「おいおい………全力で放った魔力光線を素手でだと……」
さすがのエルザレスも、この結果には動揺を隠せなかった。外にいるアレンたちも当然驚愕と畏怖が混ざったリアクションをしていた。
「ったく、ヤバい魔法や魔力攻撃を何発も放ちやがって。ゾンビじゃなかったらマジで死んでたぜ。
じゃあ今度は、俺の番だ―――」
「っ―――!!」
着地すると同時に全力で走ってエルザレス目掛けて、「普通の拳」を思い切り放った。
(これなら死なない、よな―――)
渾身の一撃がエルザレスの鱗と分厚い筋肉に覆われた胴体に入り、真後ろぶっ飛ばした。
「ぐ、おおぉ………!!」
エルザレスは結界へ激突し、そして………
―――バリィイイイイイン!!
結界を完全にぶっ壊した。
「力の余波で、我々の結界を完全に破壊した……!」
「素手であの巨体をあんな勢いで吹っ飛ばすなんて……っ」
100m近く吹っ飛んだエルザレスが立ち上がるのを確認する。武装化はしなかったから内臓を破壊してはいない。まあ骨にヒビくらいは入ってるだろうが。
「おい!結界が破れた状態であれだけの規模て戦ったら、本国に被害が―――」
「心配すんな!ちゃんと被害が出ねぇ範囲で闘うから!」
カブリアスの警告にテキトーに返事してエルザレスの方へ駆ける。
「ぐ……魔力も纏っていないただのパンチで、ここまでのダメージを負うとは、もはや異次元だな」
少しふらつきながらエルザレスは再び構えをとった。チート化した俺の拳をくらっても生き残ってる奴は久しぶりかもな。それに武術の達人だったり超高レベルの魔法だったりと、こいつは本当に強い。
「バリアー結界が壊れたから強い魔法は使えないがまあいい。進化した状態での蛇竜武術でお前を地に伏してやるぞ!」
「来いよ、ぶっ飛ばす」
両者同時に飛び出して、拳を繰り出す!
“
軌道が読めない動きから繰り出される無数の拳を、こちらも無数の拳を放って応戦する。
バキバキガガガガガドゴゴゴゴゴゴ!!!
両者の拳が激突する度に空気が激しく震動して耳を劈く程の爆音や破裂音が響いた。まるで近代兵器を使用したドンパチのようだ。
「せい――っ!!」
溜めて放った一撃で無数の拳ごとエルザレスを吹き飛ばす。
ドゴォン!ボキバキッ!「ぐおおっ!」
腕を半壊させて衝撃波を与えたことでエルザレスにさらなるダメージを蓄積させる。だがまだ倒れることなく、ぎらつかせた目でこちらを見た。
「これで、最後だ……!」
“九頭龍武撃”
そして竜人族の最強の武術を繰り出してきた。
リミッター550%解除―――
対する俺もリミッターをさらに解除して全身を硬化させて、全力の一撃を放った!
―――ガキイイイィィィ……!!
金属と金属が打ち合ったような音が鳴り響いた数舜後、
――――ドオオオオオオオオ……ッ!!
大規模な衝撃波が生じて、地面が陥没して草木が吹き飛んでいった。
「これはマズいっ!」
観戦していたカブリアスや竜人戦士たちは咄嗟に「魔力障壁」を展開して、迫りくる衝撃波を防いだ。クィンも同様に展開してアレンを守った。
「なんて、衝撃波……!これだけ離れているのにこの威力……っ」
数秒経ってようやく余波が止んで震動も収まった。
俺の周りには巨大なクレーターができていて、草木も消え去ってしまっている。まるで近代戦争があったかのような跡だ。
「ふー…………何が力試しだよ。後半から完全に殺し合いみたいになってたじゃねーか。ここまで本気にさせられたのは本当に久しぶりだ」
愚痴りながらも楽しそうに地面に座り込む。ゾンビだから肉体的ダメージや体力の消耗は無いとはいえ、神経を使ったから何となく疲労があった。
つーかこんなに本気出したのは久しぶりだ。自分の力を存分に振るうのは面白いものだったんだな。
「何が、本気だ………。お前、まだ…余力残してただろ………。こっちはもう限界だってのに、よ………」
少し離れたところでエルザレスが大の字になって倒れ伏していた。息も絶え絶えでほぼ戦闘不能だ。
「いいや、ちゃんと本気で闘ったぞ。ただし発揮できる力の範囲でだが」
「んだそりゃ………トンチか?」
脳のリミッター解除にはまだ余地があった。この肉体が耐えられる脳の解除の上限は、今はせいぜい1000%までだ。けどそこまで解除してしまったらきっと奴を殺してしまうことになるかもだから、500%台まで止めておいた。まあ500%の俺とここまでやり合えるのは十分強い。
「久々に楽しい戦いができたぜ、エルザレス」
「俺も………退屈が一気に吹き飛んだ、ぞ。カイダ、コウガ……!」
エルザレスはぜぇぜぇと息を乱しながらも、にやりと笑った。
こうして俺とエルザレスによる勝負は幕を閉じた。
「とんでもない勝負だった……化け物どもめ」
カブリアスは皇雅とエルザレスを見て呆れた顔でそう言うのだった。