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「情報屋からの報告」2

 『―――僕が掴んだ王国の今の事情については、これが全てだ』


 時刻は…日本なら学校の一限目が始まろうとしている頃。鍛錬を始めるまでの間、部屋でくつろいでいたところに、携帯型の通信端末からコールがきた。相手は以前に元の世界に帰る手がかりについて調べてほしいと依頼した情報屋コゴル。

 その彼から興味深い情報をもらった。


 このアルマー大陸にAランクやGランクモンストールの群れが各地で発生したこと。人族の村や町はもちろん、大国であるドラグニア王国までも危機に陥ることになるということ。国王は王国に救世団と兵士団の全戦力を集結させて、侵攻してくるモンストールどもを殲滅しようとしていること。王国外の村や町には救世団の戦力を割かないつもりであること。その他諸々…。

 何故突然モンストールが、それもGランクの群れが各地で発生したのかは全く分かっていない。ただその規模は五年前に起こった大侵攻に並ぶだろうと予測されている。


 『災害レベルのモンストールは瘴気が充満している地底が主な生息場所のはずなんだ。それが地上に大量出現したというのはどう考えても異常だ。奴らに人並みの知能があるのだとすれば、地上を侵略するために這い上がってきたのだと予測されるが…。とにかく異常過ぎる事態が起きている…!』


 コゴルからさらにモンストールについて教えてもらう。地上に蔓延っているモンストールは、下位から上位レベルがほとんどであり、Gランク以上が地上にいるのはごくごく稀だとか。

 俺が落ちた地底にいあの化け物どもが地上に出てきて侵攻しているってわけか。そういえばあいつらはあの場所に完全に根付いていたよな。そんな奴らが一斉に這い出てくるのは確かに異常だ。

 それこそ、本当にモンストールが出てきたのかって考えられるな………。


 (ていうか、いたじゃん。知能というか、人語を喋ったモンストールが…!)


 俺を今のチート級の強さにレベルアップさせた要因となった人型のモンストール…。もしあいつが地底のモンストールどもを率いているのだとすれば、今回の大量出現にも納得できる。

 そして人型のモンストールが本気で大陸支配を考えているのであれば………たぶん、人族も魔族も終わることになるな。


 (あの計り知れないレベル…絶対にヤバい。エルザレスでも勝てない敵だろうな…)


 しばらく黙って考え事をしていたら、端末越しにコゴルが呼びかけてきたので悪いと応じて通話を再開する。人型のことはひとまず伏せておこう。ただでさえ向こうはかなり慌てている様子だしな。


 「そういえば、王国の全戦力は国だけに集中させてるって聞いたが、国の近くにある村や町は守らないのか?」

 『国王はどうやら……王国以外は全て切り捨てる方針らしい。国外にいた救世団のメンバーは全て呼び戻させて、今国内にいる兵士たちも一人として移動させないつもりだろう』


 国さえ守られれば、他は犠牲にしても止む無しってか。あのクズ国王とクソ王子が考えそうな方針だ。まあ合理的な判断だとも言えるか。というか戦力を分散できないくらい余裕がないのか?異世界召喚までしておいて、いったいあの国は何やってんだ?それとも元クラスメイトどもがまだ弱過ぎるのか?俺はこんなに強くなってるというのに。


 「というか随分詳しいな。王族でもなければ兵士団に所属しているわけでもないのに」

 『僕レベルの情報屋になると、兵士団・貴族・他国のあらゆる身分に繋がりを持ってるのさ。今日もドラグニアのある兵士から今回のことを聞いたんだ』


 顔が広いってことか。多くの人間と交流を持つことでより多くの情報を仕入れているようだ。


 『僕は……これから他国へ逃げようと考えている。王国外は兵士団や救世団に守られることはない。冒険者がいるとはいえ彼らだけでは災害レベルの群れには敵わないだろう。アルマー大陸にもはや安全の地はないと考えていい。

 そこで、すまないのだが……君から頼まれている例の手がかりの捜索はしばらく切り上げさせてもらいたいんだ』

 「亡命か、まあ賢い選択だな。お前から聞いた話だと王国も王国外もその他も、危険しかないようだしな。手がかりのことは気にするな。お前は自分自身の命のことを心配してろってな」

 『そうか、すまない…。ところでオウガ、君はこれからどうするつもりだ?僕は出航する前に今話したことを大陸全土へ広めるつもりだ。君も逃げるならすぐに海へ出る方が賢明だと思うが…』


 コゴルは俺の身を案じるかのような口調で尋ねてくる。対する俺は余裕ある調子で答える。


 「ここに残るよ。俺の実力は先日テメーに見せたもんじゃねーしな。群れがいくつ襲ってこようが問題無しだ」


 本当のことだ。Gランクが数十体かかってこようが大して苦戦はしない。全部ワンパン程度で討伐できる力がある。それに、ここ数日間は竜人族の戦士たちから武術を教えてもらって鍛えてたから、その成果をモンストールどもにぶつけてみたい気持ちもある。逃げるなんてもったいない、むしろこちらから災害に突っ込んでやろうと思ってるくらいだ。


 『確かに君は凄く強いのだが……無理をしてモンストールに殺されないようにしてくれよ。いつかは君を用心棒に雇ってみようかって考えているのだから」


 もう死んでいるから死ぬことないけどな。


 「俺はこの世界で誰かの下につく気はねーよ。こっちは心配すんな。逃げるならさっさと逃げな。海にもモンストールはいるから気をつけろよ」

 『ははは、それは残念だ。君が無事であることを知ったらまた例の手がかりについて探るとするよ。

 じゃあ、お互い生き残ってまた会おう』


 ブツン、と通信が切れて通話が終わる。俺はその場で伸びをして今話したことをすぐに整理する。


 「コウガさん!!」

 「おークィン、どしたー?」


 整理している最中に、クィンが焦った様子でノックもしないで部屋に入ってきた。


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