまだ全力を出し切っていねーな?少しでもいい、出してみろよ全力を。この竜人族でいちばん強い俺が受け止めてやる」
「そうかい。じゃあ―――」
その場で軽く跳躍と腿上げ運動をして体を解してから……
「マジで死ぬなよ」
全力でダッシュした。
「っ!?速過ぎて見えない!?」
「人族が出せる速度じゃありません……!」
「いや、どんな生物にも出せない速度だあれは……!」
エルザレスの周りを超音速で走り回る。奴の目は俺を追ってはいない。見えてないのかそれとも見ようとしてないのか。
「まったく、何だその速度は……。速過ぎて捉えられるかよ」
エルザレスはその場で地面に手を付けて魔力をこめた。
“胎動せよ・牙を向け――
すると地面が意思を持ったかのように形を変えて動き出した。手や剣の形となって、走り回っている俺に無数に襲い掛かった。
走るのを止めて無数の手や剣、槍を素手で蹴散らしていく。多いな、しかも威力も高い。
貫け”――
ズオオオオオオッ!!
「うおおっ!」
無数の攻撃をいなしている途中で地面から巨大な大地属性の剣が生えて俺を刺し貫いた。
腹を貫かれながらも剣を掴んで、力任せにボキッと折ってやった。
“
腹が塞がりきる前に、今度は上から光と炎を纏った岩石が無数に降り注いできた。それも、結界内を埋め尽くす規模で。
降り注いでくる無数の岩石を、俺は硬化した拳で悉く粉砕した。一撃一撃を音速で放ち続けること数秒間、俺に降ってきた岩石は全て粉砕した。が……
「っ!落ちた岩石が光って――」
俺の周囲に落ちていた岩石が赤く光り出した。咄嗟に上へ跳んだ。その際勢い余って天井となっていた結界をそのままぶち破った。
「な!?またも………っ」
結界を張っていた竜人戦士たちは俺をあり得ないものを見る目で見た。
そして俺が跳んだすぐに、案の定落ちていた岩石が一斉に破裂した。よく見ると小さな粒子が飛び散っている。あれをもろにくらうと蜂の巣にされていたな。
“魔力多光線”
エルザレスの魔法攻撃はまだ終わっていない。今度は口からいくつもの魔力光線を空中にいる俺に放ってきた。赤と緑と黄、三色の高密度な光線三つを、俺はまた素手で迎え撃った。
「うおおおおおらあああああ!!」
気合いとともに硬化した黒い腕にさらに魔力を纏わせて光線を殴りつける。ついでに体には「魔力障壁」を纏わせておく。
ゴ………ボシュウウウウウウウウウウウ
三条もの魔力光線を全て両の拳で殴り消す。リミッターを500%解除した俺の物理攻撃力は、あらゆる魔法をも素手で消し飛ばせるようになっている。