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「“助け”はしない」2

 「俺は…村や町の民を助けには行かねーけど、モンストールの群れと戦うだけなら、手を貸すぜ」


 ビシッとクィンに指をつきつけてそう言い切ってやる。しかしクィンたちは俺を見つめたまま黙ったままで、何も言おうとはしなかった。あれ……?何だこのスベった空気は?変なこと言ったかな…?


 「村や町の人たちを助けたりはしないけど、戦うことだけなら手を貸すってこと?」

 「あ、ああその通りだ。俺はただ戦うだけ。人の救助には一切手を貸さないって言ったんだ俺は」


 アレンの問いかけに俺はしっかり答えて改めて意思表示をした。ようやく理解できた様子のクィンは、安堵の笑みを浮かべてから不満そうな顔を向けてきた。


 「手を貸すと、最初からそう言ってくれれば良かったじゃないですか!断られたのだと本気で思ったんですから…!」

 「コウガ……分かりにくかった」


 アレンもクスクスと笑う。


 「ですが……コウガさんはその…民たちに危機が降りかかっても本当に助けようとはしないのですか?」


 不満顔だったクィンは再び深刻さを帯びた表情に変えて俺に問いかけてくる。


 「ああ。人助けしたいならクィンや冒険者たちだけですればいい。俺はそういうことには一切関与しないから」

 「……どうして、助けようとは思わないのですか?」

 「どうして?そりゃお前、誰かも知らない奴なんかを積極的に助けようとなんて、俺は思わないからだけど?」

 「そう、ですか……。私は、力ある者は力無き人々を助ける為にその力を使うべきだと考えています。コウガさんもそうあって欲しいと思ってるのですが…」

 「悪いけどクィンの考えには乗れないな。俺はそんな高尚な人間じゃねぇし、なろうとも思ってねーしな。まあアレンやお前らといった、仲間と認めている奴らなら助けようとはするけど」


 クィンは寂しげな顔をして少し俯いた。正義感溢れる兵士じゃない俺はクィンみたいに人助けを当たり前にすることはない。


 「それに俺はそもそも村や町には行かねーから。モンストールどものところへ直接行って、奴らを殲滅するつもりだ。転々と大陸中を移動して発生した群れを殲滅する……って感じで行こうと思う。さすがに全部は回れないと思うから、残った群れを、クィンたちが迎撃して殲滅する。

 そんな感じでどうだ?」


 俺のこれからの行動要項を簡単にまとめて伝える。


 「遊撃隊として回るってことですか……。コウガさんが取りこぼしたモンストールの群れを、私やアレンさん、あと冒険者たちとで相手をすると」

 「ああ。それにもし群れがクィンたちのところに来ても、粘ってくれさせすれば俺が来てそいつらもぶっ潰す。それで良いんじゃねーか?」

 「………分かりました。手を貸してくれる動機には納得がいきませんが、それでもコウガさんが戦ってくれるのは本当にありがたいです。よろしくお願いします!」


 全部を納得したわけではないようだが、クィンは俺の提案を受け入れて、よろしくの意を込めたお辞儀をして頭を下げる。


 「アレン、そういうわけなんだけど……アレンも参加してくれるか?」

 「もちろん。私も戦いたい。実戦を経てこそさらに強くなれるから。それにモンストールの侵攻でまた多くの人が死ぬのは、嫌だから」


 アレンはやる気十分といった様子で引き受けてくれた。ひとまず旅のメンバーの方針は決まったな。


 「そういうことなら、私たちも戦いに出るわ!」


 突然横から声がかかる。鬼族のセンだ。


 「セン!?それに皆も…!」

 「ロンは脚が利かないから戦いには行けないけど、ここにいる私と妹のガーデル、ギルドとルマンド。私たちもアレンと戦うわ!」


 意外なことに鬼族の四人も俺たちに同行すると言い出した。ロン以外の鬼たちのステータスを「鑑定」してみる。

 全員レベルは50~60ってところ。能力値もAランクの敵としっかり戦えるくらいはある。そういえば彼女たちも数日間竜人族たちと鍛錬を積んでいたな。その成果が出てるのかも。


 「足は引っ張らないって誓うわ。私たちもモンストールたちをこの世界から消し去りたいって考えてる。里を滅ぼした仇だから」

 「セン、みんな…」


 アレンはしばしセンを見つめてから俺に振り返り、こくりと頷く。それだけでアレンの意思は伝わった。


 「分かった。アレンと一緒に戦ってくれ」

 「心強いです!」


 クィンも嬉しそうに頷いた。これで改めてメンバーは決まったな。


 「そういうわけで、俺たちはこの国を出ることにする。短い間だったけど充実した日々を送れた。俺自身も色々学ばせてもらえたしな」

 「そうか。俺も久々にお前のような次元が違うレベルの者と手合わせができて楽しかったぞ。モンストールの群れとの戦い、しっかりな」

 「ああ。この国にも敵の群れが侵攻してくるだろうから、お前らも健闘を祈る」

 「この国には今、全ての序列持ち戦士がいる。全員でかかればたかがGランクの群れなど何の脅威にもならん。お前たちがここを出ることで俺たち竜人族の戦いを見せられないのが残念だが」


 エルザレスはサバサバした態度で余裕そうに言った。


 「じゃあ……もう行こうか?俺はこれから大陸各地を回りに行く。クィン、どの村あるいは町へ移動するんだ?」

 「そうですね……では、兵士団の駐屯地でもあるゾルバ村にしましょうか。あの村なら現地の兵士たちとすぐ協力をつけられそうなので」

 「分かった。じゃあ俺はその村の方角へ向かっている群れを最後に残して、それ以外の群れを先に殲滅するとしよう」


 それぞれの行き先を決めた俺たちは、準備をしたのちにサラマンドラ王国を出た。

 アレンたちはロンに行ってきますの挨拶を交わす。エルザレスやドリュウと別れの握手を交わす。クィンはメラルとかいった戦士と何か話していた。


 「よし、モンストールの群れを殲滅しに行きますか!」

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